相方の不祥事による突然のコンビ解散から2年。かつて、コント日本一を決める『キングオブコント2010』(TBS系)を制した元キングオブコメディ今野浩喜は、俳優としての実績を着実に、そして飄々と積み重ねているように見える。



 昨年はドラマ『僕たちがやりました』(フジテレビ系)で、ゴールデンのレギュラーにも進出。お茶の間にも、その独特な風貌が広く浸透し、テレビ、映画、演劇などジャンルを問わず出演オファーが絶えない状況が続いているという。

 そんな今野浩喜に、“ほぼ専業”の俳優として生きる日々と、冷めやらぬお笑いへの思いを聞いた。(取材・文=編集部/撮影=関戸康平)

 * * *

──解散から丸2年、すこぶる順調に見えます。

今野浩喜(以下、今野) 順調に見えるじゃないですか。

──はい。

今野 私がね、今びっくりしているのが、2017年の夏にゴールデンのドラマでレギュラーをやったわけじゃないですか。

──そうですね、はい。

今野 ……生活水準が変わらないんですよ! 非常に不思議なんです、これが。

──あはは(笑)。それは、事務所批判、マネジャー批判ですか? それとも『僕やり』を制作した関西テレビに、何か思うところが……。

今野 いやいや(笑)。
誰を批判しているわけでもなく、実際にそういうドラマに出て、思ったんですよ。あ、変わらない! って。もっと大金持ちに見えるじゃないですか、ああいうところに出ている人たちって。でも変わらないんでね。なんだろうな、意外と夢がない世界なんだなってことが、わかったような気がします、2017年は。

──やっぱり、もっとお金が欲しい。

今野 有名税という言葉があると思うんですけどね、そんなに払うほどもらってないからって。顔だけ出てしまった。割に合ってないと思いますよ。

──また、顔が目立ちますし。

今野 そうそう、そうなんです。

■お笑いとの“2足のわらじ”から“専業”へ

──長い間、お笑いと俳優業の“2足のわらじ”だったわけですが、それがほぼ専業の俳優になったことで、現場に入る心境に変化はありますか? お笑い芸人としてドラマの現場に行くときと、今と。



今野 今はもう慣れっこですけど、当初はやっぱり、本気度は変わりますよね。これでやらないと死んでしまうっていうのは思っていました。

──逆に、普段お笑い番組を見るときの心境はいかがでしょう。

今野 うーん、変わってるのかなぁ。例えば、賞レースとかを見て評価をするとき……誰しもが、評価をするじゃないですか。そういうときに、「言う立場じゃないんじゃない?」って、ふと思うことはありますね。

──これまでは、王者として見ていた?

今野 王者としてっていうわけじゃ……(笑)。子どものころ、『ものまね王座決定戦』(フジテレビ系)とかを見ていて、「(審査員に対して)まず、おまえがやってみろよ」と思っていたから、その立場にはなりたくないよねっていう。だから、あまり評価をしないようにしているかもしれません。

──では、その立場から見て、昨年の『キングオブコント2017』(TBS系)は、どうでしたか?

今野 グフッ!(せき込む)

──にゃんこスターとか。

今野 いや、まあ、なんでそんなことを聞くんだっていう……。ただ、年末にね、後輩とボウリングをやって、ストライクのたびに、にゃんこスターの踊りをやってみたら、すっごいアガるんですよ。
いいと思います、あれ。

──マネしやすいですしね。簡単ですし。

今野 簡単って、私はそうは思わないけど。あれは、結果、簡単なものに見えるけど、ゼロから作っているというのは、やっぱりすごいことですからね。

──もちろんです。あと、最近では“相方不祥事芸人”というのが数多く出てきていますが、NON STYLEの石田明さんやインパルスの板倉俊之さんに対して思うところはありますか?

今野 いやいやいや……。あのー、石田さんにしても、極楽とんぼの加藤さんとか、相方さんをずっと待っていたわけじゃないですか。なので、いないときでもイジる笑いをしていいと思うんですけど、そこは、私と一緒にしないでほしいと思いますね……。

──まったく別だと。

今野 別です。待っているのをヨシとされると、私の立場が、いずらくなるので、世間には状況をちゃんと考えてほしいと。


──確かに「待ってない今野は冷たい」と思われるのは心外ですよね。

今野 そうです。それに、1回待ったことがある(07年に相方の活動休止で半年間ピン芸人として活動した)ということは、忘れないでほしい……。

■ドラマ『僕やり』の“パイセン”役という重責

──昨年は、なんといっても『僕やり』でした。ゴールデンで、ほぼ準主役級の扱い。

今野 準主役ではないですけど。

──実際現場に入ってパイセンという役をやってみて、手応えというか、これはいけそうだなっていうのは、どれくらいでつかめましたか?

今野 意外と、ホン読みのときの周りの反応から、これでいいだろうなっていうのはわかりましたね。

──自分的に、というより、周囲の反応を見て安心する感じですか?

今野 そうです。

──これまでの出演作に比べると、作品の評価に対する責任の重い役だったと思いますが。

今野 それは、ありますよね……。とにかく、自分が背負わなきゃいけないのは、原作ファンの人に対して「全然違うじゃねえか」と思われないようにすることで。パイセンがもっとも象徴的だと思うんです。

原作ファンを丸め込むのが、私の役だと思っていたので。それに、原作を読んだら「最終的にお笑いになろうとする人なんだ」っていう、そこを逆算しながらやる大変さもありましたよね。

──お笑いでいうと、「ダンソン!」とか「空前絶後の~!」とか、後輩のネタを全力でやっているのが、すごく楽しそうでした。

今野 楽しそうに見えたっていうのは、それは演技力のなせるわざでしょう(笑)。お笑いの人がやってるっていう恥ずかしさを出しちゃいけないから、お笑いの私をまず、画面から感じさせちゃいけない。そこは悩みましたけど、終わってみれば無駄な悩みだと思いましたね。

──とにかく、いろいろ重いものを背負った役だったと。

今野 背負ったものでいえば、それは『くそガキの告白』(12年公開の主演映画)のほうが重いですけど。でも、見ている視聴者の数は明らかにドラマのほうが多いですし、これは、本当に生活が変わると思ったんですけどね……。CMとか、その時間帯のレギュラーとか、そういうのが、思っていたより全然ないから……。

──『僕やり』の役のイメージでCMは難しいかもしれません。爆破犯だし。


今野 でもその、演技という面では見られているわけだし、坊主にすることも厭わない人なんだっていうのも……。

──誰も坊主を厭うとは思っていないと思いますが……。

■20歳の“パイセン”と、20歳の今野浩喜

──パイセンは20歳という設定ですが、今野さん自身の20歳のころは、どんな感じでしたか?

今野 えー、憶えてないですね……。オンバト(NHK『爆笑オンエアバトル』)には、もう出てたんじゃないかな。全然憶えてないです。

──手元の資料では、1999年の11月にゲットスマイルズで出ているようです。これ20歳ですね。

今野 憶えてないなぁ……。

──そのころも、人前やカメラの前で何かやるという仕事をしていたわけですが、今と比べて、舞台やテレビに出る怖さみたいなものは変わりましたか?

今野 当時は、圧倒的に緊張していたんじゃないかと。

──場数を踏んで、緊張はしなくなった。

今野 今も緊張はしているんでしょうけど、緊張がどういうものかまで、わかるじゃないですか。緊張したらこうなる、とか。冷静に緊張を受け止めるので、すぐ治まるし、なんで緊張するんだっていうことを突き詰めていくと、緊張する意味がなくなる。そういうことは、あると思いますね。

──逆に、変わっていないことってありますか?

今野 変わってないというか、当時の感じに、また戻ったほうがいいだろうなっていうのは、やっぱ、トガり直してますよね、最近。

──トガりを。具体的にどうトガっているとか、ありますか?

今野 もっとカメラ前だけで、とにかく結果を残すとか、客前だけ結果を残すっていう。

──あ、楽屋でトガるってことですか?

今野 そうですよ。

──本番でトガりを見せるのではなく、楽屋でトガることをやり直してる。

今野 そうです。

──えっと、それはなぜ……?

今野 無駄だと思ったんです。なんだろうな、サッカー選手とか、人の顔色を見てやらないでしょう。そういうところからですよ。もっと「オレがオレが」でしょ、みんな。それは、世界が違うんですけれども。

──要は、パフォーマンスを本番で、ガッ! とやるために。

今野 そう、あんまり仲良くなると、何かを本番で急にやるっていうのが、やりずらいし。「あの人、わからないな」っていう部分を残しておきたい。『下町ロケット』(TBS系)のときに安田顕さんにそれを感じて。あの人、ホントしゃべらないんですよ、楽屋で。でも、気付くとみんなの目がそっちに向くんですよね。本人が、どう意識してそうしているのかわからないですけど。

■「演技力が高い」という評価

──今野さんの中で「演技力」って、なんだと思いますか?

今野 ああー、それはでも、ね。演技力と「売れる」が関係なさすぎるっていうのは、小劇場を見ていると思いますよね。ホントにみんな上手なんで。演技力ってなんなんだって聞かれたら、何かわからないけど、見て明らかに違いますよね。明らかに違う。

──見た瞬間、違う。

今野 見て、すぐ違うのがわかる人っていますよね。いくらつまらない芝居でも、目につく人がいる。そういう何かですよね。

──そういうものが自分の中に備わっているとか、身に付けたいとか、自分自身と「演技力」という言葉って、どんなふうにつながっていますか?

今野 そういう人の何かをパクろうとはしますよね。セリフのやり取りが上手だったら、それは芝居が上手ということなんですけど、じゃあ上手く見えるかっていうと違うし。「変だな、あの人」っていう印象のほうが、上手に見えたりすることもある。そういうのを、その場によって使い分けられるようになりたいですね。

──今でも、それぞれの現場で求められているものに回答しているという実感はあるんじゃないですか?

今野 うーん、どうだろう……。

──ガッカリはさせていないというか。

今野 ガッカリはさせてないと思いますけど。ただ、現場によっては「これ誰が情熱を持ってやってんだろう」みたいなところもあるじゃないですか。「このディレクターは何も見えてないな、画が」みたいな。というときは、現場に向けてやってもしょうがないんで、視聴率を落とさないようにっていうのを念頭に置くことはあります。

──数字に対する意識があるんですね。

今野 数字は、たぶん3本の指に入るくらい意識してます。

──それでいえば、『僕やり』は全話平均6.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、視聴率的にはコケてます。一方で、視聴熱といったデータでは非常に高く評価されていますが、それでもやっぱり、数字は欲しかった。

今野 数字は欲しいです。自分で上げようっていう意識より、自分が出ているときに下げてはいけないという。ヘタだろうがなんだろうが、「なんだ?」って思わせれば視聴率は下がらないと思うので、目に留まるようなことをしようとは思いますね。

──お芝居の仕事をしている中で、満足感を感じることってありますか? クランクアップとか、その日の現場終わりとか。

今野 満足感……うーん、満足感……。終わっての満足感は、特には感じてないのかな。むしろ始まる前のほうが楽しいです。情報解禁を待っているときとか、ポスターが出るときのほうが楽しい。

──それは、ミーハーな感覚なんでしょうか。

今野 そうかもしれないです。ものすごいミーハーだし。現場に入ったら、もう終わりが見えるし。

──では、先ほど情熱という話がありましたが、今野さんの中で情熱が燃える仕事というのは?

今野 燃える仕事は、もちろん番手のいい仕事はそうですけど、逆のこともあって。さっき言ったような、「なんだ、この現場は」「なんだ、この台本は」とか思うと、それはそれで情熱が湧くんですよね。どう出し抜こうか、どう成立させようかっていう。

■新作『カクホの女』超大御所だらけの現場で

──今年最初の連ドラは『カクホの女』(テレビ東京系、金曜20時)です。手の多かった『僕やり』から一転して、名取裕子さん、麻生祐未さん、伊東四朗さん、鶴見辰吾さんなどなど、超大御所ぞろいの現場に入ってみて、いかがでしょう。

今野 あのー、なんか知らないんですけど、名取さんが、すごい話しかけてくれて。

──かわいがられてる。

今野 というか、当初「かわいい」って、すごい言われました。かわいがられるということじゃなく、直の話ですよ。「かわいい~!」って、すっごい言われて。

──顔が、ですか?

今野 顔なんでしょうね。髪型とかも、すっごいよかったみたいで。こっちも、なんかちょっと意識しちゃいますよね。そんなんなっちゃったら。

──おきれいな方です。

今野 おきれいです。

──意識しちゃいますか。

今野 しちゃいます。もう、そもそも『ミエリーノ柏木』(テレビ東京系/13年)のファンだそうで、「カッコいい役だったわよね」みたいな、すごく見てたみたいで、それをキッカケに話してくれて。

──名取さんが座長ですよね。それは超ラッキーな。

今野 ラッキーでしたね。

──もしくは名取さんが「この子、食べちゃいたいわ」と思ってネジ込んだか。

今野 それはないと思いますけど……。でもやっぱり、トガり直してたとこなんで、実際、誰ともしゃべってなかったんです。そしたら、いきなり名取さんから。だから、結局そういうことじゃんって思いました。トガろうがトガるまいが、結果を残していればそうなるんだっていうのは、自信が確信に変わったところはありましたよね。大楽屋でワイワイする必要はないわけだから。

──向こうが勝手に来る。座長が勝手に、かわいがってくる。

今野 座長にかわいがられれば、それでいいわけですから。でも、この記事が載って、出演者が読むと思うと怖いですね。みなさん番組名で検索するわけだから、これにたどり着いちゃうわけじゃないですか。怖いですよ。

──別に、2人でイチャイチャしているわけではないんですよね?

今野 でも、急に私だけに袋でアメをくれたりする。みんなもらってるかと思ったら、私だけ。イタリア製のアメをくれたりとか。

──『僕やり』では、共演者の窪田正孝さんと水川あさみさんがフライデーされていましたが、そういう可能性も?

今野 あるわけねーだろ! っていうのは失礼だし、アレですけど……。まあまあ、それはね。匂わせたほうが視聴率も上がるかもしれないですし。

──それはそうと、今回は鑑識の役ということで、鑑識といえば、大先輩で過去に共演もしている六角精児さんのイメージが強いです。

今野 やっぱり、そこは考えますよね。「鑑識=六角さん」が強いので、六角さんとは違うことをやろうとしすぎてます。

──台本上だけじゃなく、自分の中でも。

今野 これをぶっちゃけることが、いいことか悪いことかわからないですけど、私はいいことだと思うから言いますけど、台本が、そもそも全員にタメ口だったんです。というのも、もともと最初の準備稿が53歳の役だったんですね。それを、そのほうが面白いからそのままいきましょうってことになって。誰しもにタメ口というのは、六角さんとの違いも出ますし、面白いと思うんですけど、どう転ぶか、ちょっと楽しみですよね。

──好感度が下がるかもしれない。

今野 下がるかもしれない。どんどん話が進むにつれてエキセントリックさが増してるし。

──そんな『カクホの女』の見どころを教えてください。

今野 どういう言い方をすればいいんだろうな……。いわゆる、パッと見は、2時間ドラマのようなものだと思うんですよ。安心して見られるような。20時だし。そういう感じで見てたら「ビクッ!」ってすることが多々あると思うんです。「なんなのこれ!?」って。そういうところが見どころだし、自分でも見たいところですね。

■ところで、お笑いの仕事は?

──お笑いの仕事の予定はありますか?

今野 特にないですね。

──『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)とか、また呼ばれれば出たいという気持ちは?

今野 あれは……なんなんでしょうね? 川島(明=麒麟)さんだけ、すぐまた出たけど。同じくらいの結果の残し方だったんですけど、おかしいですよ。同じように『IPPONスカウト』から上がって、同じような結果だったんですけどね。あの番組はなんですか? その、大喜利以外のしゃべりも評価に入れるんですか? っていうのは、ちょっと思いましたけどね。

──結局、競技じゃなくてバラエティじゃないかと。

今野 そうですよ。おかしいんじゃないかって。これは、今のは文句です。載せてもらって構いません。

──激怒、ということですね。

今野 激怒ですね。ただ、タイトルにはしないでください。

──『今野浩喜、IPPONに激怒!』。

今野 それは、ちょっとまずいので……。

●こんの・ひろき
1978年、埼玉県生まれ。高校卒業後、プロダクション人力舎「スクールJCA」に6期生として入学。お笑いコンビ・キングオブコメディとして『キングオブコント2010』で優勝を飾るも、相方の不祥事によって2015年にコンビ解散。08年頃から俳優としても活動し始め、12年、主演映画『くそガキの告白』で「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」審査員特別賞、シネガーアワード、ベストアクター賞、ゆうばりファンタランド大賞人物部門の4冠を獲得。テレビドラマ『下町ロケット』(TBS系/15年)、『真田丸』(NHK/16年)、『僕たちがやりました』(フジテレビ系/17年)などに出演。現在、放送中のドラマ『カクホの女』(テレビ東京系)に出演中。18年には映画『不能犯』『今夜、ロマンス劇場で』が公開を控えている。
Twitter:https://twitter.com/comnotwithiroki

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