ダウンタウンの人気が全国区で勢いを増していた90年代前半、今田耕司といえば、世間ではまだ「ダウンタウンファミリーの一員」といった程度のイメージでしか見られていなかった。当時の彼は、ほとんどダウンタウンの番組にしか出ていない状態だったからである。
だが、現在では、今田をダウンタウンの取り巻きの1人にすぎないと思っている人はほとんどいないだろう。彼は90年代後半から地道にテレビで活動の幅を広げ、今ではバラエティー番組の司会者としては業界内でもトップクラスの評価を得ている。誰を相手にしても確実に番組を盛り上げる高いスキルを持っている今田は、今後もテレビ界で引っ張りだこになることは間違いないだろう。
今田の司会術の極意は、「共感、賞賛、謙虚」の3点に集約される。この3つに的を絞って腕を磨くことで、彼は独自の芸風を確立することができたのだ。
第一に、今田は、多くの人が何となく感じていることを的確に代弁することを得意としている。それによって、共演者や視聴者の共感を誘って場を盛り上げることができるのだ。彼はいつでも、徹底して視聴者の目線に立つ。そして、誰もが納得できる最大公約数的なコメントで場の空気をつかんだ上で、その目線の置き方の巧みさできっちり笑いを取る。見る側の気持ちの半歩先を行くこのやり方こそが、今田にしかできない離れ業だ。
第二に、今田は決して他人を悪く言わない。共演するタレントがスベったりミスをしたりしても、冷たく突き放したりせずに、優しくフォローして笑いに変えてしまう。
そして今田は、司会者でありながら無理にでしゃばるようなところがない。他の人を輝かせる名人でありながら、それをことさらにアピールするようなところがなく、あくまでも縁の下の力持ちに徹しているのだ。この謙虚さこそが、今田が他の司会者芸人と一線を画するところである。
この今田流司会術の「3つの極意」の根底にあるのは、「他人を生かす」という明確な意識である。今田は、常に視聴者の目線に立ち、共演者を輝かせようとする。彼は他人を切り捨てないし、他人を道具として見るようなところがない。むしろ、自分が前に出るのを多少犠牲にしてでも、他のタレントに花を持たせようとするようなところがある。
今田がそういう自分なりのスタイルを確立できたのは、ずっと目の前で見てきたダウンタウンの芸風を反面教師としているようなところがあるのではないだろうか。
若手時代、今田は笑いの技術をダウンタウンの2人に鍛えられた。彼らの姿をいちばん近くで見て、そこから何かを学ぼうとしていたのだ。
今田は、そんな2人を間近で見て、同じジャンルで勝負しても自分には勝ち目がない、と悟った。その上で、自分にできることは何なのかということを突き詰めて、他人を生かすという手法に目覚めたのではないだろうか。
1月12日、ORICON STYLEにて、アンケート調査に基づく「2010年版 好きな司会者ランキング」が発表された。1位に輝いたのは、昨年に続いて島田紳助。2位は明石家さんまだった。さらに、今田耕司が、他のベテラン司会者を抑えて初めて3位にランクインした。
「ダウンタウンの腰巾着」と揶揄された下積み時代を経て、日本有数のお笑い司会者の地位に上り詰めた今田耕司。敵を作らず、先輩からも後輩からも支持される心優しき俊才は、周囲を明るく照らし出すお笑い界の大きな太陽になった。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ
日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が書籍化、11月30日に発売されました。
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