「クリーンな政治」(菅直人首相)を標榜する菅新政権が不明瞭な事務所経費で揺れている。
荒井聡国家戦略担当相、蓮舫行政刷新相、川端達夫文部科学相の現役3閣僚が、実態のない架空の事務所を「主たる事務所」として総務省に届け、使われたはずの事務所経費の使途がいまだ検証できていないという異常事態が続いているのだ。
荒井氏の政治団体「荒井さとし政治活動後援会」は、東京都府中市の知人宅を過去7年間にわたり事務所として届け、家賃や人件費相当の経費として6年間で約4,200万円を計上していた。ところがこの知人が「家賃は受け取っていない。たまに郵便物が来るのを整理していただけ」と各メディアに証言したため、実態のない幽霊事務所の存在が明らかになった。
また、蓮舫氏は自らの事務所を「民主党東京都参院選挙区第3総支部」として報告。2006年から08年の3年間で172万円の経費を計上していた。ところが、報告書に記載されている事務所の場所は東京都目黒区の自宅。蓮舫氏は自宅に事務所としての実態がないことをすでに認めている。さらに労組出身の川端氏も、87年から08年までの期間に事務所経費として約3,700万円を計上していたが、事務所所在地は出身母体である東レ労働組合の幹部宅や公設秘書の自宅だった。
これについて、「法的には政治資金規正法違反ではないと民主党は言っていますが、限りなくグレーであるとも言えます」と語るのは、政治ジャーナリストで「日本BS放送」報道局長の鈴木哲夫氏だ。
「自民党時代にもこうした問題が次々に発覚したが、そのときは赤城徳彦農相が辞任に追い込まれるなど全員が詰め腹を切らされた。菅内閣が『クリーンな政治』を本気で掲げるならば、会期を延長してでも国会の場でしっかりと説明をすべきでした」
また、メディアが積極的に報じていない点も問題だと指摘する。
「前回の自民党のときは、大手メディアがこぞって報じて反自民の世論を形成した。
実際、菅首相は「党の調査で問題なしと聞いている。一つの結論が出たのではないか」と火消しに躍起。逃げ得とばかりに国会を閉幕させ、説明に応じる気配はない。
自民党の赤澤亮正衆院議員は、先日閉幕した国会で3閣僚に対する質問趣意書の提出に携わり、荒井氏や蓮舫氏の実態のない「事務所」を実際に現地調査するなど、本件に深く携わっている議員の一人。問題をこのまま終息させていいのだろうか? あらためて今回の事務所経費問題のポイントを聞いた。
――民主党の3閣僚がしたことがなぜ問題なのか、基本的なところからお聞かせください。
赤澤 各政党の活動費は政党助成金といって税金でまかなわれています。そのお金は政党から政党支部、後援会事務所などへも流れているわけです。当然、収支を明確にしなければならない。そのために政治資金規正法という決まりがあるわけです。で、今年の4月から1円以上の領収書を求めに応じて公開するという決まりになった。お金の使い道を国民が知ることができる仕組み、というのが大前提です。
――つまり荒井大臣も蓮舫大臣も、事務所経費として家賃や人件費にお金を使ったと報告しておきながら、実際はそんなところに事務所はなかった。ではそのお金は何に使ったのか説明しなさいということですね。代議士は実際に現場にも行かれていますよね。
赤澤 蓮舫議員のご自宅に行ってみると、お父さんとお母さんとご主人の表札の他に、民間会社の表札がいくつかかかっていました。ところが選挙事務所は表札すらない。会社の表札はあるのに、です。荒井議員の後援会事務所にいたっては、都心から遠く離れた府中。閑静な住宅街にある集合住宅で、今も人が住んでいますよ。荒井氏は「後援会は解散して今はもうない」なんて言ってますが、最近まであそこで後援会が活動していたと思える客観的状況でさえないわけです。
――実際、蓮舫議員も荒井議員も実態がない点を認めています。荒井議員の場合はその建物に住んでいる「知人」が、家賃ももらわず後援会としても使われてないと言っていますし、蓮舫議員も事務所としての実態はなく、172万円はコピー機のリース代などに使ったと。
赤澤 事務所としての実体がないのに「ある」と報告をしていたのだから、なぜ嘘をついていたのか、そこに使ったはずのお金を何に使ったのか、証拠書類とともに報告する必要があるのは当然です。非常にシンプルな話です。
――過去に自民党でも赤城徳彦氏、松岡利勝氏、太田誠一氏の各元農相が、同じく事務所経費問題を追及されたことがありました。
赤澤 そのとき、赤城氏と太田氏は辞職。松岡氏が自殺されたことはご承知の通りです。太田氏にいたっては領収書を提出したのに辞職まで追い込まれた。それなのに民主党は領収書も出さなければ、説明もしていないんですよ。
――蓮舫議員は「領収書はすべて公開した」と言っています。
赤澤 非常に重要なので皆さんに勘違いしないでいただきたいのは、公開なんてしていないんです。彼らが公開したと言ってるのは、一部の報道陣に限定して、二時間という時間制限のもとに、疑惑があるとされている年数の一部の期間の領収書を、しかも3人分を同時に出してきて、なおかつコピーも禁止という、異常な条件下で「公開した」と言っているんです。
―それでは一般の国民が知ることがまったくできません。やましくないならPDFにしてウェブ上で公開してもいいはずです。むしろ積極的に公開することで疑惑が晴れると思うのですが。
赤澤 おっしゃるとおりで、公開というのは最初に申し上げたように、あくまで一般国民が見ようとしたときに見られるというのが大原則ですよ。それが政治でいう公開です。ましてやコピー禁止なんて論外だし、時間制限なんてまったく意味不明です。
――ということは、民主党3閣僚の事務所経費はいまだに使途が全然分かっていない?
赤澤 そういうことです。領収書を積み上げた金額が、届出と一致しているかどうか、実はいまだにまったく検証されていない。極端に言えば、荒井議員が一年間で700万円と言ってる事務所経費について、たとえば100万円単位で領収書が足りてないなんてことも、まったく否定できないという状態なんです。
――彼らは閣僚としての責任を果たすために何をすべきだとお考えですか?
赤澤 今回のような疑惑を指摘されている閣僚がすべきことは二つです。ひとつは領収書の公開。それと誠意ある本人による説明。ごくごく、あたりまえのことです。
――菅首相の任命責任もありますか?
赤澤 当然あります。さらに細野豪志幹事長代理の責任も大きい。自分に直接関係ない事務所経費問題でしゃしゃり出てきて、「調べた結果、問題はなかった」なんて言った。そもそも身内の調査なんて誰が信用するかというのが一点。さらに、キャミソールだCDだとおかしなレシートが混ざっていたにも関わらず、そんなイカサマ報告書を示して「適正だった」なんて断言してしまった。国民の目をあざむき、身内をかばう。辞任に相当する非常に重い責任がある問題だと思っていますよ。
* * *
奇しくも問題が発覚する直前の今月6日、参院選の応援演説に訪れた大阪で蓮舫氏は、「事業仕分人がやってくる!」と題されたイベントに参加し、次のように演説している。「政治とカネの問題で、もう二度と皆様にご懸念、ご疑念を抱かせないクリーンな政治をお約束させていただきたいと思いますが、皆様いかがでしょうか!」
領収書の提出を頑なに拒みながら参院選のドサクサへ突入し、「ご懸念」にも「ご疑念」にも一切答えるそぶりを見せない菅内閣。もはや民主党のお家芸ともいえる今回のブーメランを、菅首相と3閣僚はこのままかわし続けることができるのだろうか。
(文=浮島さとし)
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