もしも、最近知り合った仲間が人に話せない秘密を抱えていたら。もしも、その秘密が償いきれないほどの重い罪だったら……。
主人公となる益田(生田斗真)は元週刊誌記者。部数やスキャンダル性を重視する編集方針に不満を持ち、勤めていた出版社を退職してしまう。ジャーナリストとしての夢を捨て切れない益田だったが、家賃を払うこともできず、急場しのぎで寮付きの町工場で働き始める。
益田も心にキズを負っていることを察知した鈴木は、次第に益田に対して心を開くようになる。慣れない工場での仕事中、益田は不注意から指を切断してパニックに陥ってしまう。益田の窮地を救ったのは鈴木だった。
だが、平和な日々は長くは続かない。益田は元同業者である週刊誌記者の清美(山本美月)から最近起きた児童殺害事件についてのアドバイスを頼まれ、ネット検索をしているうちに、かつて日本中を震撼させた連続児童殺傷事件の当時14歳だった加害者少年と鈴木の顔がよく似ていることに気づく。鈴木は少年院を出所し、偽名を使って生きてきた元少年Aなのか? 益田は鈴木の隠された過去を調べずにはいられなくなってしまう──。
2013年に発表された薬丸岳の原作小説はあくまでもフィクションだが、原作で触れられる「黒蛇神事件」(映画では『五芒星事件』)は1997年に起きた“酒鬼薔薇事件”を連想させるものとなっている。
『絶歌』の前半部分は頭でっかちなリアルモンスターとしての少年Aの共感不可能な禍々しい日常が描かれているが、少年院を経て実社会に出た元少年Aはゴミ収集車に乗って初めての労働を体験し、また仕事仲間と触れ合うことで、生きることの喜びを実感する。それまで、ずっと死ぬことしか考えていなかった元少年Aは、仕事を通して現実世界と繋がり、それと同時に自分が犯した罪の重さをようやく思い知ることになる。
映画化された『友罪』でも、他人との間に壁をつくっていた鈴木が、一緒に働く益田たちと交流を深めていくパートは重要なものとなっている。鈴木は口数が少ないものの、心にキズを負っている人間の存在には敏感だ。
一方、一度犯した罪は容易には許されないと糾弾するのが、瀬々監督のメジャーヒット作『64 ロクヨン』(16)に主演した佐藤浩市演じるタクシー運転手の山内だ。原作小説では山内の出番は限られていたが、瀬々監督は山内パートを脚色した上で大幅に増やしている。かつて山内の息子(石田法嗣)は過失事故で複数の子どもの命を奪った。
三浦しをん原作、大森立嗣監督の『光』(17)でも心に暗い闇を抱えた若者を演じた瑛太が、今回も強烈な闇演技を披露している。
自分の過去を隠し、新しい職場で束の間の平穏を感じることはあっても、心の奥に潜む闇は一生消えることはない。死への衝動と生に対する執着心とが、ない交ぜになった迫真の表情だ。元少年Aと同時代を生きる表現者としての、言葉では表現できない複雑な想いがスクリーンから噴き出している。
(文=長野辰次)
『友罪』
原作/薬丸岳 監督・脚本/瀬々敬久
出演/生田斗真、瑛太、夏帆、山本美月、富田靖子、奥野瑛太、飯田芳、小市慢太郎、矢島健一、青木崇高、忍成修吾、西田尚美、村上淳、片岡礼子、石田法嗣、北浦愛、坂井真紀、古舘寛治、宇野祥平、大西信満、渡辺真紀子、光石研、佐藤浩市
配給/ギャガ 5月25日(金)より全国公開
(c)薬丸岳/集英社c)2018映画「友罪」製作委員会
http://gaga.ne.jp/yuzai
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