現在、好感度抜群の出川哲朗に“嫌われ芸人”の過去があることは、一定の年齢に達したウォッチャーならばお馴染みの事実だろう。そういえば、あのタモリも“抱かれたくない芸能人”ランキングの常連だった。
芸能人の好感度は綱渡り。風向きは、いつ、どのように変わるかわからない。「良」のシマにいた者が、何かの拍子に「悪」へ転向してしまっても、なんら不思議じゃない。もちろん、逆もまた然りだ。
■品川祐を嫌う割合は、せいぜい世間の1割程度
1月20日放送『俺の持論』(テレビ朝日系)に、品川庄司の品川祐が出演した。今回、彼が展開したのは「人間関係を良くする自虐最強論」なる持論である。
まず番組は、スタジオにいる観客100名を対象に品川の好感度に関するアンケートを実施。結果、「好き:35%、嫌い:13%、興味ない:52%」という数値が導き出されている。
ここで、もう真相があらわとなってしまった。最近は“嫌われキャラ”を前面に押し出すことの多い品川だが、正味の話、今さら彼に対して「嫌い」という感情を持つ者は少数派である。
「『嫌い』が多いと思ったら、一番恐ろしい『興味ない』が多い!」と本人は自虐するものの、よほど旬でない限り、世間が芸能人に抱く印象はこんなものではないだろうか? というか、そもそも「好き」が35%もいる時点で十分だ。
しかし、“嫌われキャラ”として持論を展開したいこの日の品川は、パブリックイメージをより強固なものにしていく。手始めに彼は、ある一つのエピソードを紹介した。Yahoo!知恵袋に「和式便所と品川祐、どっちが器が大きいと思いますか?」なる質問が投稿され、「和式便所はウンコされても怒らないけど品川は怒りそうだから」という理由で、和式便所に軍配が上がったという出来事である。
このエピソードトーク、実は何度か聞き覚えがある。何しろ、品川が紹介したYahoo!知恵袋での質問は2012年に投稿されたものなのだ。それを発見し、各番組で使い続けてきた品川。意地悪な言い方をすれば、“嫌われキャラ”を押し出す彼が長年愛用してきた“鉄板ネタ”の一つだ。
「悪口を聞きたくないから『品川 面白い』でエゴサーチすると品川駅周辺の楽しい思い出がたくさんヒットする」と、続けて品川が繰り出したエピソードも同様。いくつもの番組でウケを獲得した、彼が頼りにする持ちネタの一つである。
■レギュラー0本の品川が到達した「自虐こそ最強」という境地
かつての品川の態度が悪かったのは、きっと事実に違いない。そんなウワサは筆者の耳にも入ってきたし、彼自身「スタッフに挨拶をしなかった」「相手の目も見なかった」「アンケートを書かなかった」「ヘッドホンを着けたまま打ち合わせをしていた」と告白している。
そして、彼はレギュラー本数「0」という現状に至った。
「不幸なことがあった瞬間に『武器が1個増えた』と思えばいいんですよ」
「お金を落としたときはアンラッキーじゃないですか。でも、『お金は落としてるけど自虐は拾ってる』と思えば、何も怖くない」
そして、このロジックは一般人にとっても有効だと、品川は主張する。
「上司と飲みに行って『この間、とんでもないミスしましたよ』と、自分から自虐したら『こいつ、可愛いな』ってなりません?」
「『宝くじ当たった』って話、興味持って聞きます? でも『財布、落とした』とかだと『俺がおごってやろうか?』ってなるじゃん。で、その場のコミュニュケーションが広がりますよね」
■ガチで嫌われていないからこそ、「嫌われる」と「交流する」が両立できる
徐々にスタジオ内から“共感”の感情を引き出していった品川。これは、不思議な現象だ。“嫌われキャラ”という個性を失わないよう留意しながら、かつ、周囲と交流する作業を進めている。
こんな芸当、今というタイミングだからこそ可能なのだろう。何度も言うが、現在の品川は、実はそれほど嫌われていない。ガチで嫌われていた数年前とは明らかに状況が違い、世間が門戸を閉じていない。
と同時に、品川も本気で嫌われようだなんて思ってない。何しろ、彼が今回プレゼンしたのは、「嫌われている」と声を大にすることで周囲とコミュニケーションを図る方法なのだから。「本音と建前」を使い分ける、複雑な二重構造ではないか。
この日のエンディング、観客は品川の持論に対し「納得しちゃう!」「品川さん、カッケェー」とリアクションしているのだが、果たして番組外ではどうなるだろう? スタジオ内だけでなく、世間的に“嫌われ”(建前)と“好感度”(本音)を両立させたならば、それは本当に凄い。文字通りの「憎まれっ子、世にはばかる」だ。
(文=寺西ジャジューカ)