4月よりレギュラー放送がスタートした『笑×演』(テレビ朝日系)は、“芸人が書いたネタ”を“役者が演じる”という趣旨のネタ番組。

 みなさんは、見たことがないだろうか? 映画やドラマなどで、役者が漫才師を演じるシーンを。

これが、正直しんどいのだ。形容し難い座りの悪さがあり、見ていて恥ずかしくなることが多い。漫才にも演技力は重要だけれど、それでいて漫才と芝居は別物。『笑×演』の内容を知ったとき、「かなりハードルの高いことに挑む番組だな……」と、ネガティブな先入観を持ってしまったものだ。

小沢仁志&和義兄弟による手堅い漫才「僕、ダッフィーちゃん大好き!」

 そんな心境のまま、4月12日深夜に放送された同番組のレギュラー放送2回目を視聴したのだが、これが悪くない。この日はまず、「タイムマシーン3号」が書いたネタを小沢仁志と小沢和義の“小沢兄弟”が演じるカップリングが決行されている。

 漫才の内容だが、弟の和義がディズニーのキャラ「ダッフィー」をお気に入りにしているというWikipedia情報に注目。コワモテを気取る和義から「俺の体重はりんご5個分」「俺は海が好きだ。カリブの海賊になりてえ」と無意識にかわいさがこぼれ落ち、兄の仁志が「とことんかわいいな、お前は!」と突っ込む展開で掛け合いは進んでいった。

 その上、次第に仁志からも“かわいいもの好き”なパーソナリティが露呈。ミッキーのマイタンブラーを持ち、週7でスタバに通うとカミングアウトした兄と弟が「僕、ダッフィーちゃん大好き!」「僕も大好き!」と愛らしい顔で2人でひとつの指ハートを作り、「次のVシネはこのキャラでいこう」と宣言して漫才は終了した。

 要するに、小沢兄弟のパブリックイメージと、漫才で演じるキャラのギャップが面白さにつながったわけだ。
「タイムマシーン3号」の狙いは、ドンピシャ! 作りとして、面白くならないわけがない漫才である。手堅い。

■つまらないと思いながら漫才に臨んだ布施博による、リアルにキナ臭い漫才

 問題は、この日の2組目。「馬鹿よ貴方は」の書いた漫才台本を演じる俳優は、布施博と川野太郎によるコンビである。

 ここで詳細は記さないが、布施にまつわるキナ臭いウワサ(真偽不明)は何度か耳にしたことがある。しかも、「馬鹿よ貴方は」が姿を見せる前、布施はスタッフに向かって腕を組みながら「俺、今のお笑いの人たちに面白いと思うところないんだよ」と言い放つのだ。なぜ、場をこんなにヒリヒリさせる必要があるのか?

「馬鹿よ貴方は」が現れても、布施は“らしさ”を崩さない。彼らが持参した漫才台本に目を通し、髪をかき上げながら「どうなのかね、コレ(苦笑)」と発言する布施。見ているこっちが、嫌な汗をかいてしまう。しかも、「馬鹿よ貴方は」がいなくなるや「別に面白くねえんじゃないかな」と、布施は思いきり首をひねってみせる。なぜ、こんなにも歩み寄ろうとしないのだろう……?

 とはいえ、どうしたって本番はやって来てしまう。不本意だろうがなんだろうが練習を積んだ布施&川野は、客前で漫才を披露した。


 そして、いきなりセリフを飛ばしてしまう布施。優しい川野に導かれてなんとか布施は台本を思い出し、おぼつかないまま2人の漫才は進んでいく。何しろ布施はセリフを忘れるだけでなく、直後にボケの場面で思いっきり噛んでいるのだ。やはり、不本意な姿勢のまま漫才に臨んでいるのだろうか? キナ臭い漫才である。

 そして、漫才は佳境に差し掛かる。2人は、普段決して言わなそうなセリフを言うようお互いをけしかけた。

川野 「布施博が絶対言わないような言葉は?」
布施 「おい、ギャラ上げろよ!」
川野 「それ、言いそうですよ」

 笑ってしまった。確かに、布施は言いそうだ。そして、今度は布施が川野に“絶対言わないようなセリフ”を言うようリクエストする。すると、川野は熟考の末に「チンコ」と口走ってしまう。続けて、川野は「布施さんも言ってくださいよ!」と背中を押し、「チンコー!」と、2人は絶叫したままこの漫才は終了してしまった。

 やはりこの漫才も、面白さの種類は小沢兄弟と同じだろう。
普段の姿との差異、ギャップの激しさが笑いにつながっている。要するに、台本を書く芸人が役者に無茶をさせるほど笑いも大きくなるというシステムだ。

 とはいえ、話はそう単純ではない。無茶をさせておきながら、その面白さが“芯を食って”なかったらどうする? 一歩間違えれば、アル・カポネの放ったジョークに下っ端ギャングがおべんちゃらで笑うみたいな気持ちの悪い空間が出来上がりかねない。危ない橋である。

 しかし「チンコ」と雄叫びを上げた瞬間、漫才は確実に“接待笑い”の域を突破していた。無事、芯を食った!

 この番組は、見ているこっちが疲弊する。人選、ネタ、そもそも番組内容……。久々に、リスキーな笑いを見た思いだ。
(文=寺西ジャジューカ)

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