毎回、ワケあって顔出しNGのゲストが登場し、「パリピ」「偽造キラキラ女子」などの知られざる人々の生態を解明するトークバラエティ『ねほりんぱほりん』(NHK Eテレ)。MCの山里亮太南海キャンディーズ)、YOUが自身にそっくりなモグラ人形に扮し、文字通り根掘り葉掘り突っ込んでいくさまが大好評だ。



「メス感を出す」、「先イエーイ!」などゲストから飛び出すパワーワードの数々に、SNSでは「NHKがおかしくなっちゃった!」「尖りすぎ」などと反響の。先月、惜しまれつつ最終回を迎えた同番組だが、ひそかに放送再開のウワサも……。そんな“NHKらしくない”同番組のディレクター・藤江千紘氏に話を聞いた。

――番組のスタートには、どんな経緯があったんでしょうか?

藤江千紘(以下、藤江) 2014年くらいに、ネットを見ていてテレビを見ていないような人たちが見るような番組を作ってほしいという局内の要望があったんです。それで、ネットのブロガーの人とか、論客の人に出演してもらって、SNS上などで話題になったトピックなどについて過激に語るトークショーのような番組ができないかなと思いまして。私がネットのことについて全然わからなかったので、30~40人の論客やブロガーの方々と実際にお会いし、お話をし、実感したのはやっぱり顔出しだと話せないし、話すことも丸まっちゃう。
じゃあ、顔出ししないで出てもらうのがいいなと思って、顔が出せないなら人形にしちゃえばいいんじゃないかなというのがきっかけですね。それで、そのあとにネット上で話題になっているけど、実際には誰も詳しく知らないっていうことをNHKが徹底的に取材したら、ネットにあるものを後追いしてテレビにするよりも、ネットにはなじむんじゃないかと。テレビに顔出しできない人たちに、人形になってもらって実のところはどうなの? というところを取り上げようというのが、スタートです。

――いわゆるネット世代が、テレビを見ていないというのは感知していたんですか?

藤江 NHKの視聴者のほとんどが、70代以上ということがわかっていました。なんとかして壮年期以下の視聴者を獲得しないとまずいという問題意識が、この5~10年NHK内部であったんです。同世代や下の年代の友達でテレビを持っていない人も多いので、見られていないな、というのは私自身もすごく感じていました。


――“ぶっちゃけ系”の番組が流行する中で、人形劇というのが大きな差異だと思うんですけど、アイデアは、どのようにして出てきたんですか?

藤江 思いつきです(笑)。顔がうつらないようなカメラアングルで撮影したり、モザイクにすると悪い人感や下世話というか、アングラな感じが際立っちゃう。だったら、いっそ、ぬいぐるみみたいなかわいい感じにしちゃえば見た目がほのぼのして、不思議でおもしろい感じになるんじゃないかって、家でぼーっと企画を考えているときに、ふと思いつきました。

――キャラクターのデザインは、MCの山里亮太さんとYOUさんに寄せてデザインしたんですか?

藤江 タイトルが先に決まって、その後に山里さんとYOUさんのMCが決まって、それから人形がモグラとブタに決まりました。ねほりんは、マジメにスコップをもってねほりはほりするピュアなイメージで、ぱほりんは電動ドリルで楽して掘るけど、時々掘ったときの掘り当て方がすごいみたいなイメージ。YOUさんのちょっとけだるそうな感じをイメージして、ぱほりんは半目になるようにしたり、よくワンピースや袖のない服を着ている印象なので、衣装を寄せたりしました。
ブタのほうは、実はいろいろと迷ったんです。宇宙人とか架空のものにするかっていう議論があったんですけど、わかりやすくファンタジー感が出るものがいいねって話になり、じゃあなんの動物がいいだろう? ということで、 “タブーを話してもらうからブタ”かなって、オヤジギャグで決まりました。

――最終回を迎えましたが、ずばり放送再開はあるんですか?

藤江 先のことなので、私たちもはっきり言えないんですけど、準備はしてます。

――「尖りすぎ」「NHKらしくない」などSNSの反響がありますが、現場では、どのように捉えていますか?

藤江 NHKではナンパ塾に通う人や、偽装キラキラ女子みたいな、そういう人たちを取り上げること自体が、あんまりないんですね。取り上げるテーマがNHKらしくないという意味で、NHK内の人からちょっと変わっているね、攻めてるねと言われることはあります。でも、番組としては、人間にはいろんな人がいて、全然どんな人かわからないような人や自分とは遠い世界だろうなと思ったような人でも話を聞いてみれば、共通点や、私と近いじゃん! みたいなことがあったり、悪そうだなと思われている人でも、愛おしいところとか憎めないところとか、いろんな部分があって、そういうのも含めて“人間って面白い”って部分を打ち出しています。
それについては、大人のための教養番組として、NHKが本来やることの中からそんなに外れてないのではと個人的に思っています。だから、尖っている部分とそうでない部分と両方ある。でも、自分たちとしては、普遍的なものにつながると信じてやっているし、ただ、それが知りたいからやっているというスタンスです。

――視聴率を狙ってないということですが。

藤江 最終的な目標が視聴率じゃないんです。それよりも少数の人に深く刺さるコンテンツ。
「こんなのあったよ」って、ざわざわしてもらうことを目指しています。そういったことがネットニュースになって、番組を知って見てくれる人が増えることになれば、もちろんいいんですけど。

――テーマはどのように決めているんですか?

藤江 基本的にはその本人に出演してもらって、その人の人生について話してもらうんです。人の噂話を顔を隠してやると、なんでも言えちゃうので、そうではなくて当事者に“自分の話”をしてもらうのが大きなポイント。その上で、先方に断られることがなければ、取材をします。例えば、元犯罪者のように、その人を出すことで誰かが傷つくかもしれないテーマは、今は避けてはいます。


――ぶっちゃけ、リサーチめちゃくちゃ大変ですよね?

藤江 めちゃくちゃ大変です(笑)。番組のスタートから30ネタくらいを並行して調べて、やっている途中でおもしろいなって思ったネタは、どんどん足して、足して。この人、主人公にできるなって人が見つかった順で放送しています。本当、自転車操業です(笑)。番組の終わりに「人間っておもしろい」ってテロップが出るんですけど、それが番組で一番大事にしていることで、この人の話を聞けば、「人間っておもしろい」ということが描けるなっていう確信が担当のディレクターの中で持てたら、収録をする流れです。

――放送を見た人がSNSを、逆にSNSで番組を知った人が放送を……といった、SNSと番組で補完されるような構成だと思います。そういった視聴者の導線って、考えているんでしょうか。

藤江 考えていますね。パイロット版を2015年に作ったときに、一時的に話題になったんですよ。でも、その人たちが内容を知りたいと思っても番組HPになにも書いてないし、何も情報がない。そうした興味を持ってくれた人の受け皿になるものを作ろうと思って、サイトに動画を載せたり、まとめ記事を作っていたんですけど、それも番組HPの存在を知らない人は、たどり着けないじゃないですか。私もそうなんですけど、ほとんどの人はSNSで情報収集していると思うので、YouTubeやSNSになるべく情報を載せて、そこから興味を持ってくれた人が番組を見てくれるようにしています。あとは、番組のおまけというコンテンツを作っているんですけど、それもサイトまで来てくれた人に、「ありがとう」とおもてなしみたいな気持ちでやろうと思って始めました。番組の価値を放送以外でもいろんな所で出して、その中のどこかのチャンネルでひっかかってもらって、番組に愛着を持ってくれる人が増えたらいいなと思っています。

――そういった試みは、NHKでやってこなかったんですか?

藤江 まったくではないですけど、そんなにやってきてないと思います。「プロ彼女」の放送のときに、胸を強調して「メス感を出すのが大事」ってゲストの発言に反応して、SNSで「メス感」って言葉が盛り上がって、ゲストならではの言葉に反応する人が多かった。私たちも、そういったそのゲストしか言えない、ゲストならではの言葉を引き出すのを大事にしていたので、テロップを入れて、名言っぽくしたスクリーンショットの画像付きツイートをすることにしました。

――「パリピ」みたいに、事前にある程度のイメージしやすい人でも、取材をしてイメージと違うことって多いですか?

藤江 「先イエーイ」っていうのがあって、「イエーイ!」って言っておけば、「イエーイ!」的なできごとが後からついてくるっていうパリピの言葉なんですけど、聞いてみると想像以上に意外に深かったり、はっとするような人生哲学が見つかる、と思うようなこともありますね。あとは、やっぱりイメージしやすいような人でも山里さんとYOUさんの前だと、意外な話が出てくるってことかもしれないですね。聞いたことがない話や価値観を掘り当てられるかを大切にしています。

――宝探しみたいですね。

藤江 まさにそうですね。どこに金が埋まっているかわからない荒野……荒野って言ったら失礼なんですけど(笑)。草原みたいなところで、ここかな? ここかな? って金を掘り当てるみたいな感じ。だから、見つけたとき、“人間っておもしろい”ってなるんです。
(取材・文=編集部)

●『ねほりんぱほりん』
 NHK、Eテレの顔出しNGの訳ありゲストはブタに、聞き手の山里亮太とYOUはモグラの人形にふんすることで「そんなこと聞いちゃっていいの~?」という話を“ねほりはほり”聞き出す新感覚のトークショー。作りに作り込んだEテレお得意の人形劇と、聞いたこともないような人生の“裏話”が合体した人形劇×赤裸々トークをお楽しみください!