現代のテレビバラエティーの世界では、「うまいことを言う」という技術の価値が軽視されがちである。駄洒落は「おやじギャグ」として忌み嫌われているし、1つの言葉に2つの意味を持たせて笑いを取るという手法もそれほど一般的ではない。

テレビに出る若手芸人が、トークやネタの一部に、このような言葉遊びをさりげなく忍ばせたりするケースはある。だが、それはあくまでも例外にすぎない。ほとんどの芸人は、テレビの中でそういう方向性の笑いを追求したりはしない。

 その大きな理由としては、言葉遊びによる笑いの多くが、理解するのに多少の時間を要する「考えオチ」の笑いであり、瞬間的な爆発力が求められるテレビの世界とは相性が悪い、ということがある。今どきの視聴者には、「考えて納得して笑う」というプロセスをいちいちたどってもらうことは期待できないのだ。

 落語のオチにあたる「サゲ」の多くには、ダブルミーニングを使った言葉遊びが含まれているし、落語家が余興や大喜利でなぞかけを披露するのは珍しいことではない。「うまいことを言う」という技術は、寄席の世界では生きながらえているが、テレビの世界ではほぼ死滅していたのだ。

 そんな中で、Wコロンねづっちが「なぞかけ芸」で注目を集めているというのは、時代に逆行するようにも見える驚くべき事態である。彼は、浅草を中心に活動する漫才師であり、「バッチグー」などと古臭い死語を連発して、やたらとなぞかけを言いたがる「なぞかけ漫才」を持ち芸としている。漫才の中では、自慢げになぞかけを披露するねづっちのズレっぷりに相方の木曽さんちゅうがツッコむという形で、一種の飛び道具としてなぞかけが用いられている。

 そんな彼が、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)『アメトーーク』(テレビ朝日系)などの番組で、与えられたお題で瞬時になぞかけを返す技を披露したところ、それが話題を呼んだのである。彼は、幼い頃から鍛え上げた「うまいことを言う能力」によって、驚異的な速さでなぞかけを繰り出すことで、言葉遊びをテレビで通用するエンターテイメントにしてしまった。

速さだけを追い求めることによって、時代遅れの言葉遊び芸が、新たな感心と感動を呼び起こしたのである。

 彼がブレイクした要因の1つには、「なぞかけ」を巧妙にパッケージングしたことが挙げられる。なぞかけとは本来、単発で披露されるものであり、ネタを披露したらあとはそれぞれの受け手にその意味を考えてもらうことしかできない。いわば、本来のなぞかけ芸は、かなりの割合で「お客さん任せ」の芸になってしまいがちなのである。

 だが、彼は、それを分かりやすく見せるためのフォーマット作りにこだわった。なぞかけネタが頭の中でまとまると、すかさず元気よく「整いました!」と声を張り上げる。そして、ネタを披露し終わると襟元を立てて、「ねづっちです!」と決めポーズを作る。この一連の流れができたことで、なぞかけパフォーマンスの型が明快になり、誰もが楽しめるようになった。

 さらに言えば、ここで最も重要なのは、「整いました!」「ねづっちです!」と言うときの彼の屈託のない笑顔である。うまいことを言う人間は、往々にして「してやったり」という表情、いわゆる「どや顔」をしてしまいがちだ。それが見えてしまうと、観客はうまいことを言うことの面白さをなかなか素直に受け入れてはくれなくなる。だが、ねづっちは素直になぞかけを愛し、うまいことを言うことそのものの快楽に溺れている。

そんな彼の無邪気な笑顔が、時代を超越して見る者を圧倒するのである。

 なぞかけブームを牽引するねづっちは、持ち前の超絶技巧によって、うまいことを言うことの価値を現代によみがえらせてしまった。お笑い界の「音速の貴公子」は、昭和の香り漂う芸風で今日も淡々となぞかけを整えている。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)



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