日本の3Dアニメ『STAND BY ME ドラえもん』が中国で大ヒットを記録し、6月30日の時点で興行収入も100億円を突破しています。僕の幼少期、『ドラえもん』は中国で放映されていました。
それにしても、『ドラえもん』は不思議な作品です。主人公ののび太くんは、本当にダメな人間です。テストの点数はゼロばかりですし、運動もからっきしダメですし、しずかちゃんのお風呂をのぞこうとします。中国のアニメや一般映画においては、こういう主人公はほとんど存在しません。
中国の場合、「早く大人になって、成熟した価値観を身に付ける」という「老成」という価値観が何よりも重要視され、子どもたちも常日頃からそう教え込まれます。子どもが見る「アニメ」であれば、なおさら、そういう主人公が好ましいとされるのは当然です。しかし、いつもドラえもんに頼ってばかりであまり成長しないのび太くんは、そんな「老成」とは真逆にいる主人公です。中国人のクリエーターがのび太くんのような主人公を作ると、共産党から注意を受ける可能性は十分にあります。だからこそ『ドラえもん』は、多くの中国人の心をつかんだのだと思います。
さて、そんな『ドラえもん』ではありますが、昨年、「成都日報」をはじめとする中国の機関紙が、「中国の若者は『ドラえもん』を無条件に愛するべきではない」と批判的な論調で報道しました。
2008年、ドラえもんは日本の初代アニメ文化大使に選定され、さらに2020年の東京オリンピックにおいては、「招致スペシャルアンバサダー」に就任することが決定しました。ドラえもんは、単なるアニメのキャラクターの枠を超え、日本の顔にもなっているため、それに対して、中国側は警戒感を強めているのです。中国の機関紙の論調としては、以下のような具合でした。
「『ドラえもん』は『(人間同士の)尊重』や『友好』をテーマにしている。しかし、安倍政権は過去の戦争を反省しないで美化し、集団的自衛権をはじめとして右翼的な傾向を強め、中国や韓国との緊張を生み出している。『ドラえもん』が表現している『尊重』や『友好』とはまったく逆の道を歩んでいるのに、日本政府は、平和的な『ドラえもん』を利用している。中国国民はその偽りの日本の姿に惑わされず、真実を見なければならない」
中には、『ドラえもん』に対する憎しみのあまりか、「青いデブ」と蔑む記事もありました。
今回の映画の大ヒットにおいて、中国政府がさらに『ドラえもん』に対する危機感を募らせていることは容易にうかがい知れます。今のところ、前出のような批判的な論調の記事は出ていませんが、今後、映画の熱狂が冷めた頃合いを見計らい、また一斉に『ドラえもん』に対するネガティブキャンペーンが繰り広げられるのではないかと不安でなりません。
(文=孫向文)
●そん・こうぶん
中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)がある。
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