バッファロー吾郎ほど、お笑い業界の内外で評価の分かれる芸人も珍しいだろう。一般的なテレビ視聴者の立場から見れば、「オー、ポカホンタス!」でおなじみの木村明浩は一種のスベリキャラ、竹若元博は目立たない地味キャラ、という程度のイメージしかないかもしれない。
さらに言えば、「キングオブコント2008優勝」という彼らの経歴も、必ずしもプラスに作用しているわけではない。演出面の不備から、数々の問題が噴出したいわくつきの大会を制した、疑惑の王者。それが必ずしもうがった見方だとは言えないくらいに、そのような認識も多くの視聴者の間では共有されている。
だが、お笑い界内部では、彼らの功績を高く評価する声は多い。第一に挙げられるのは、イベント企画者としての実績だ。彼らは、お笑いの真剣勝負を突き詰めた結果として、芸人同士が一対一の大喜利バトルを繰り広げるイベント「ダイナマイト関西」をスタートさせた。まだM-1すら始まっていない、お笑いブームの兆しも見えない1999年にひっそりと動き出したそのプロジェクトは、現在では後楽園ホール、ディファ有明といった巨大会場で行われる日本最大規模の大喜利イベントに成長している。それ以外にも、彼らがプロデュースして成功させたイベントは数多い。テレビとは一線を画すライブの世界で、彼らは着実にお笑いファンの心を掴んでいるのだ。
第二に、後輩芸人の育成能力である。バッファロー吾郎の2人は、吉本興業の若手養成システムの流れから弾かれてしまった芸人の中から、面白い才能を持っている人間を選び出して、彼らにライブでネタを披露する機会を与え、積極的に売り出していった。
そんな「バッファローファミリー」に数えられるのは、ケンドーコバヤシ、友近、笑い飯、千鳥、ザ・プラン9、南海キャンディーズといった面々。女子中高生の観客が集まる若手のライブでは活躍できないでくすぶっていた彼らを、「面白いから大丈夫」と励まして、自分たちの手で売れっ子に育て上げていった。落ちこぼれかけていた芸人を復活させるということにかけて、バッファロー吾郎ほど目覚ましい功績を残している芸人はほかにいない。ファミリーと呼ばれる芸人たちは皆、バッファロー吾郎の2人を心から尊敬している。2人のプロデューサーとしての実力は、バッファローファミリーの面々の現在の活躍ぶりが示している通りだ。
もちろん、本業のネタ作りでも、彼らの姿勢は一貫している。くだらなくてバカバカしいことを徹底的に突き詰める。プロレスやマンガの知識を詰め込んで、固有名詞を使ってマニアックな笑いを取ろうとする。そのスタイルは、若手時代にはあまり評価されなかった。だが、ケンコバが同じような芸風で活躍し、『アメトーーク』(テレビ朝日系)のような人気番組でも芸人同士でマンガやプロレスの話をするのが普通になっている現代から見れば、ようやく時代がバッファロー吾郎のコントに追い付いた、とも言えるほどだ。
世間では、テレビに出て人気を獲得して、最後は司会者になることが芸人の唯一の出世コースのように思われている節がある。だが、芸人がお笑いを極めるための道はそれだけではない。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
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