20世紀を代表する「キザでイヤミな男」と言えば、『ドラえもん』に出てくるスネ夫に並ぶ者はいないだろう。豊富なプラモデルやラジコンのコレクションを見せびらかし、芸能界にコネがあることを堂々と自慢する。
だが、21世紀を迎えて、キザ男のあり方にも微妙な変化が起こっている。スネ夫のように、自分の金やコネを露骨にアピールするような生き方は、バブル期までの日本においては、一定のリアリティがあった。
だが、バブル崩壊以降、このようなタイプのキザ男は減少の一途をたどっている。金を持っていることをひけらかすこと自体が、あまり格好いいイメージではなくなってきているのだ。言わば、絵に描いたような「金持ち」であることの価値が下がっているのである。
むしろ、21世紀に入って新たに台頭してきたのは、エコロジー志向、グルメ、サブカル趣味など、金のかからない思想や流行を持ちネタとして、それをこれ見よがしにアピールしてくるタイプの人々である。彼らは、「地球にやさしい」「おいしいレストランを知っている」「本当のおしゃれが分かる」など、それ自体としては誰にも否定できないような絶対的な価値観を盾にして、傍若無人に遠回しな自慢を繰り返す。金やコネのような分かりやすい尺度がない分だけ、キザ男としてはこちらの方がはるかに厄介だ。
そんなキザ男の生態を描くコントで人気を獲得したのが、フルーツポンチの2人である。フルーツポンチの村上健志が演じるイヤミでウザいキャラクターは、いかにも日常にいてもおかしくないと思われるような絶妙なリアリティを備えていた。
「アンダーグラウンドぶる男」では、村上演じるキザな男が亘健太郎演じる友人を自分の部屋に招待する。亘が「おしゃれな部屋に住んでるんだな」と話を切り出すと、「いや、普通っしょ。北欧のカフェとか行ったらだいたいこんな感じだし」と返してくる。「これ絶対正解」と言いながらお香をたき始め、レコードを聴いては「やっぱアナログだと音の深み全然違うかんね」と悦に入る。
ウザったい自慢を続ける村上だが、ネタの後半では知識が浅いことを見抜かれてしまう。そこで何とか持ちこたえようと必死になる男の心の動揺まで、村上は演じきってみせる。彼は、演技力もさることながら、天然の「訳知り顔」を持っている。そのウザったいキャラが彼の外見にもマッチしているので、見る側はついつい笑ってしまうのだ。
コントとは、現実離れした架空のキャラを演じればいいというものではない。演じる側が、自分の中にある引き出しを開けて、それを誇張することで面白いキャラが生まれる。フルーツポンチのコントにおけるキザ男も、村上の中にもともとあった「気取り屋」の一面が生かされたものだ。彼が気取り屋の要素を持つことは、極度の音痴であることからも明らかだろう。
一方、こういう人間に直面したときの亘の対応も実にリアルだ。『ドラえもん』ののび太は、スネ夫に自慢されると素直に悔しがり、ドラえもんに泣きつく。だが、村上演じる底の浅いウザキャラは、人にうらやましさを感じさせない。ただ苦笑いしてその場をやり過ごすしかないような気分にさせるのだ。亘は、持ち前の実直な人柄を生かして、キザ男に直面して思わず苦笑してしまう人間を見事に演じてみせる。
フルーツポンチの2人は、このタイプのネタを名刺代わりにして、演技派コントの達人という評価を確立した。村上演じるキザ男は、ポストバブル時代を象徴する「21世紀のスネ夫」そのものである。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
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