「どうなっちゃってるのよ、今のテレビ!」『ヨルタモリ』でタモリが“なりすまし”ているもの

「どうなっちゃってるのよ、今のテレビ!」『ヨルタモリ』でタモリが“なりすまし”ているもの

「この星のテレビは、タモリがいないと寂しい」

 これはサントリーBOSSのCMのコピーだが、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)終了後の、視聴者の「タモロス」と呼ばれる気分を言い当てた言葉だ。もちろん、タモリは『ミュージックステーション』や『タモリ倶楽部』(ともにテレビ朝日系)のレギュラーは続けているので、実際には「タモロス」というのはおかしな話なのだが、やはり30年以上続いた、タモリ=『いいとも』という構図と日常感が、どうしても喪失感を生んでしまっていたのだろう。

 そんな中、ついにタモリがフジテレビに帰ってきた。10月19日から、『いいとも』以後、新しいレギュラー番組は初となる新番組『ヨルタモリ』(フジテレビ系)がスタートしたのだ。

 これは、とあるバーを舞台にした、タモリと宮沢りえによる番組。タモリに会いに毎回ゲストの芸能人が来店し、ゆる~いトークを繰り広げるという内容だ。実は、タモリと宮沢はかつて飲み仲間だった。それは宮沢が20代前半の頃。よくバーで居合わせ、一緒に飲んでいたという。ある時などは、席が隣になったこともあった。その時、タモリは宮沢のあまりの美貌に思わず「すみません、今から2分間、ジッと見ていいですか?」と断って、2分の間、その姿を見つめたという。そんなふたりの番組がどんなものになるのか、事前情報はほとんどなかった。

 番組は、「東京の右半分」(これもタモリが最近ハマっている場所だ)の湯島あたりに、宮沢がママを務めるバーが開店するところから始まる。先客には音楽家の大友良英、自称・漫画家の能町みね子がいる。ふたりとも、自他共に認める重度のタモリフリークだ。すると、程なくしてタモリがやってくる。いや、ただの「タモリ」ではない。関西人の町工場の社長に「なりすまし」たタモリだ。一緒に連れ立った“弟”に、しきりに「体の重心」について説いている。そしてそのまま、ママとゲストとともに突飛なトークを繰り広げる。

 話題が「着物」に飛ぶと、「着た時に『女が出来上がった』と思うんです。だから、手順が長いほどいいんです。襦袢着る、あれ着る、紐結ぶ……。どんどんやっていって、スッと見た時に、『女や。私なりの女ができた』と」などと、含蓄のある話を披露するタモリ社長。そして、「一度脱がしてみたいね」とおどける。

 やがて、ママが「最近面白いテレビがあるから」とつけたテレビ画面に映ったのは、『世界音楽旅行~スペイン~』なる番組。フラメンコギタリストの沖仁らが演奏している。その演奏に合わせ、どこかで聴いたことがある歌声が聞こえてくる。カメラがその歌い手を捉えると、長髪のフラメンコ歌手、マヌエル・デ・オルテガの姿が映し出される。もちろん「なりすまし」たタモリだ。情熱的なハナモゲラ・フラメンコを、見事に歌い上げている。

 さらに『虫ドッキリ(秘)報告』なる番組も始まる。ハエがドッキリにかかるという番組らしい。そのハエの正体は、全身タイツを着て形態模写をするタモリだ。殺虫剤ではなく潤滑剤を浴びせられるハエタモリ。そして、フローリングに足を取られるハエタモリ。そんなシュールな映像を見て、絶句するママ。

「どうなっちゃってるのよ、今のテレビ!」と。

 事前情報がなかったこともあり、正直言って、バーを舞台に、ゲストを招いたユルめのトーク番組なんだろうとたかをくくっていた。タモリの話をじっくり堪能できるなら、それで十分だと思っていた。しかし、そんな予想は、いい意味で完全に裏切られた。全編にわたって、タモリの「芸」の神髄である「なりすまし」が行きわたった、タモリイズムあふれる番組だったのだ。

 『いいとも』以後、タモリの元にはいくつもの新番組の企画が持ち込まれたが、タモリはそれらに納得いかず、断り続けたなどと伝えられている。おそらく、タモリに負担が少ない、ユルい企画が多かっただろう。だが、タモリが最終的に引き受けたのが、タモリにとって最も負担が大きい、タモリの芸に依存した番組だったというのが、タモリの矜持を感じざるを得ない。

 よくタモリの本芸は、アナーキーな「密室芸」などと言われる。だが、そうではない。密室芸も、タモリの「なりすまし」芸のひとつの側面にすぎないのだ。事実、「密室芸」は周囲からのリクエストに応じて演じられてきたものだ。そうしてタモリはこれまで周囲に求められるまま、さまざまな「タモリ」像に「なりすまし」てきた。あるときは「アナーキーなカルト芸人」に、ある時は「お昼の顔」に、またある時は「趣味に生きる好々爺」に。いつだって、自分自身を自由自在に変えていくことだけはずっと変わらなかった。

 『ヨルタモリ』でも、終始何かに「なりすまし」ている。だから「タモリ」そのものは番組に出てこない。しかし、逆説的にその姿は、若きアナーキーさと力の抜けた老獪さを併せ持った「タモリ」そのものに「なりすまし」ているかのようだ。いや、そうではないのかもしれない。ずっと周囲からの要求通りに何かに「なりすまし」ていたタモリがようやく解き放たれ、ついに本当の意味で自由になって「タモリ」を表現しているのではないか。『ヨルタモリ』はタモリによる、タモリのための番組なのだ。

 番組では最後、偉人ユージニス=アフレカヌス(355-420)の名言を引用して締めくくっている。

「物を見ている自分の目を見たことがある者は誰もいない」

 全編がタモリイズムにあふれる番組である。だから言うまでもないが、そんな偉人も言葉も存在しない。デタラメの名言だ。
(文=てれびのスキマ)

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