バラエティでも活躍しているアンジャッシュドランクドラゴン、『キングオブコント』で優勝した東京03キングオブコメディなど、プロダクション人力舎には実力派のコント芸人が多い。

 そんな人力舎の若手の中で、最近注目を集めているのが巨匠というコンビ。

彼らは『キングオブコント2014』で決勝に進出。優勝したシソンヌとの一騎打ちに惜しくも敗れたものの、独創的なネタで視聴者に強烈なインパクトを残した。そんな巨匠が、5月27日に初のDVD『巨匠ベストコント集「よういち&かず」』をリリースした。彼らの奇抜な設定のコントはどのように生まれているのだろうか?

――初めてのDVDが出るわけですが、今のお気持ちは?

岡野 これで僕たちのネタを多くの人に見てもらえるというのがうれしいですね。あと、印税が入ってくるんで。

本田 やらしいな!

――『巨匠ベストコント集「よういち&かず」』というDVDタイトルは、どのように決まったんでしょうか?

岡野 最初、『初めての印税』っていうタイトルを提案したんですけど、まわりの大人の方々があんまりいい顔をしてなかったんで、ヤケクソで一番ポップな感じにしようと思って「よういち&かず」になりました。

――抽象画のようなサイケデリックなデザインのDVDジャケットも印象的なんですが、これはどういうイメージで作られたんでしょうか?

岡野 これは「概念」です。僕、競馬場とパチンコ屋によく行くんですけど、あそこって人の欲望みたいなものが渦巻いてるじゃないですか。勝っている人もいれば負けている人もいる。パチンコを打ちながら泣いている人とかいるんですよ。で、その横ではめっちゃ出してる人もいて。いろんな概念が、もう混沌としているなあと思って。
それを表現しました。

本田 そうだったの? 知らなかった。

――このDVDに収録されているコントはたくさんありますが、岡野さんがおじさんを演じるネタが多いですね。

岡野 おじさんは多いですね。単純におじさんが好きなんです。おじさんって一番落差が大きいと思うんですよ。女性は女性っていうだけでちょっとかわいいというところがあるじゃないですか。でも、おじさんって、最高のおじさんと最低のおじさんの落差がすごい。そこが面白いんですよね。僕はその中でも下の方のおじさんが好きです。

――ネタはどうやって作っているんですか?

岡野 基本的に僕が全部考えています。その間、本田は料理を作っている。


本田 そうですね、僕は料理を作っています。

――それを2人で食べるんですか?

本田 いや、絶対食べてくれないです。汚いからって。「お前のこねくり回したもん食えるかよ」って言われるんですよ。

岡野 本田の手の組織とかが入ってるわけでしょう。なんか汚い感じがするんですよ。

――例えば、おじさんのネタでは、実際に見たおじさんのイメージなどが反映されていたりするんでしょうか。

岡野 そうですね。例えば、「おじさんを作るおじさん」のネタで言うと、競馬場とかパチンコ屋には本当にとんでもない人しかいないんです。それをずっと見ていて、さては、これはたぶん、人間じゃねえな、って(笑)。そういうことですよね。そこから生まれました。


――あと、お二人のコントには「万物の祖」とか「概念」とか、日常で使わないようなゴツゴツした響きの言葉が使われているのが珍しいなあと思うんですが、そういうのも岡野さんのこだわりなんでしょうか。

岡野 単純に「概念」っていう言葉が昔から好きなんですよ。正直、意味もそこまでわかってないですけどね。

――あと、「お金吐くおじさん」とか、お金に絡んだネタも印象的です。

岡野 これはもう「お金が出たらいいなあ」って日々思ってるからですね。ただ、出てくる額とかは今に至るまでにいろいろ迷いました。今は週に7,000円出てくるという設定で。もうちょっと出た方がいいんじゃないかとも考えたんですけど、いや、こんな人間がそんなに出るわけない、と。こんなおじさんが裕福なわけはない、これで金持ちだったらなんか嫌だな、と思ったんですよね。

――いっぱい出るのは、なんか違うなと。

岡野 違うと思います。これだけ苦しんで吐いて、週に7,000円、月に2万8,000円っていうのが、ちょうどいいところで。
毎週金曜に出るんですけど、金曜日が少ない月とかはちょっと生活がキツいんだろうな、とか考えたりしますね。

――このコントで使うために本田さんにお金を用意させて、ネタが終わると岡野さんがそのままお金を持っていくこともある、というのを聞いたんですが。

本田 ありますね。気付いたらそのまま帰ってるっていう。

岡野 そりゃ、たまたまでしょう。忘れることもあるよ。

本田 「返して」って言ったら「もうしまっちゃったよ」って。

岡野 それはそういうボケだよ!

本田 そのまま帰っちゃったじゃん。

岡野 もう一回強く来てたら返してたよ。来なかったからね。

本田 いや、言ったよ。そしたら、急にマジな顔になって、「いや、マジでマジで」って。


岡野 これ、おかしくないですか。僕、思うんですけど、7,000円を僕に貸すことによって、こいつが1円もなくなって、ああ、つらい、今日は何も食べられない、ってなったら、僕は最悪だと思うんですよ。でも、実際はなってないですからね。貯金があるんですよ。それをこんなに言うというのは、なんて浅はかな人間だ、というか。こいつは人間のクズですよ。

本田 お前だよ!(笑)

岡野 こいつは全然苦労してないですからね。僕は7,000円を借りて、本田さんに多大な感謝をしている。win-winの関係ですよ。

本田 win-winじゃないよ!

――7,000円のありがたみが違うということですね。

岡野 そうです。それで苦しまないのであれば、むしろもっと出せよと。
あとでちゃんと返しますからね。現に、今日とかも僕、結構キツいですから。

本田 何の宣言なんだよ。

――今、借りようとしてるんですか?(笑)確かに、取材中だから断りにくいですよね。

本田 手口が最低だよ!

――岡野さんは今いくら必要なんですか?

岡野 8万……いや、3,000でいい。

――まずふっかけておいてから、額を下げてきた!

岡野 3,000ならいいか、ってなりますよね。

――ならない、ならない! たぶん、岡野さんは普段からずっと、そういうことを考えてるんですよね。自分にとっての3,000円と一般人にとっての3,000円は違うんだ、と。

岡野 そうです。くれなくても、貸してくれたらいいんですよ。僕は返そうという意志は強く持ってますから。いったんお貸しいただきたいな、っていうのはありますね。

――お金というと、岡野さんは数百万円の借金を抱えているそうですね。

岡野 そうですね、結構お借りしてますね。でも、今年は返していこうと思ってます。三重に大口の友人がいるんです。109万借りてたんですけど。とりあえず1万を返したので、108万にしていて。これをまずは何とか2ケタにしたいですね。

――借金の総額はいくらなんですか?

岡野 700~800万ぐらい。自分でもはっきりわからないんですよ。まず、わかるっていうのが大事。だから、今年の上半期の目標は、額をわかるということです。わからないから、どこを目指していいかもわからない。目隠ししてる状態です。

――何言ってるんですか?(笑)

岡野 何言ってるんでしょうね(笑)。

――それだけ借金があって、お笑いの仕事での収入もまだ十分ではない状態で、バイトはしているんですか?

岡野 してないです。……確かに、我ながら狂人ですよね、バイトもしてないっていうのは(笑)。

――岡野さんにはお金に関する名言もありますよね。

岡野 ああ、そうですね。「お金とは、偉い人が作った紙くずである」っていう。

――それは、本当にそう思ってるんですよね。

岡野 そう、僕は本当にお金が嫌いです。だから最近、本田にもなるべく使わせようとしてますし。1,000円を無駄に後輩に渡そうとしたりして。こいつ、1,000円をすげえ大事に使うんですよ。1,000円で、すごいやりくりしたりして。

本田 別にいいじゃない。

――普通の人の生活じゃないですか。

本田 ただただ後輩に1,000円あげるみたいになってるんですよ。「お前、1,000円あげろよ」って。無駄にあげるときがあるんです。

岡野 それもwin-winだよ。本田は1,000円あげても痛くない。ギャンブルもタバコもしないし。後輩も1,000円もらってうれしい。本田さんは1,000円くれていい人だな、って思ってくれる。

本田 全然、win-winじゃないよ! 急に渡された後輩も気を使うし。困りますよね、いきなり渡されても。

――岡野さんは視力が悪いのに、普段からメガネもしていないそうですね。

岡野 そうなんです。この世に、そんなに見たいものがないので。ただ、競馬のハナ差とかはマジでわからないんで、競馬の着順を見るときだけはメガネをかけます。第一コーナーとかは見なくてもいい。最終コーナーからゴールまでのところだけちゃんと見られれば。この世で見たいものは競馬の着順だけです。……これ、競馬好きな人にも怒られそうですね(笑)。

――岡野さんは世の中にまだ参加していないというか、社会をボヤッと見ているような感じがありますね。

岡野 まあ、そうですね。見ないようにしてるんでしょうね。社会人とまともに戦ったらやられるんで。見なきゃ勝ちですから。見ないまま逃げ切れば勝ちですから、見なかったことにするんですよ。

――いや、「勝ち」ではないかな、と……。

岡野 勝ちではないですか(笑)。でもまあ、見なきゃわからないなら、見なきゃいいんですよ。

――最後に、このDVDをどんな人に見てもらいたいかを教えてください。

本田 社会の中でストレスを抱えてらっしゃるみなさんですね。これを見て、発散してもらえたらなと思います。あっ、私よりもこんなに下がいるんだ、というのを見てもらって、それで元気を出していただきたいですね。

岡野 変な話ですけど、自殺の前夜とかに一番見てほしいですね。死にたいなあ、っていうときに見たら、何かあるかもしれません。自殺の撲滅が目的ですからね。これで自殺を止めたいと思ってます。

本田 それも初めて聞いたよ!
(取材・文=ラリー遠田/写真=尾藤能暢)

●巨匠(きょしょう)
名前:岡野陽一 (おかのよういち)
生年月日:1981年11月29日
出身地:福井県
身長:173cm
趣味:競馬、 パチンコ、麻雀
特技:ソフトテニス

名前:本田和之 (ほんだかずゆき)
生年月日:1987年12月8日
出身地:東京都
身長:162cm
趣味:ゲーム、カレー作り
特技:手先が器用、ラグビー、 ゲーム(ファミコンのスーパーマリオ)
http://www.p-jinriki.com/talent/kyoshou/

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