清水ミチコの芸を見ているときに感じる、この圧倒的なすがすがしさは何だろう。ひとつひとつのネタが晴れ晴れとしていて、全く嫌味がない。
ものまねや歌マネというのは、どうしても「似てる・似てない」のレベルで語られてしまうことが避けられないものだ。だが、清水の見せるものまね芸は、初めからそういった次元を超越しているようなところがある。
意識して客観的に判断しようと思えば、できないことはない。彼女のものまねレパートリーの中には、本物瓜二つというくらいそっくりなものもあるし、それほど似ていないものもある。
ただ、そんな個々の質の違いが問題にならないくらい、ネタとしての水準が高いのだ。顔や声を似せるだけではなく、対象者の気持ちを真似ようとすることで本物により近づく、というものまねの大原則を守りながらも、ネタの中に自分なりの解釈とちょっとしたいたずら心もそっと忍ばせている。
こういうタイプの芸人はしばしば、自分の内からわき上がってくる自己顕示欲と表現欲の波に溺れそうになってしまうものだ。だが、不思議と清水にはそれがない。肩に力が入っていなくて、いつも自然体を保っている。一般人の主婦がなぜかテレビの世界に紛れ込んで、ちゃっかりとおいしいところだけをかすめ取っていくような、火事場泥棒的なスタンスをデビュー以来ずっと保っているのである。
彼女がやっていることは、メジャーでもなければマイナーでもない。肩書きは、芸人でもなければ女優でもない。
そんな清水は、女としての自我の問題にも縛られていない。芸人でもタレントでもアナウンサーでも、テレビに出てくる女性たちは皆、できる女だと思われたいとか、結婚して幸せを掴みたいとか、その類の女性としての野望や欲望が顔に書いてある人ばかりだ。
だが、清水は、初めからこのレースに参加するそぶりすら見せようとはしなかった。デビュー直後に結婚、出産を経験して、形式的にも「いち抜けた」状態。その後も、あまり肩ひじ張らずに、フツーに主婦業をこなしながら、フツーに仕事も続けているだけだ。平然とこんなポジションに立っている女性タレントは、あまり見たことがない。
11月15日、人物ドキュメンタリー番組『ソロモン流』(テレビ東京)にて、清水ミチコが「賢人」として取り上げられた。彼女のこれまでのキャリアを振り返りながら、普段の生活ぶりを密着取材していく、というもの。仕事でもプライベートでも、いつも自然体を貫いている彼女の魅力が伝わってくる内容だった。この番組の中でも、本人が自分自身についてこう語る場面があった。
「私って、『適度に不真面目』っていうのしかできないんだと思います」
初めから正面突破は狙わない。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ
日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる"お笑い愛"で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は11月30日予定。ご期待ください。
●イベントのお知らせ
ラリー遠田presents
「お笑いトークラリー~M-1前日スペシャル~」
【出演】ラリー遠田 / 業務用菩薩
【会場】ネイキッドロフト
【日時】12/19(土)OPEN11:30/START12:00
前売¥1500/当日¥1800(共に飲食代別)
11/24からNaked Loft店頭にて電話予約を受け付けます。ローソンチケットでも11/24から販売します(Lコード:32677)。詳細は以下より。
http://owa-writer.com/2009/11/1219m1.html
●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」
【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」
【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」
【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」
【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由
【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」
【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」
【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化
【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」
【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」
【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける
【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感
【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
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