男尊女卑の文化が色濃く残る中国農村部では、乳幼児の人身売買がいまだに行われている。性別によって金額がつけられ、ブローカーに売られたり、誘拐され、突如として家族から引き離されるなど、信じられないことが現実に起こっているのだ。



 そんな中、驚くようなニュースが報じられた。「中国光明網」(8月18日付)によると、今年25歳になる金萍さんは5歳の時他人の家に「将来の嫁候補」として突然、売られてしまった。

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「当時、私の家には2人の兄と2人の妹がいました。ある夏の日、自宅に一組の夫婦らしき男女がやってきて、私の両親と何かを話していました。しばらくして父が私を指さすと、母は私の体をキレイに洗い、新しい靴を履かせてくれました。そして、この知らない夫婦について行くように言われたのです」(金さん)

 中国語には「童養★(★は女偏に息)という言葉がある。これは、息子の嫁候補として女性を幼い頃から引き取り、息子の妻としてふさわしい女性になるよう教育する、という意味である。見知らぬ夫婦に引き取られた金さんだったが、この夫婦は大切に育ててくれたという。彼女も、次第に心を開いていった。しかし、その年の冬、新しい母親は病気で亡くなる。その後、この家にやってきた再婚相手の女性は、金さんに虐待を始めたという。

 1年後、彼女が住んでいる村に雑技団がやってきた。
雑技団の関係者から「雑技団に入れば、一緒にお母さんを探してあげる」と持ち掛けられ、彼らについて行くことにしたが、結局、厄介払いされ、500元(約1万円)で別の人間に売られた。その後、現在の養父母に出会うまでに、7回も人身売買を繰り返されたのだという。この養父母の元で成長した金さんは、2013年に職場で出会った男性と結婚し、子どもをもうけた。

「母親という立場になってから、あらためて自分を産んだ母親についていろいろ考えてしまいます。きっと母親も、私を売り飛ばす時はつらかっただろうと思います。今、本当の母がどこでどんな生活をしているのか心配しています。会いたいです」

 金さんは現在、インターネットやボランティア団体の力を借りて生みの母親を捜しているが、まだ手がかりもつかめていない。

 成都市在住の日本人ビジネスマンは言う。

「20~30代の、田舎から出てきた比較的若い女性でも、『幼い頃売られた』『子どもの頃に誘拐された』という子は普通にいますよ。レストランのウエイトレスとか、カラオケクラブのホステスとか。この国ではけっこう普通のことで、養父母に問題なく育てられた子たちは、あまり気にしていない様子です。悲しいことですが、みんな感覚がマヒしているんでしょう」

 中国では、年間20万人以上の子どもが行方不明となっている。
誘拐や人身売買に巻き込まれ、今回の彼女のような過酷な日々を送ってきた子どもも少なくない。人身売買には必ず売り手と買い手、さらに仲介業者が存在する。農村部に色濃く残る悪習を断ち切るために、仲介業者への監視、罰則の強化が求められる。
(取材・文=青山大樹)

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