深夜のコント番組だった頃の『はねるのトびら』(フジテレビ系)で、ロバートの秋山竜次を初めて見たときの衝撃は忘れられない。生きのいい新世代芸人がそろっていたこの番組の中でも、秋山の存在感は別格だった。
秋山は、ロバートというトリオの中でも間違いなく中心的な存在であり、桁外れの破壊力を秘めた核弾頭の役割を果たしている。彼らのコントでは、秋山がエキセントリックな人物を演じてその空間を完全に支配してしまう、というのが常道になっている。いわば、秋山は、周りの全てを巻き込む嵐となることで光り輝くのだ。馬場裕之と山本博は、そんな秋山になすすべもなく巻き込まれてしまう被害者の立場を演じる。同じボケという役回りとして同調気味に巻き込まれていくのが馬場で、ツッコミ役として違和感を表明しながらしぶしぶ巻き込まれてしまうのが山本、という役割上の区別があるだけだ。馬場も山本も、それぞれ単独ではかなり薄味の芸風である。だが、秋山という絶対的な存在が近くにいることで、彼らは秋山を邪魔せずに、その暴風を体全体で受け止める被害者としての役目をきっちりと果たすことができる。
そんなロバートは、基本的な3人の関係性はそのままにしながらも、年々進化を続けている。成長を遂げた彼らの実力がいかんなく発揮されたのが、去る9月23日に行われた『キングオブコント2011』だった。
1本目のコントは、戦国時代村で忍者ショーをこなす2人の老芸人の生態を描いたもの。秋山と馬場が演じる老芸人は、同じ舞台でこれまでに1,800万回ものステージを重ねている。そんな彼らにとって、舞台で芸を見せることはありふれた日常の一部に過ぎない。出番直前まで楽屋で雑談に興じて、舞台に上がるときっちりとした芸を見せて、スッと引っ込んでまた雑談を再開する。それは、秋山自身が憧れる大御所芸人たちの理想の境地を戯画化して描いたものだ。ここでの秋山は、いつもの偏執的な演技はやや抑え気味にして、芸を究めた末にそれを日常にしてしまった老芸人の生き様を尊敬を込めてコミカルに演じている。
2本目のコントでは、普段通りの秋山のぶっ飛んだキャラクターの魅力が全開になっていた。秋山演じる自動車修理工の「おしゃべりのシゲ」は、思ったことをすべて大声で口にせずにはいられない危険な人物。ある種の精神疾患を連想させるくらい、本当の意味でギリギリのキャラクターである。彼が正気と狂気の狭間で力強く演じる姿には、殺気とも言えるほどの気迫がこもっていた。そんな2本目のネタは、ロバートの従来路線のネタの進化形だった。
この2本のネタでいずれも高得点を獲得して、ロバートは悲願の優勝を果たした。自分たちにできるコントの形を極限まで追い求めたロバートは、まさにキングの称号にふさわしい。秋山という問答無用のハリケーンと、そこに巻き込まれる哀れな野次馬のスペシャリストである馬場と山本。彼らの正体は、お笑い界全体を嵐に巻き込む"怪物"トリオである。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
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