2011年に入っても、テレビお笑い界では相変わらず、吉本興業の一極集中・一元支配の状況は続いている。人気芸人を次々とテレビに送り込み、番組制作にまで携わるその圧倒的な影響力はますます強くなる一方だ。
そんな中で、テレビバラエティの世界でも、吉本芸人に見られるひとつの特徴がある。それは、彼らだけが数的優位を生かして、一体感を持った団体芸を披露できる、ということだ。楽屋でのやりとりやプライベートでの付き合いを前提にして自分たちの世界を作り上げることができる、というのは彼らにとって大きなメリットだ。『アメトーーク』(テレビ朝日系)などのひな壇型トークバラエティで行われていることの多くは、そういった吉本流の団体芸によるものだ。
そんな中で、吉本が生んだ時代のニューヒーローとでも呼べる人物が近年、脚光を浴びている。先輩芸人には愛され、ゲストとして番組に呼ばれると全力でいじり倒される。どれだけすべっても屈しないその心臓の強さは、お笑い界で尊敬を集めている。それは、レイザーラモンRGその人である。
RGは、『アメトーーク』(テレビ朝日)で大々的に取り上げられたあたりから、世間でもその名を知られ、人気に火がついたと言っていい状況にある。とはいうものの、決してその火が大きな炎として燃え上がるようなことはなく、あくまで弱火でくすぶっているような状況が続いているのがいかにも彼らしい。
80年代の楽曲に乗せて、自作の「あるある」を熱唱するという持ちネタは、もはや彼の代名詞と言ってもいい。たっぷり間合いを取って、ひとしきり歌いきった後に披露される「あるあるネタ」は、どれも微妙なものばかり。
芸人としてのRGを特徴づけているのは、圧倒的な打たれ強さだ。プロレスやマンガのマニアックなネタの数々で、かつては観客を常に呆れさせてきたケンドーコバヤシが、RGに関してはその異様なまでのハートの強さに太鼓判を押しているほどだ。
そもそも、人前でお笑い芸を披露するということ自体、ある程度ハートが強くなければとてもできるものではない。いわば、芸人にとって「度胸がある」というのは、本来ならば当たり前のことなのだ。そんな世界で、同業者である芸人からも認められるほどハートが強いというのは、余程のことだと考えるべきだろう。
ただ、私の知る限り、RGは昔からそういう芸人だったわけではない。数年前、相方のレイザーラモンHGがハードゲイキャラで大ブレイクしていた頃、RGはそこまでの能力を身につけてはいなかった。相方の人気にあやかって、ハードゲイの衣装を身にまとい、RG(リアルゲイ)という露骨な便乗キャラを演じていたのは記憶に新しいところだ。
そんな彼は、エンタテインメント性の強いプロレス興行「ハッスル」に出演するといった経験を通して少しずつ、すべっても折れない独自のファイトスタイルを作り上げていった。そして、どんどん先輩芸人や業界関係者を味方につけて、勢いを増していったのである。
RGは、世間では一種の「スベリ芸人」として認知されている。
だからこそ、RGの笑いは、ある程度のレベルのお笑いファンでないとその真価を味わえないようなところがある。お笑い初心者が、頭を空っぽにして楽しむには少々敷居が高いのだ。彼は「マイナーの中のメジャー」としての地位を獲得しつつあるが、いまだに本物の「メジャー」になりきれない理由はそこにある。
RGの芸は、共演者や受け手の「お笑い愛」を試すリトマス試験紙のようなものだ。「愛があれば笑ってしまう」という関係性に見る者を無理矢理引きずり込んでしまうのが、彼の最大の強みでもある。
レイザーラモンRGは、お笑い界の一大勢力となった吉本のピラミッド構造の最底辺からわき出てきた、お笑い愛を一身に受けて咲いた一輪の花。彼のフィルターを通せば、あらゆる罵倒の文句がほめ言葉となり、あらゆる呆れ顔が温かい笑顔に変わる。RGは、七転び八起きの精神を体現する不屈の闘士。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
●連載「この芸人を見よ!」INDEX
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【第98回】ピース 噛み合わない2つの破片が力ずくで組み上げた「笑いのパズル」
【第97回】次長課長 変幻自在のオールラウンダー河本を生かす、井上の「受け止めるツッコミ」
【第96回】 オセロ松嶋尚美 大先輩・鶴瓶に見初められ「褒められて咲いた大輪の花」
【第95回】 ダイノジ 雌伏16年──ついに訪れる「二頭の虎が目覚めるとき」
【第94回】 キングオブコメディ 極限の不運と"顔芸人"のレッテルを払拭して掴んだ「コント日本一」
【第93回】 山田邦子 史上初の「天下を取った女芸人」その栄光と転落のタレント人生
【第92回】エレキコミック 一度ハマるとクセになる!?「一点突破の納豆コント」
【第91回】野性爆弾 「遅れてきた吉本最終兵器」がブレイクを果たした秘密とは
【第90回】野沢直子 今振り返るカリスマ女芸人の「先駆者としての比類なき存在感」
【第89回】サバンナ 野生の勘で芸能界を疾走する「発展途上のロジカルモンスター」
【第88回】東京ダイナマイト 破壊なくして創造なし! ハチミツ流「笑いのセメントマッチ」
【第87回】トータルテンボス 進化を止めない本格派コンビを育てた「M-1急転直下の挫折劇」
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【第82回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」
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【第78回】Wコロン・ねづっち 「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由
【第77回】所ジョージ 突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」
【第76回】土田晃之 元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた
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【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは
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【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」
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【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」
【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」
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【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由
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【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」
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