中国では、年老いたら子どもに養ってもらうというのが一般的な考え方で、子どもの収入が高ければ高いほど、自分の老後も安泰になる。そのため、子どもの教育にかける熱意はハンパない。

月収の半分近くを子どもの教育費に充てる家庭もあるほどだ。それも、すべては子どもにいい大学に入ってもらい、給料の高い仕事に就いてもらうため。子どもの将来のためというより、自分の老後のための投資というわけだ。

 そのため、勉強を教える学習塾はもちろんのこと、ピアノやバイオリンといった音楽系のスクール、絵や図工など芸術系の教室、ゴルフやテニス、スケートなどのブルジョア系スポーツのクラブなど、ありとあらゆる塾がそろっている。

 そんな中、四川省成都市のある女性から、こんな訴えが新聞社に寄せられた。姪っ子のために9万8,000元(約200万円)近い授業料を払って塾に通わせたが、1年以上たってもなんの効果もない。
退校するから残りの授業料を返せと要求したが、一向に返してくれないという内容だった。

 その塾は「子どもの理解力を養成し、超能力を開発する」とうたっており、授業を受ければ“目隠ししても字が読め、図が識別できる”ようになり、さらに上の段階にいけば“本をパラパラとめくっただけで内容がすべて理解できる”ようになるのだという。1課程の授業料が3万2,000元ほど(約64万円)で、3段階の課程を取ると9万8,000元。一度授業料を払えば終身制で、何回でも授業を受けることができ、もし効果がなければ、授業料はすべて返還するということになっていた。

 これだけでもかなりマユツバな塾だが、この女性はすっかり信じてしまい、お金を全部払い込んでしまった。授業のやり方も変則的で、いつどこで授業を行うかは前日に職員からの知らせで初めて知ることができ、連絡してくるのも半年に1回ずつ。
しかも教室は締め切られ、父兄は近寄ることができなかったという。

 授業を受け始めてから1年後、学習効果を確かめようと、姪っ子に目隠しをして字を読ませようとしたが、さっぱり読めない。そこで子どもを問い詰めると、「あれは上を向いて目隠しの隙間から見ないと見えないんだよ。この秘密は守らなければいけないと、塾の先生に言われていた」と白状したのだという。しかも、授業ではただ映画を見せられていただけだということも判明した。

 もう明らかな詐欺なわけだが、中国ではこれまでにも“能力開発”に関する詐欺事件は何度も起こっているという。
それにもかかわらず、なぜ人々は同じような手口にひっかかってしまうのか? 

「ズルをしてでも勝負に勝ち、出世したほうがいいと考える親が多いからです。よく中国のセンター試験でハイテクカンニング機器がニュースになりますが、あれも親が買い与えているケースが多い。中国ではイカサマ賭博用のトランプや麻雀パイがそこら中で売られていますが、いざ使おうとするとすぐにバレる粗悪品が多い。この超能力詐欺も、『イカサマしてでも、子どもに好成績を上げてほしい』と下心を持つバカな親がひっかかっただけですよ(笑)」(広州市在住の日本人ビジネスマン)

 この件を報じた四川省の地元紙「華西都市報」によると、この塾に子どもを通わせていた多くの親たちから授業料返還の要請が出ており、このような明らかな詐欺にも簡単にひっかかる親の多くは、お金はあるものの自身の教育程度はそれほど高くなく、自分の子どもに対して高望みをする傾向にあるという。

 子どもの教育をする前に、まずはこんなバカ親の教育から始めないといけないようだ。
(文=佐久間賢三)