6月2日、女優の前田愛とタロット占い師の濱口善幸が、都内で行われた映画『マイ・ブラザー』の試写会に出席した。濱口善幸は、お笑いコンビよゐこ濱口優の実弟で、4月からは兄と同じ「松竹芸能」に所属し、タレントとしても活動している。

報道陣から兄・優と倉科カナとの熱愛報道について話を振られると、取材慣れしていない戸惑った様子を見せていた。

 デビュー当時のよゐこは、関西では「シュールコントの旗手」として知られていた。だが、お笑いの世界で言われる「シュール」とは一体どういうことなのか、改めて考えてみると意外と難しい。シュールとは、フランス語の「シュルレアリスム(超現実主義)」の略語である。1920年代にフランスで興った前衛芸術運動の総称で、まるで夢の中を覗いているような不条理な世界を描くものだった。

 お笑いでは、非現実的な設定を扱ったり、セオリーに反する難解なネタに対して「シュール」という呼び名が与えられることが多い。簡潔に言えば、単純で分かりやすい笑いという意味の「ベタ」の反対語として、複雑で分かりにくい笑いを意味する「シュール」という言葉が用いられるのである。

 かつてのよゐこの持ちネタの多くは、妙な設定やキャラクターを使って、2人が淡々とした語り口で話を進めていくものが多かった。特に、ボケとツッコミがはっきり分かれたスタイルの芸人が多い関西では、彼らのネタは異彩を放っていた。そこからシュールな笑いが売りの芸人だというイメージが広まっていったのだろう。

 だが、彼らは芸術的な笑いを気取ってシュールコントを作っていたわけではないし、彼らの中にそういうものを志向する要素があったわけでもなかった。その後のよゐこのテレビタレントとしての活躍ぶりを見れば、それは明らかだろう。

シュールの一語では説明しきれない個々人の魅力によって、よゐこの2人は人気を獲得していったのだ。

 濱口は、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)の抜き打ちテスト企画で、それまで知られていなかった「おバカキャラ」という一面を発掘された。自分の名前をローマ字で「hamaguche(ハマグチェ)」と書いてしまうほどの圧倒的なボケぶりで爆笑を獲得。その後は、『いきなり!黄金伝説。』(テレビ朝日系)のサバイバル企画でも活躍して、小中学生にまで支持層を広げていった。濱口は、知識がなくても物怖じせず、誰に対しても陽気で親しみやすい。子どもたちはそんな彼のキャラクターを自然に読み取り、共感を寄せるのだ。

 また、有野晋哉も『ゲームセンターCX』(フジテレビTWO、他)では「有野課長」としてゲーム攻略に闘志を燃やすなど、自分の趣味を生かした企画を多数手掛けるようになってきた。見た目も芸風も地味ではあるが、ぼんやりした口調で鋭い一言を放つ彼は、他の芸人には真似のできない何とも味わい深い芸人へと成長した。

 よゐこの魅力は、自然体であるというところにある。2人とも肩の力が抜けていて、ロケでもトークでもコントでも、いかなるシチュエーションにおいても普段通りの状態をキープすることができる。長寿番組『めちゃイケ』の中でも、生真面目なナインティナイン、暴力的で攻撃的な極楽とんぼという2組とは全く異質な芸風で、一歩引いた立場にいる。

 彼らにかつて与えられたシュールという称号も、周囲に流されず自分たちのやりたいことを貫く姿が結果的にそういうふうに見えてしまっただけだ。彼らは、難解なコントを作りたかったわけではないし、芸術的な笑いを気取るつもりもなかった。ただ素直な気持ちでそういうネタを演じていただけなのだ。徹底した脱力で独特の地位を築いた2人は、シュールの皮をかぶった気ままな自由人だ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)



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