今回の『孤独のグルメSeason7』(テレビ東京系)は、東京・三河島。常磐線を使っていないと馴染みのない駅名かもしれないが、もともと荒川区の多くは「三河島」という地名で、ある大規模な鉄道事故のイメージを払拭するため、ちょうど50年前に「荒川」に置き換えられた(一部他の地名に組み込まれた)という。

「第5話 東京都荒川区三河島の緑と赤の麻婆豆腐」。

(前回までのレビューはこちらから)

■路上で子どもに焼き鳥を差し出される域に達した五郎の食いしん坊ぶり

 昔の街並みの残る三河島の惣菜店を眺めつつ、「商店街っていえば、昔はどこもこんなふうだった」と郷愁に浸る井之頭五郎(松重豊)は、今日もマイペース。

 途中、路上で男子児童が頬張る焼き鳥に見とれすぎ、気づいたその男児に無言で焼き鳥を差し出されてしまうほど。いい大人なのに、一瞬「え? いいの?」と手を伸ばしかけるも、ふと我に返ったため、さすがに食べはせず。しかし、坊主頭の児童との微笑ましいアイコンタクトが実にいい塩梅でした。

 菓子店を開店予定の杉山(中山忍)との商談帰りに、三河島近辺に多い韓国食材店を訪ねると、すでに杉山に土産としてキムチをもらっているのに、同じ店(丸満商店)でまたキムチを購入しちゃう欲しがり五郎。

あげく、そのキムチでご飯を食べることを想像しながらの帰り道、「このキムチで飯をばくばくと……いかん……家までもたない。ここで店を探そう!」と、食物連鎖ならぬ食欲連鎖でスイッチオン、街を彷徨いだす。キムチの役目はここで終わり。

 見つけた店は「麻婆豆腐専門・真実一路」。漫画『3年(ハイスクール)奇面組』(集英社)に真実一郎というキャラクターがいたのを思い出す。

「その麻婆一筋、わき目も振らぬ心意気、痺れるじゃないか」と、山椒にかけた上手いことを言いつつ五郎、入店。
手に2つのキムチを抱えて。

■色とりどりの麻婆

 ここの麻婆豆腐は「五味一体」にこだわっており、店内の黒板にいろいろが記されている。

・「麻」…四川花山椒の痺れ
・「辣」…四川朝天辣椒で作る自家製辣油の辛味
・「香」…ニンニクや秘伝配合の豆板醤、四川永川豆チの香り
・「熱」…鍋フチを焦がすほどの熱さ
・「色」…豆腐、辣油、ニンニクの芽の3色のコントラスト

 ということらしい。店の壁にうんちくが書かれている店は、どこか説教臭く感じてしまうが(すみません)、中国のフィルターを通しているせいか、特に気にならない。ちなみに「三位一体」はキリスト教の教え。

メインの麻婆豆腐には4色があるようで、

・王道の「赤」
・青唐辛子と山椒で爽やかな「白」
・中国たまりと黒胡椒を使った「黒」
・野菜ペーストを使った「緑」

 とどれも気になるラインナップ。



 注文しようと声をかけるも、一人でカウンター内で作業している店員にあまり声が届いていないようで、何度か呼び直すことになる五郎。これ、実際にあると気を使うやつだ。さらに大きな声で呼び直すパターンと、作業を凝視し、その隙間を縫って自然に聞こえるように声をかけるパターンとに分かれるが、ドラマでの五郎は躊躇なく前者。しかし、以前、回転寿司を食べていた時の五郎は後者(見かねた隣のおばさんが店員に伝えてくれた)だった。ちなみに筆者も後者だ。前者になりたい。


 そして、この店「麻婆専門」と看板に掲げながらも麻婆以外のメニューが実に多い。いつものようにガシガシと頼んでいく五郎。

・ザーサイのネギ生姜和え
・ワンタン入り滋養スープ
・海老と大葉の春巻き
・豚ヒレと野菜の五目春巻き
・緑の麻婆豆腐
・ライス
・白茶

「給料日だから」とか「今日は奮発しちゃえ」とかいう理由も葛藤も一切なく、当たり前のようにこの品数を頼める五郎の懐具合に毎回驚く。今日もしっかり数千円コース。「頼みすぎじゃない?」とか「そんなにお腹空いてたの?」とか「1,000円超えちゃうよ?」とか勝手にハラハラしてしまっていたが、一応個人の貿易商だし、何より大食漢ということで、今は「どれだけ頼んでも大丈夫な人」として慣れた。

■緑色の麻婆には何が?

 まず出てきた白茶の茶葉が開く間、隣の席で頼まれていた「麻婆(豆腐専用)ハイボール」が気になる五郎。

調べると山椒が振りかけられているものらしいが、下戸の五郎は当然スルー。

 白茶を美味しそうに味わいつつも、本音は「よく分からない」と素直な感想。しかし、甘さもあるこのお茶は、辛い麻婆から何度も五郎を救ってくれる。いいチョイス。

 そして「ワンタン入り滋養スープ」は「滋養という言葉が胃袋に沁みて」「体にいい。心にもいい。
魂が癒やされていく」と、五郎の胃袋がほだされていくのがわかる。

「ザーサイのネギ生姜和え」でつないでいるところに、揚げたての春巻きが到着。

「海老と大葉の春巻き」からかじり付くが、まずかじる音がいい。衣の砕ける音が食欲をそそる。味も「味付けが程よくて、程よい」という五郎らしい感想。「豚ヒレと野菜の五目春巻き」は「濃いめのオカズ味」と感想を言いながら、米も来てないのに食い進む。

 そして、「緑麻婆豆腐」が登場。エメラルドグリーンに輝くその色は、福島の名所・五色沼の湖面のような色合い。野菜のペーストが使われており、野菜の甘みがありつつ、それが辛味と絡む。

「でも確かに麻婆豆腐だ。これは驚いた……。しかし驚きながらもスプーンは進んでいく!」と活弁士のような気合の入った五郎の心の声が響きわたる。甘みのある白茶で流し込む五郎の表情は幸せそのもの。

■さらに真紅の麻婆を追加

 隣の席に「燻製焼き飯」が到着。五郎は身を乗り出して食いつきつつ、「なるほどの燻製臭。謎の中国人・クン・セイシュウ」と不気味な独り言(妄想)。

 その勲星周(当て字は適当)に刺激された五郎は「五味一体麻婆豆腐・赤」を追加。鍋ごと焼かれ、グツグツと沸き立つ赤麻婆。「これ、もしかして100度超えてるんじゃないの?」と五郎は恐れていたが、脂が表面にある分、そうかもしれない。

 フハフハしながら一口すすった五郎の感想→「熱くて味がわからない!」に爆笑。

 しかし慣れてくるにつれ、「熱いけど美味い。俺の舌は痺れと辛さで悲鳴を上げ続けているのに、脳がスプーンの動きを止めるのを拒絶している」。

 あー、美味い四川風の麻婆って確かにこんな感じ。舌が痺れてるのに手が止まらなくなるあの感じ。

 一緒に出てきた白米にぶっかけて赤麻婆を掻き込む。

 ちなみに食べた人の感想を調べると、この「赤」が一番辛くて、次いで「白」そして「緑」、意外にも「黒」が一番辛くないらしい。五郎というか、松重おじさんの額に天然の汗が玉のように滴る。

 ここで五郎は「助け舟を呼ぼう」と「正式杏仁豆腐」を召喚。余計なものやシロップなどのかかってない、ただただ濃厚そうな杏仁がたっぷり到着。

「ねっとりとしてすっきりしてる。ネトスキで品良い甘み」を味わいながら、辛さからの落差を楽しむ五郎。あーどっちの「豆腐」も食べたい。辛いから甘いへの豆腐のハシゴ。この流れで見ていると、むしろ美味しく杏仁を食べるために麻婆を食べたくなってくるほど。それほどこの流れでの杏仁豆腐が美味しそうに感じた。最後に白茶で全て洗い流す感じもいい。

 店内のメニューには「鱈と白子の麻婆豆腐」や「とろけるチーズの麻婆豆腐」など、他にも気になるものが多かったのだが、今回筆者が一番気になったのは、「燻製麻婆豆腐」で、白麻婆豆腐に桜の燻香をプラスしたものらしい。燻製チャーハンもそうだが、一度は体験してみたい。

 原作者・久住昌幸が同店を訪れる「ふらっとQUSUMI」では

・胡瓜の四川唐辛子和え
・ピータンとピーマンの香り和え

 など酒に合いそうなツマミをつまみつつ、久住が「カメ出し生紹興酒」を「カメ出し烏龍茶」だと言い張るという昼酒時恒例の和尚様のような秘技・飲酒隠しを披露、こちらも幸せそうだった。

■宇佐美圭司の、あの東大の絵が原作に登場していた

 意外だったのは、麻婆豆腐が、原作やドラマの全シリーズ通して初登場だったこと。シーズン2(第6話・京成小岩の四川家庭料理 珍々)にて「豆腐のニンニクタレかけ」なるものは食べているが、これは丸のままの豆腐にしゃばしゃばしたタレをかけたものだし、やはり違う。

 他にも四川っぽいものが登場していないかと調べていると、原作コミック2巻(扶桑社)で東大学食を訪れ「赤門ラーメン」なる担々麺(風)のものを食べている。これは言わずもがな汁の色をかの赤門に寄せたメニューで、四川云々といったものではないのだが、それとは関係なくコマをよく見てみると壁に見覚えのある壁画が…。

 そう。生協側が廃棄してしまったことが発覚し、先日話題になった画家・宇佐美圭司のあの絵だ。2巻が発売されたのは2015年。原作者の久住は13年に取材で訪れたとTwitterで発言しており、当然だが当時はあそこに行ったら否応無しに目に入ってくるものだったのだろう。

 ちなみに五郎は絵については特に触れていないのだが、地下に広がるこの学食の構造について「学食サンダーバード基地!」と興奮している。

 話が脇道にそれたが、次回は千葉県浦安市の真っ黒な銀ダラの煮付け定食。

 最近は予告で店を調べて放送日前に行くのが流行ってしまい、すでにこの麻婆の店も放送日前から行列ができていたらしい。行く方はお気をつけて。
(文=柿田太郎)