本州最北端の町・青森県大間で再会を果たしたIKKU(駒木根隆介)、TOM(水澤紳吾)、そしてMIGHTY(奥野瑛太)の3人は、伝説のラップグループ「SHO-GUNG」を再結成することに。第3話となる今回は、大間を後にして3人が“生ぬるい青春”リセットの旅へといよいよ出発。

“将軍”だけに黄門さま、助さん、格さんのようなラップでの世直し旅になるのか。まぁ、3人ともうっかり八兵衛みたいな三枚目キャラだから絶対そうはならないだろうけど。

 オープニングはIKKUとTOMがお世話になったスナックのひとり娘・トーコ(山本舞香)とトーコにしつこく言いよってきたメガネ中年・マキノ(杉村蝉之介)とのベッドシーン。「ふつつかものですが、末永くよろしくお願いします」とパジャマ姿で三つ指を付くトーコ。「初夜だな」と鼻の下を伸ばすマキノ。薄暗い和室に並べて敷かれた布団が妙にエロい。


 地元資産家の凄技を見せてやろうと言わんばかりにマキノがアタッシュケースを開くと、中からは極太バイブにローション、さらには手錠……と大人のための快楽グッズがぞくぞく。ドラえもんならぬエロえもんである。トーコの白く細い手首に手錠を掛けながら「やっと、わいの嫁さんだな」とむっつりほくそえむマキノ。

「いや~ッ!!」と目が醒めるトーコ。フロイトだったらどんな心理分析するのか、ちょっと気になる生々しいトーコの性夢だが、前回のTOMが見た美人嫁トリーシャ(コトウロレナ)に棄てられる夢に続いての夢はじまり。渥美清主演のロードムービー『男はつらいよ』シリーズも、初期~中期は寅さんが旅先で見る夢はじまりが多かったことを思い出させる。
デコトラに乗って、東北道を縦断していくこれからの展開は、菅原文太主演のロードムービー『トラック野郎』シリーズも彷彿させるし。今回の『マイクの細道』は実は『SRサイタマノラッパー』劇場版三部作の成功でメジャーシーンというネクストステージに立った入江悠監督自身が、日本映画史に残る過去の人気シリーズを再発見していく旅なのかもしれない。

 前回、夜の大間崎で「SHO-GUNG」を再結成することに同意したMIGHTY。漁港にある倉庫で、IKKU、TOMと酒を飲み交わしている。再結成で盛り上がり、そのまま朝まで飲み明かしたらしい。東京でも栃木でも自分の居場所を見つけることができなかったMIGHTYは、「こうやって、SHO-GUNGとしてまた集まれて……。
なんか、ありがとー」と素直に喜ぶ。埼玉のブロッコリー畑で育ったMIGHTYは刑務所暮らしを経験したものの、心の根っこの部分はひどく純真だったりする。でも、純真がゆえに不条理な状況に遭遇すると暴力沙汰を巻き起こしてしまう。そのことを理解してくれる旧友たちとの再会が、MIGHTYは本当にうれしそうだ。

 男の友情は永遠であることを確かめ合う3人。まるで横山光輝の大河コミック『三国志』の「桃園の誓い」のような名シーンである。
だが、そんな名シーンにミソを付けてしまう男がIKKU。体型の割に虚弱体質なIKKUは酔っぱらって、倉庫脇に駐車してあったトラックに思わずゲロをぶちまける。大間に来てからマグロ料理ばかり食べていたから、さぞマグロ臭いゲロだろう。マグロのブツ切りトロロがしばらく食べられそうもない。

 劇映画における嘔吐シーンは非常に重要だ。ロードムービーの名作『スタンド・バイ・ミー』(86)に実話もの『アポロ13』(95)でもゲロシーンが強烈な印象を残している。
IKKUが吐いたゲロも、『マイクの細道』を大きく動かすきっかけとなる。IKKUがゲロを浴びせたトラックは、案の定、IKKUと相性が最悪のデブドライバー・カブラギ(猿川皆時)のデコトラだった。

 あわててTOMがバケツで水を掛け、MIGHTYが雑巾で拭き取ろうとするが、なぜかペイントがはげ落ちてしまう。水性絵の具で描いたデコトラなのか? お風呂で流れ落ちる刺青みたいなものか? それはともかく、情けない状態になったデコトラを見て、カブラギは大激怒。「このペイントは男の勲章だ。トラック野郎の命だ」と怒り狂うカブラギは、IKKUたちを港に正座させて本名を名乗らせる。
IKKU=加賀谷郁美、TOM=本間友弥、MIGHTY=松本樹。本名が明かされると、魔法が解けたカボチャの馬車のように、3人はますますヘタレに見えてくる。

 カブラギから「ペイントの修理代、120万円」を請求されたIKKUたちはお金を持たないため、トラックの荷物の搬入を手伝わされるはめに。再結成した「SHO-GUNG」としての初コラボがトラックの荷物運びとはトホホすぎる。当然1回の搬入だけでは120万円に足りるはずもなく、カブラギのトラックに乗って岩手県での荷物おろしも手伝うことになる。全然かっこよくないけど、IKKUたちにはぴったりの旅立ちの仕方だろう。

 午後3時に港を出発することになった一行。大間で世話になった人にあいさつしてくると町へ戻るMIGHTY。7年間離れていた間にMIGHTYとの間に少し溝があることを感じていたIKKUだが、付き合いの長いTOMとはリラックスして即興ラップでやりとりができる。

TOM「SHO-GUNGには新しい曲が必要、おニューなトラックでライブかましたいな♪」

IKKU「イェイェ~、チャンスとマイクは自分の手でつかむ。でもトラックだけはDJに頼む~♪」

 大間郵便局前を歩きながら明らかになるのは、新生「SHO-GUNG」の問題点。3人には劇場版『SRサイタマノラッパー』(09)で披露した「教育 金融 ブランニュー」という名曲があるが、クラブチッタでライブをやるには1曲だけでは間が持たない。できれば、その後の「SHO-GUNG」の歴史を感じさせる新しい曲がほしい。とはいっても、お世話になったTKDこと伝説のタケダ先輩は7年前に亡くなってしまった。新しい曲は誰に頼むか? TOMが創るのか? せっかく下北半島まで来ているんだから、恐山でイタコにタケダ先輩を呼び出してもらえばいいのに。天国からのライムは一体どんな味だろうか?

 そうこうしているうちに、午後3時となりカブラギ号が出発することに。MIGHTYは『SR1』の頃に着ていた懐かしいジャケットに着替えての旅立ちだ。まぁ、マグロのロゴが入った上着のままだとロックフィッシュバンド「漁港」の二番煎じになってしまうしな。だが、ここで気になるのは『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)でMIGHTYと同棲していた彼女・一美(斉藤めぐみ)の存在。東京で問題を起こしたMIGHTYと一緒に栃木へと流れ、刑務所を訪ねたこともある一美だが、大間にはいないらしい。福島の実家で、MIGHTYが迎えに来るのを今もずっと待っているのか。高倉健さん主演作『幸せの黄色いハンカチ』(77)みたいな展開が待っているのか。福島編が今からすごく気になる。

 MIGHTYだけトラックの助手席に座り、IKKUとTOMは荷台へと閉じ込められるはめに。ふて腐れるIKKUだが、この最弱ダメダメコンビの唯一の長所はドン底にいる自分らの状況をラップよって相対化させることができるという点だ。社会から抑圧された黒人文化からジャズ、ソウル、ヒップホップが生まれ、日本の労働歌として民謡が育まれていったように、トラックの荷台で揺られるIKKUの口から自然と歌詞がこぼれ落ちていく。

IKKU「どこにあるんだ、俺たちのフリーダム。MIGHTYの野郎、助手席でズリぃーなぁ。寒いの上等、狭いの上等。SHO-GUNGの旅は三人旅~、ラップの道は曲がり道~♪」

 ラップの即興性とみちのく旅情を感じさせる浪曲・演歌調の節回しをリミックスさせたメロディを口ずさむIKKU。何となくだが、新生「SHO-GUNG」の目指す方向性がぼんやりと見えてくる。そしてトラックの荷台には、メガネ中年・マキノとの結婚を嫌うトーコが密航者として潜んでいた。荷物の隙間から、つぶらな瞳をきょろつかせるトーコ。フランク・ヘネンロッター監督のカルト映画『バスケットケース』(82)のベリアル兄ちゃんみたいで超キュートだ。

 クラブチッタでのライブ開催まで、2週間足らず。それまでに新生「SHO-GUNG」の新曲はできるのか。TOMの嫁トリーシャは埼玉でTOMの帰りをちゃんと待っているのか。MIGHTYの元カノ・一美の再登場はあるのか。そして、かねてより童貞の疑いが噂されているIKKUは晴れて童貞ラッパーから卒業することができるのか(ちなみに『男はつらいよ』の寅さんも素人童貞らしい)。それぞれの課題を抱え、甦った「SHO-GUNG」は遥か川崎クラブチッタを目指す。SFアニメ『宇宙戦艦ヤマト』のエンディングみたいでちょっとかっこいい。SHO-GUNGよ急げ、自分たちと埼玉の未来を懸けて。運命のライブまで残り13日!
(文=長野辰次)