聖飢魔IIを初めてテレビで見た時は、それはそれはビックリした。完全にテレビに出ちゃいけない強烈すぎるキャラクターに、視聴者はポカーン。

ほかの出演者たちも「悪魔なんですか~」と半笑い……。

 しかし、その演奏力や音楽性の高い楽曲で、ロック界において確固たる地位を築き、バンドが解散した後も、信者(ファン)たちから熱狂的な支持を受け続けているのだ。

 そしてタレントとしても、あのビジュアルのまま、いまや完全にお茶の間になじんでいるデーモン閣下。ロック界でも、芸能界でも、唯一無二の存在といえるだろう。

 そんな閣下の、キャリアの集大成ともいえる書籍『デーモン閣下 悪魔的歌唱論』(リットー・ミュージック)が出版された。30年間のヴォーカリスト生活で築き上げた歌唱論のみならず、閣下の人生(悪魔生?)を振り返る自伝としても楽しめるこの本について、閣下自身に語ってもらった。


■ロックヴォーカリストは練習あるのみ!

――今回の本は「歌唱論」というテーマですが、ヴォーカリストだけでなく「何かで世に出たい」と切望している人たちへも響く本だなと思いました。閣下自身も、歌手に限らず、とにかく何かで世に出たいと思っていたようですね?

デーモン閣下(以下、閣下) うん、絶対に歌でなきゃいけないとは思っていなかったな。世を忍ぶ仮の姿(以下、「世仮」)の大学時代には俳優養成所に入り、バンド活動もし、有志で集まったお笑い研究会みたいなこともやっていたから。そもそも、バンドでデビューするよりも、俳優としてプロダクションに所属するほうが早かったんだ。でも、ちっとも仕事が来なくて、そうこうしているうちに、バンドのほうでどうやらメジャーデビューできそうだと。まあ、バンドが追い抜いていったということだね。


――それまで、メタルやハードロックといった音楽も、あまり聴いたことがなかったとか。

閣下 聖飢魔IIの前身となったグループを始めて以降は、それなりに聴いていたけどな。ハードロックバンドで歌うというのが初めてだったので、「歌はある程度うまいけれど、ロックヴォーカリストとしてはおかしい!」とメンバーから言われ、「こういうのを聴け!」って、さんざん聴かされたんで。そのバンドをやりながら、ロックヴォーカリストとしてのあり方を学んでいったというのはあるだろうな。

――もともと歌はうまかったんでしょうけど、その歌声をロック対応させるためにやったことはありますか?

閣下 歌に関しては、数をこなすしかないだろうね。特にロックは。
スポ根じゃないけど、練習あるのみだよ。

――喉の筋肉を鍛える的な?

閣下 それもあるけど、それ以上に耳を鍛えるのは、すごく大事かもしれない。なんの音を聴きながら歌うのか、何に注意しながら歌うのか。モニターを聴くにしても、どの楽器をどのくらいのバランスにすると歌いやすいとか、それは結構時間をかけて研究したことかもしれないな。

――そこに到達するまでは、全体を漠然と聴いていた?

閣下 そう。「カラオケで歌うのと何が違うの?」という感じだったな。
カラオケとはまず音量が違うし、立つ位置が変わればバランスが変わってくるし、自分の声が聞こえない時も多々ある。カラオケでうまく歌えていても、そのままライヴ対応するのは難しいと思う。声の出し方も工夫したけどね。高い声を安定して出せるようにするには、どう発声するのが一番いいのか? とか。そういう意味では、やっぱり練習!

――喉の調子が悪いなと感じた日には「Yeah!」みたいなシャウトの回数を減らして、喉を消耗しないようにしていると書かれていましたが、そこまでわかるもんなんですね。

閣下 もちろん、昔はわからなかったけどな。
ステージの前半にシャウトをバーッと出した時に、今日はどのくらいの調子なのかわかるわけだ。それに応じて、以降の声の出し方を調整してね。ただ「調子がいい!」と思って最初からバンバン出しちゃうと、ある時、パタッと出なくなることもある。「アレ? さっきまで、あんなに出てたのに!?」って。やっぱり使いすぎちゃうと、1日の限度量みたいなものがあるんだな。

――しゃべり声も、初期とはだいぶ変わっていますよね。
あれも、喉の消耗を抑えるため?

閣下 もっとダミ声だったよね。そのせいで、喉がイカレちゃうの。そこで、喉を消耗するのは得策ではないという判断だね。しゃべり声の迫力よりも、歌をちゃんと歌えることを優先するようになっていったということだな。当たり前のことだけど(笑)。

■アンコール前には味噌汁を飲む

――普段の生活で、歌のために気を使っていることはありますか? たとえば、食事のバランスとか。

閣下 吾輩の世仮の家庭が、そもそも栄養バランスにすごくうるさい家だったから、無意識にバランスを考えて食事をするようにはなっているけど、むしろ酒の席でどれだけ騒ぐかとか、そっちだな。打ち上げのせいで次の日、歌えないということもあるわけで。打ち上げが楽しいのはわかるけど、そこでセーブすることによって、翌日もうまい酒が飲めるようになるんだと、そういう気持ちで打ち上げに臨まなくちゃいけない。

――閣下は、ステージドリンクにもこだわっていますよね。確か昔は、ポッカの維力(ウィリー)を飲まれていたと思いますが。

閣下 よく知っているね! ウィリーはね、喉にいいかどうかはわからないけど、スポーツドリンクとして飲んでいたんだな。そういう触れ込みだったでしょ? 中国の秘伝の植物エキスを使って、中国のオリンピック選手はみんな飲んでいる……みたいな。味も、当時のスポーツドリンクとはちょっと違って、好きだったんだな

――あ、そうだったんですか。一般的にはあんまり……。

閣下 うん、好きな人は多くなかったな(笑)。吾輩、だいたいそういうものが好きだから。人があまり好きじゃないものが。

――薬の感覚で、まずくても体にいいから飲んでたわけじゃなくて、そもそも味が好きだったと。

閣下 そう。だから箱で買ってたもん。あまり人気があった飲み物とはいえないので、どこでも買えるわけではなかったんでね。ツアーでウィリーをずっと飲んでた時は、現地で買えないから、もう箱ごと持ち運んでたな。

――ステージ脇では、味噌汁とかコーンポタージュを飲んでいるそうですね。

閣下 それは、ステージドリンクではないけどな。ステージの上にいる時はライトも当たってて暑いから大丈夫なんだけど、着替えやアンコールでのために裏に行ったりすると、特に冬場なんかはすごく温度差があるんで、急激に体も動かなくなるし、声も出なくなることがあるんだ。これはどうしたもんだということで、とにかく温かいものを飲んでみようといろいろ試したんだ。ショウガ湯とかカリン湯とか……でも、市販の粉を湯で溶くタイプの飲み物って、ステージで汗をバンバンかいている時に甘すぎるのね。「なんか違うな」と思っていた時に、塩分のある味噌汁を飲んだら、すごくうまいと感じたわけ。これは、体が塩分を欲しているに違いないと。

――ああ、肉体労働者と同じ感覚ですね。

閣下 その時にすごくうまく感じるものは、体が欲しているんだろうと。……そういう意味では、ビールを一番欲しているんだが(笑)。

――ちなみに、今のステージドリンクは?

閣下 今は3種類。ただの水と、喉にいいとされているスロートコートというハーブティー。あとは、ハチミツとクエン酸を入れて、ぬるい湯で溶いた飲み物。最近は、そこに塩を入れている。3種類を、その時の自分のコンディションに合わせて飲んでるんだけど……。まあ、そんなに深く考えては飲んでいないな。3つ並んでたら、急いでる時はどれでもいいし。

――それだけ喉や歌い方を気にして歌声を守っている閣下ですが、あの衣装は歌いやすそうには見えないんですけど……?

閣下 衣装にもよるな。首輪をしていることが多いんだけど、これは正直、あんまり歌いやすくないね。やっぱり、喉仏の周りが圧迫されていないほうがいい。でも、あとは、それほどでもないな。年を重ねて、なるべく動かしやすいように重たくない素材で作るようになってきたので、はた目で見るほど動きにくくはないと思う。

――昔の衣装は、動きづらかった?

閣下 どういう素材がいいのかわかっていなかったから、重いし錆びちゃうし……。でも、当時は自分も若かったから、あんまり気にはならなかったな。去年作った戦闘服(聖飢魔IIの場合はこう呼ぶ)は、ちょっと重たかったけど、それはデザイン上しょうがなかったんで。見た目と実用性と、どっちを取るかという判断もあるよね。

――歌いやすいということを追求するだけではなく、ビジュアルなども含めて、トータルで伝わるか伝わらないかが重要だと。

閣下 もちろん、歌が一定のレベルを超えていれば、だけどな。だって、この話を突き詰めていくと、転げ回りながら歌ったり、三点倒立しながら歌ったり……そんなことしないほうが、うまく歌えるに決まってるじゃん(笑)。でも、トータルで考えて、面白きゃいい、という部分が優先される時もある。まあ、ライヴで10数曲歌っているうちの1曲くらい「そうしないほうがうまく歌えるのにな」っていうのがあっても、それはそれでいいでしょ?

――トータルでの伝わり方という話でいうと、閣下の場合、ビジュアルが強すぎるという問題もあると思うんですが、そこに対するジレンマはなかったですか?

閣下 いっぱいあるよ。自分と同じくらいのキャリアのあるミュージシャンで、テレビドラマに出ている人って、いっぱいいるじゃない。……でも、吾輩は出られないからね。

――あ、そっちのジレンマ(笑)。

閣下 「オレのほうが、うまくできるのにな」って思いながら見ているよ。吾輩には、自分の役か、悪魔の役くらいしかオファーが来ないから。

――歌うに当たっても、このビジュアルが邪魔になることってあるんじゃないでしょうか?

閣下 歌の種類によってはあるだろうな。でも概して、きれいごとを歌っているような歌は好きじゃないので、この顔で困るような歌は、そもそも好きじゃないんだ。

――聖飢魔IIって技術力はすごく高いのに、このビジュアルのせいで「認めない!」と思っているヘヴィメタ好きも多そうですよね。

閣下 それも、山のようにいるだろうな。そりゃあね、なるべく大勢の人が「いい」と思ってくれるに越したことはないんだけどね。はなっから嫌いだって言っている人に、こっちがへりくだってまで好きになってもらわなくても、食うのに困ってるワケじゃないしってことだよ。

■「蠟人形の館」を、代表曲とは言わせないぞ!

――今回の本では「歌唱論」についていろいろと語られているわけですが、最近はライヴを口パクでやっている人も多いわけで……そのへんの問題というのは、どう考えていますか?

閣下 まあ、それぞれのスタイルだからね。「生の声で歌っていなきゃ、そんなのは歌じゃない」とも思わないよ。ショーだって割り切ってしまえば、ライトがきれいでダンスをバンバン踊っていて、それだけ動いているとさすがに歌を完璧に歌うのは難しいんで、録音したのを同期させています、というケースもあるだろうし。結局は、客との関係なんじゃないかな? 何を見たいと思っているのか、何を見せたいと思っているのか。

 吾輩なんかは、そりゃあ日によっては「テープで……古いな……音声データで流してくれりゃ、楽なのにな」っていう体調の日もあるけども、それと向き合って、どういうふうにステージを乗り切っていくのか。その戦いがあって、クリアした時にはうれしいし、悔しい時もあり。いろいろと考えて進んでいくのが好きだから、そういうやり方をやっているだけで、好きじゃなかったら別の方法を考えるだろうね。だから口パクをしている人も、それはそれでいいんじゃないかな。ホントは歌ってないくせに、いかにも歌ってるように見せかけているヤツは潔くないとは思うけど。

――それでは最後に、「何かで世に出たい」と思っている若者にアドバイスを頂けたら。

閣下 やりたいんだったら、やってみればいいじゃないってことだけだよね。すぐにあきらめちゃうなら、そんなにやりたかったことじゃないんだろうし、すっごくやりたいんだったら、ある程度食い下がるんじゃない? その結果、才能がないことに気づくのかもしれないけど。まずは「やるだけやってみる」ができるかどうかだよね。

――閣下の場合は、世に出る前、どんなモチベーションで活動されていたんですか?

閣下 最初はやっぱり、単なる有名欲みたいなものもあったんだろうな。でも、いったんそれが達成されると、次の目標が必要になってくる。「有名じゃないから、有名になりたい」と思っていたヤツが有名になれたら、次は「違う側面も知ってほしいな」とか「自分が常々考えていることを、みんなが同じように考えてくれればいいのにな」とか、別の欲望が出てくるわけだな。要は、社会に影響を与えたくなるということだろうね。吾輩の場合は、そうだったかな。

――確固たる地位を確立した、いま現在のモチベーションは、どこに置いていますか?

閣下 いくつかはあるよ。たとえば、インターネットがここまで発達してきているんで、もっといろんな国の人に知ってほしいなと思っていたりね。あとは、吾輩は随分長いことこの業界にいるけれども、実は世間一般での代表曲というのは「蠟人形の館」しかないんだ。最初に出てきた時の曲が代表曲。やっぱり、それを超える曲を歌いたいよね。30年やってきて、最初に勝ってないんだもん。もう「蠟人形の館」を代表曲とは言わせないぞと。
(取材・文=北村ヂン)

●『デーモン閣下 悪魔的歌唱論』
定価 2,160 円(税込)
版元 リットー・ミュージック