“昭和漫画”を現代へ受け継ぐ漫画家・史群アル仙が語る、ADHDとの付き合い方

“昭和漫画”を現代へ受け継ぐ漫画家・史群アル仙が語る、ADHDとの付き合い方

 手塚治虫やちばてつや、永井豪といった漫画家に影響を受け、昭和を彷彿とさせる懐かしくてどこか哀愁漂う作風で人気の漫画家・史群アル仙(シムレアルセン)。不安障害やADHD(注意欠陥・多動性障害)など、メンタル面にさまざまな支障を抱える彼女が、自身の経験を赤裸々につづったコミックエッセイ『史群アル仙のメンタルチップス~不安障害とADHDの歩き方~』(秋田書店)を上梓した。WEB連載時から話題を呼んでいた本作だが、作品を描き上げた現在の心境と、社会的な認知が広がりつつあるADHDについて、アル仙氏に話を聞いた。

***

――まず、本書を描こうと思った経緯について教えてください。

アル仙 知ってほしいことがある、伝えたいことがある、生きづらさを乗り越える工夫を共有したいという気持ちと、自分みたいな人間を主人公にしたらどんな漫画ができるんだろう? といった思いからです。

――かなり赤裸々に描かれていますが、ご自身の過去を振り返ることは、つらくありませんでしたか?

アル仙 前向きな気持ちが芽生えてからの執筆だったので、基本的にはつらくありませんでした。ふと強烈な出来事を思い出してつらい気持ちになった時は、本書にも登場する恩師・菩須彦(ボスヒコ)さんに助けてもらっていました。ただ、時系列を思い出す作業が一番難しくて、つらかったですね。1カ月の間に大きな出来事が連発したり、半年間何も起こらなかったりと波が大きかったので、どういうふうに描いたらいいのか悩みました。

――この本を描く前と描いた後で、ご自身の中で変化はありましたか? 

アル仙 ほんの少し冷静な目線で、自分の生き方を見つめられるようになったと思います。また、漫画に描けるようにと、日々、生きづらさ対策のアイデアを考えるようになりました。

――医師の誤診が原因でクスリ漬けにされ、体もメンタルもボロボロの「ゴミクズ時代」のエピソードはかなり強烈です。夢遊病で街を徘徊するようになったり、幻覚に襲われたり、挙げ句の果てには自殺未遂……。この時期は、どれくらい続いたんですか?

アル仙 それが詳しく思い出せないんです……。漫画では印象的だったことを抜粋して描きましたが、忘れていることもあるようです。週1でボスヒコさんの絵画教室に通っていた時期だったので、ボスヒコさんやメンバーから、当時の自分の言動を聞いて思い出すこともあります。感覚としては、とてつもなく長い間だった気がします。この時期は、人としての責任感やモラルを完全に失っていました。

――そこから精神科病棟へ入院し、紆余曲折を経て、やっとADHDと診断されたわけですが、もっと早くそう診断されていたら……という思いはありますか?

アル仙 小学校・中学校での生活が苦しかったので、その頃に自覚していたら、少しは違ったのかなとも思います。当時は、何度気をつけようと思っても「またできなかった」「なんでできないんだろう……」と、解決の糸口が見えなかったので。その一方で、診断されたところで、学校側も私自身も何もできなかっただろうなあ、とは思いますが……。

――本書には「障害は免罪符にならない」と書かれていますが、初めからそのような考え方だったのでしょうか? それとも、何かきっかけがあったんですか?

アル仙 ADHDだと診断されてすぐは、肩の荷が下りたような気持ちになったのですが、そのうち何かうまくいかないことがあるたびに「どうせADHDだから……」という言葉が頭をよぎりました。ADHDコンプレックスというか。しゃべっては自己嫌悪、行動しては後悔。やがて、いろいろなことをあきらめるようになってしまいました。ADHDを免罪符にして自分を甘やかして逃げて、堕落した生活を送っていました。その時、ボスヒコさんに叱られて、考え直したんです。「不得意なことはあっても、診断を免罪符にして何もかも仕方がないとあきらめていたら、どんどん何もできなくなっていく。診断は免罪符にならないし、してもいけない。不得意なことはあるけれど、できることもある。一生懸命やれば自信を持てる。可能性をあきらめてほしくないな」って。

――アル仙さんはボスヒコさんとの出会いがきっかけでアートという喜びを知り、漫画家になりたいという夢を取り戻していきました。

アル仙 初対面の時は、体は大きいし、ただ怖い人だと思っていましたが、ハングリー精神とチャレンジ精神の塊で、とても尊敬しています。そして何より、初めて真面目に叱ってくれたことが大きかったです。今までは怒られることはあっても、ちゃんと正しく叱ってくれる人がいなかったから。そして、勇気が出ない時に、ポンと背中を押してくれるんです。

――2014年からTwitterにアップし始めた1日1ページの漫画「今日の漫画」も、「ストーリー構成がなっとらん!」というボスヒコさんのアドバイスで始めたものなんですよね? 今日の漫画」はわずか半年でフォロワー数6万9,000人を超え、商業誌デビューのきっかけとなりましたが、ご自身にどんな影響を及ぼしたと思いますか?

アル仙 そうですね、今から振り返ると、生きる意味をもらったんだと思います。幼い頃から漫画と一緒に生きて、漫画と一緒に死にたいと思っていたので、「今日の漫画」が拡散されたあの日がなかったら、商業誌デビューの際に支えてくれた方々がいなければ、私はとっくに死んでいたと思います。だから自分の命は、読者のみなさんと、支えてくれるみなさんから授かったものだと。そういう意味で「命を粗末にしてはいけない」という言葉は、本当だったんだなって。

――現在、漫画家としてお忙しい日々を送っていらっしゃると思いますが、忙しすぎてパンクすることはありませんか? 

アル仙 執筆量自体は忙しいといえるほどではありませんが、スケジュール管理が苦手で、些細なことでも変化があるとパンクして、パニックになります。その時は、ボスヒコさんに相談し、さらにわかりやすく整理してもらって、助けてもらっています。恥ずかしながら、まだまだ試行錯誤中です。

――アル仙さんにとって、漫画はどのような存在ですか?

アル仙 漫画は私にとって、命と直結しているものです。幼い時から大人になった今まで、人生の相棒でした。対人関係が苦手でも、漫画を通してだとコミュニケーションができました。漫画は私の恋人であり、親友であり、親であり、読者との対話であり、武器であり、目です。

――最近ではADHD関連本が多数出版されていますが、このように世間の関心が高まること、認知が広がることは好意的に捉えられていますか? ADHDという言葉だけが独り歩きして誤解を生んだり、軽く捉えられてしまうのではないかといった懸念もありますが……。

アル仙 正直に言うと、不安です。執筆中に悩むこともあります。知り合いから、「書類1~2枚と少しの問診だけで、ADHDという診断書がもらえる」というウワサを聞きました。ADHDの症状は、パッと聞いたら誰にでも当てはまるようなこともあります。「自分はADHDなんだから仕方ないだろ」と開き直る人や「あなたはADHDなんだから気をつけてよ」という人にも出会いました。また、ADHDという名称は、あくまで生きづらさを取り除くヒントだと思うので、個人の姿をしっかり見た上で診断してほしい。ADHDの認知と共に、当事者が前向きに対応できるアイデアなどが広まっていったらいいなあと思います。

――沖田×華さんの『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』(ぶんか社)や永田カビさん『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス)など、ADHDやアスペルガーといった生きづらさを赤裸々に明かした告白系漫画も増えていますが、実際に読まれた本はありますか? 

アル仙 実は、薬局の待合室で沖田×華さんの漫画を読んだのがきっかけで、発達障害、ADHDの存在を知りました。当時、自分はADHDだと思っていなかったんですが、環境は違えど沖田さんの経験と自分の経験が重なることが多くて。笑えるけど笑えない、けど面白い。そして「自由に自分のことを描いていいんだ」と、感銘を受けたことを覚えています。

――沖田さんも自分の障害をきちんと受け入れた上で、人生を謳歌されていますよね。それでは最後に、『メンタルチップス』をどんな人に読んでもらいたいですか?

アル仙 当事者の方はもちろん、親御さんや周囲の人にも読んでほしいです。私たちは自分をコントロールするのが難しいです。自分でも予想がつかないことをやってしまったりします。そんな私たちが孤立すると、ヘタしたら私の「ゴミクズ時代」みたいになってしまうかもしれない。ADHDの人も、そうでない人も、みんな同じ人間。お互いが工夫して、協力して生きていけたらいいなと思います。

 また、当事者の方には「できない」という言葉に押しつぶされないでほしいです。工夫したらできるようになることがある。できることが増えたら、生きづらさが減る。「少しずつでもいい、人生はチャレンジだ」と楽しみながら、ADHDと向き合ってほしいなと思います。生き続けるのがつらい、という言葉は否定できません。死にたいという気持ちも否定できない。だけど、1%の可能性を信じて行動を起こしたら、何かが変わるかもしれない。勝手な言葉かもしれないけど、生きることをあきらめないでほしいです。
(取材・文=編集部)

●史群アル仙Twitter
https://twitter.com/shimure_arusen

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