今月4日、広島市の小学6年生の少女を旅行カバンに押し込み連れ去ったとして、監禁の疑いで成城大2年の男が現行犯逮捕された事件。この事件を日刊スポーツが「小6カバン監禁男はプリキュア好き」と報じたことで、大きく波紋が広がった。

これに対して、ネット上では「関係ないだろ」「オタク叩きか?」といった怒りの声が噴出。『ふたりはプリキュア』などに出演し、成城大に在学経験のある声優・池澤春菜氏は自身のTwitterで「私、成城大。で、プリキュア出てた。だから私も犯罪を犯す可能性が高いかと言うと、そうではない つまりそこ全く関係ないよね」と発言し、支持を集めている。

 振り返れば、オタク趣味と犯罪を結びつけた報道の歴史は長い。そして、オタクを称賛する記事と入れ替わり立ち替わり現れてくる。

オタクと犯罪を結びつける報道の嚆矢は、いわゆる「宮崎勤事件」が知られている。だが、実際にこの事件を遡ること半年前に、すでに報道は存在する。週刊誌「SPA!」(扶桑社)の1989年3月23日号に掲載された「麹町小学校4年生殺人事件 増加するゲーム世代“オタク族”のやっぱりおこった『倒錯殺人』」が、これだ。これは、東京都麹町でゲーム機やミニ四駆などを多数所有する22歳の青年が、自宅に遊びに来ていた男児を殺害したもの。

 この事件の後、8月に宮崎勤が逮捕されると「ロリコン」「オタク(あるいは、おたく・おたく族)」を「病理」ととらえて犯罪の原因とする報道が、頻出するようになる。

 ところが、この報道は数カ月程度で収縮し、年が明けると、今度はオタクを称賛する記事が次々と登場していく。

象徴的なのは「SPA!」90年3月7日号に掲載された「『おたく』が日本を動かす」という記事。この記事は、前年とは一転して、オタクを称賛するものであったのだ。また、90年8月に開催された同人誌即売会・コミックマーケットは、参加者20万人あまりと、前年比で倍となった。この要因として挙げられるのは、宮崎勤の事件を通して、オタク、そして宮崎が参加していたコミックマーケットが一般メディアに初めて登場し(大宅壮一文庫で検索すると一目瞭然だが、89年に一般誌でオタクやコミケを扱う記事は、ほとんどない)、存在を知った人々が参加するようになったことだ。当時、中高生だったマンガ・アニメ愛好家の中には、この時期に学校や家庭で肩身の狭い思いをしたと証言する者が多い。ところが、その原因である忌まわしい宮崎勤事件が、皮肉にもコミックマーケットの参加者を倍増させ、現在に連なるオタクの隆盛を生み出したのである。


 2000年代に入ってから、オタク文化は国内のみならず海外も巻き込んで、愛好者を増やしているわけだが、一方でオタクと犯罪をイコールにする、あるいはにおわせる報道も繰り返されてきた。04年に発生した「奈良小1女児殺害事件」では、ジャーナリストの大谷昭宏氏がテレビ出演した際に「フィギュア萌え族(仮)」なる言葉を用いて、多くのオタクやフィギュア愛好家から怒りを買った。筆者がこの件を取材したところ、大谷氏が「オタクを批判する気はない」と繰り返し主張したことは印象に残っている。この発言は「SPA!」05年1月25日号で「誤解と偏見の『オタク迫害』に異議アリ!」という特集が組まれたり、大谷氏が出演したシンポジウムの席上で「権力の行う危ないヤツへのレッテル貼り」と同一であると批判されるなど、たぐいまれな規模に拡大した事例である。

 ただ、オタク文化の愛好者たちが、オタク=犯罪報道にいつも怒り狂っているかと思えば、そうでもない。05年に発覚した、いわゆる「監禁王子事件」では、犯人宅から1万本ものエロゲーが発見されクローズアップされたが、「1万本も買ってるなんて、どれだけ金持ちなんだ?」とむしろ、愛好家を爆笑の渦に叩き込んだ。

 大谷氏の事件の後に最も世間を騒がせたのは、07年9月に京都府の京田辺市で発生した14歳の女子中学生が斧で父親を殺害した事件だ。この事件をめぐっては、当時放映されていた『ひぐらしのなく頃に解』と『School Days』が外部からの圧力や報道もないうちに、多くの放送局が放送中止を決定し注目を集めたものだ。むしろ、これによって、作品のタイトルが知られるようになったからか、その後の報道を追ってみると、やたらと事件の犯人が『ひぐらし』を所有していた事例が見られるようになる。

 08年1月に青森県八戸市で発生した母子3人放火殺人事件では、犯人宅から『ひぐらし』の漫画版が押収されたことが一部の新聞で報じられている。同年の3月に、茨城県土浦市で発生した連続通り魔殺人でも、犯人の趣味として、格闘ゲームと共に「ひぐらし」を記す報道が見られた。この月には、岡山駅構内で突き落とし殺害事件が発生しているが、少年宅から『ひぐらし』や『DEATH NOTE』などの漫画本が押収されたことも報じられている。

さらに探すと、7月に埼玉県川口市で発生した女子中学生の父親殺しでも『ひぐらし』の単行本が押収されたと報道されている。08年の6月には、秋葉原連続殺傷事件が発生しているが、犯人の加藤智大に至っては、犯行直前に携帯サイトに「ひぐらしとか買っておけばいいのか」と書き込んでいたことも報じられている。なぜ、『School Days』ではなく『ひぐらし』ばっかりかと考えると、エロゲーゆえに販路が限定されている『School Days』に比べて、そこらへんの書店でも棚に並んでいて、手に入りやすかったからという、穿った見方もできなくもない。

 こうなると、オタク=犯罪をくくる記事で「犯人に影響が」と名指しされる作品は、それだけ知名度がある、あるいは、大手マスコミの勝手な報道によって、知らないうちに「炎上マーケティング」に参加させられていると見ることもできるだろう。

 しかし、宮崎勤の事件から数えても20年あまりの間にさまざまな事件が発生しているにもかかわらず、これらを時系列でまとめて記した文献は少ない(マスコミのオタク観をまとめた文献として松谷創一郎氏の「<オタク問題>の四半世紀」(『どこか<問題化>される若者たち』所収 恒星社厚生閣、08年)があるが、失礼だがマイナーな書籍のため、読んでいる人は少ない)。

 正直、今回の「プリキュア」報道からは、“またか”というよりも“懐かしさ”のような感覚すら覚えてしまう。

過去を経験している立場からは、Twitterなどで怒りを露わにしている人々よりも、失笑している人のほうが多いのではないかと思うのだ。

 まあ、それだけ「プリキュア」シリーズが、おっきなお友達にも大ウケしていることを、世間は知っているということか。
(文=昼間たかし)