たった8分で人生が変わった――NHK『アナザーストーリーズ』が描く、マンザイブームの“真実”

たった8分で人生が変わった――NHK『アナザーストーリーズ』が描く、マンザイブームの“真実”

「俺にとっては、一番大きいテレビの転換期。リアルタイムで目撃したもので、あれ以上大きなものは、あれ以降起きてない」

 爆笑問題の太田光がそう証言するのが、『THE MANZAI』に引き起こされた1980年のマンザイブームだ。その1年にスポットを当てたのが、5月4日に放送された(再放送は5月10日)『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』(NHK BSプレミアム)の「MANZAI1980 笑いの革命児たち」だ。

『アナザーストーリーズ』は真木よう子をナビゲーターに、「ダイアナ妃の事故死」「ベルリンの壁崩壊」「ビートルズ来日」など、歴史上の大きなトピックスを取り上げるドキュメンタリー番組だ。この番組の大きな特徴は「マルチアングルドキュメンタリー」をうたっているという点。ひとつの事柄には、たくさんの人々が関わっている。そのさまざまな“視点”をマルチアングルのようにひもとくことで、これまで伝えられてきた物語とはまた別の物語が浮かび上がってくるというものだ。

 たとえば、4月20日の放送のテーマは映画『エマニエル夫人』。そのとき取り上げられた“視点”は、プロデューサーや監督ら作り手と、主演のシルビア・クリステルら演者はもちろん、日本での配給会社の宣伝マン・山下健一郎の視点にも大きくスポットを当てている。

『エマニエル夫人』といえば、籐の椅子に半裸で座っているポスターのイメージが強いが、あれが映画のポスターとして使われたのは実は日本だけだったという。山下が「この映画は女性に売る」という強い決意の上で、あのポスターを使ったのだ。その結果、『エマニエル夫人』の日本における観客動員は7割近くが女性だったのだ。

 多角的な視点から見ることで、ひとつの出来事に複数の側面があることが浮き彫りになっていく。それは、1980年のマンザイブームでももちろん同じだ。

 筆者は『1989年のテレビっ子』(双葉社)の序盤でこのマンザイブームについて詳細に書いたため、今回のドキュメンタリーはより楽しめた。なぜなら、さまざまな語りどころがあるこのブームのどこをどう切り取るか、腐心したであろうことがよくわかるからだ。

 番組では、ブームの真っ只中にいたが、その後、テレビでは人気が低迷していった芸人たち(島田洋七、ビートきよし、ザ・ぼんち)、それまで傍流にいて不遇の時代を過ごしながら、『THE MANZAI』によって笑いを変えた作り手(佐藤義和)、そしてこのブームを契機に、地方のいち芸能事務所にすぎなかった吉本興業を日本最大級の事務所に押し上げたマネジャー(木村政雄)らの視点にスポットを当てた。これらはまさに『1989年のテレビっ子』でも書いた部分だったので、非常に強いシンパシーを感じた。

「音楽班が肩で風切って歩いて、そういう人たちが歌手でコントをやったりしてお笑いはそういう人たちで十分だった」と佐藤義和が述懐するように、70年代までテレビの主役は歌手だった。今でこそ、「バラエティ番組=芸人の現場」という図式があり、時折、芸人がゲストに訪れる歌手や俳優に対して「芸人の職場を荒らすな」などと笑い混じりに不満を述べることもあるが、そうなったのはマンザイブーム以降、ほんの30年前からなのだ。

 それまでテレビでお笑い芸人は、ザ・ドリフターズや萩本欽一などごく一部を除いて、最下層の地位だった。それを劇的に変えたのが、『THE MANZAI』なのだ。

「あの8分間で、ほんっとに人生変わりましたね。たった8分で」

 そうザ・ぼんちが語るように、彼らは自分たちに与えられた8分間の持ち時間で披露した1本の漫才で、一気にアイドル的な人気を手に入れた。

 やはり、テレビドキュメンタリーの強みは映像である。その実際の映像は、何よりも力がある。

 たとえば、『THE MANZAI』前夜の『花王名人劇場』での「漫才新幹線」。やすし・きよしや星セント・ルイスらベテラン漫才師に混じって、当時まだ無名の若手B&Bが、速射砲のようなスピード感あふれる漫才で若者が集まった観客を沸かせていた。それをモニターで見ているベテラン漫才師たちの表情は、その複雑な心境を雄弁に物語っていた。思わず立ち上がって険しい表情で気合を入れ始める西川きよしの姿は、鳥肌モノだ。
 
 また、ブーム勃発後、舞台に登場したザ・ぼんちに本番中にもかかわらず、観客が駆け寄り、プレゼントを渡す一幕は、いかにそれがアイドル的な人気であったかを証明している。

 そして番組では、もうひとつの視点が用意されていた。それは「視聴者」の視点だ。テレビで『THE MANZAI』を見て人生が変わってしまった爆笑問題・太田光は、ブームをこう語っている。

「漫才とはこういうもんだっていう、芸として構築してきたものは全部ぶっ壊しちゃう。その勢いが社会現象になった」

 ブームは1年で急激で沸騰し、年が明けると急速に収束していった。そこから、ビートたけしや島田紳助は“天下”を獲った。一方で、ブームに翻弄され、テレビから消えていった芸人たちもいた。

 そうしたさまざまな物語を、『アナザーストーリーズ』は“マルチアングル”で映し出す。ドキュメンタリーは、決して客観的なものではない。事実をどう捉えるか、その作業は極めて主観的なものだ。そして、それぞれの視点もまた主観だ。

『アナザーストーリーズ』はその主観を数多く提示することで、客観的事実とされるものでは見えなかったいくつかの“真実”を浮かび上がらせている。

 最後に「マンザイブームに“負”の部分はあったか」と問われ、吉本興業のマネジャーだった木村政雄は「ない」と即答し、こう語った。

「もしあったとしたら、本来見ないで済んだ“夢”を見てしまった人がいたこと」
(文=てれびのスキマ )

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