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 アイドルというジャンルが、成熟を迎えた80年代半ば以降、すでに確立したアイドルの仕組み、アイドル論的な視点を自らの内に取り込んだメタ的なアイドルが出現する。メタ的なアイドルとは、アイドルに内在する虚構性を自覚し、アイドルを"演じる"ことができる自己批評的なアイドルを指している。

例えば、秋元康の手による「なんてったってアイドル」(85年)を歌った小泉今日子や、素人が"アイドルごっこ"をしたおニャン子クラブがその典型だろう。そして、秋元康が開拓したメタ路線の正統な後継者と言えるのが、97年につんく♂のプロデュースで結成されたモーニング娘。となる。

 そのような意味において、モー娘。は、非常によく"設計"されたアイドルである。2ちゃんねるには、モー娘。およびハロプロについて語る板だけで(羊)(鳩)(狼)の3つの板があり、中でも「雑談2」のカテゴリーに置かれたモー娘。(狼)は、04年にニュー速VIPが開設されるまで、2ちゃんねる屈指の読者数、書き込み数を誇った。ネットの普及によって、ファンの誰もが自身のアイドル論を語り、それを発表する場を得た。

モー娘。は、そこに格好のネタと素材を提供した。そこでは、マジメなアイドル語りから「石川梨華ってウンコするの?」といったものまで、ありとあらゆる「論」が飛び交った。

 にもかかわらず、00年代のアイドル評論が、いまいち盛り上がっていないように感じる背景には、3つの理由があると推測される。まず、語る場所が紙からネットに移ったことで、限定的な場所でしかアイドル論が伝播しなくなり、タコツボ化したこと。次に、語り手が評論家からファン一人ひとりに移ったこと。そしてもっとも大きな理由として、アイドルファンの言葉が、メタ的であるがゆえに「批評しやすい(語りやすい)」対象ばかりに集中し、グラビアアイドルやアイドル女優にはあまり向けられなかったということが挙げられる。

送り手の意図を越えて"発見"されるアイドル

 そういった中でも、00年代以降のアイドル評論で注目すべき存在として「楽曲派」とも呼べる一群がある。近田春夫の「考えるヒット」(「週刊文春」/97年~)、松本亀吉の「歌姫2001」(「Quick Japan」/97~98年)、 ライムスター宇多丸の「マブ論」(「BUBKA」/00年~)など、アイドルの楽曲中心に批評する評論家たちの総称だ。彼らの評論からは、70~80年代の職人芸的アイドル歌謡へのリスペクトが窺えるのが特徴である。

 こういったアイドル歌謡見直しの流れと、ネットでのアイドル語りの流れが、(半ば奇跡的に)合流して、ブレイクに繋がったのがテクノポップアイドルユニットのPerfumeだ。

「Quick Japan」(太田出版/07年)第74号で組まれたPerfume特集の中では、編集者・ライターのさやわかが「『アイドル』の意味を回復する3人」と評し、読売新聞(07年10月24日/夕刊)に掲載された宇多丸と掟ポルシェの対談では、「アイドル界最後の希望」と絶賛している。

そんな彼女たちのブレイクの過程を最も的確に表現しているのは、ファンサイト「hype」の次のような紹介文だ。

「ここは、木村カエラと掟ポルシェと宇多丸とミドリとBase Ball Bear小出と凛として時雨ピエール中野とダイノジ大谷と田上よしえとSPECIAL OTHERSと下井草秀と菊地成孔と亀田誠治と松本亀吉と大谷能生と佐々木敦と辛酸なめ子とプロレスラー佐藤光留と久保ミツロウと羽生生純とばらスィーと東村アキコと深町秋生と〈~中略~〉ニーツオルグネットラジオと彼女ら自身の実力と魅力のおかげで売れた、Perfumeのファンサイトです」

 すなわち、Perfumeに触れた人たちはそれぞれ、自分だけが発見したものとして彼女たちの魅力を語り、さまざまな人々が口々にその魅力を語ることで、さらにその魅力に触れる人の輪が広まっていった。誰かの言葉がネットワークを通して話題になり、それを受けて、さらに言葉が乱反射したというわけだ。Perfumeはそうやってジャンルの枠を飛び越え、幅広いファンを獲得していった。

 また、Perfumeに限らず、「2ちゃんVIP板のアイドル」を経て「ブログの女王」となった中川翔子、「グラビア界の黒船」リア・ディゾン、「電子の妖精初音ミク。ここ数年、ネット経由でブレイクしたアイドルは、従来のマスメディア発のアイドルとは違った場所で"発見"されたアイドルたちだ。

 Perfumeのプロデューサーである中田ヤスタカは、Perfumeを「誰がコントロールしているのかわからないユニット」といい、初音ミクを制作したクリプトン・フューチャー・メディアの佐々木渉は「キャラクターのイメージが固定されていないからこそ、ユーザーさん一人ひとりが"理想の初音ミク"を描くことができるのではないか」という。

 00年代後半のアイドルは、送り手の意図を超越したところで、ファンの手で「発見される」ものとなった。そういった状況に比例して、それを語る評論もまた、ネットを通してアイドルファン自身の手によって築き上げられているといえる。
(文=岡田 康宏/サイゾー5月号より)



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