素朴系女優・吉岡里帆が新人ケースワーカー役を演じるドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系)の第1話が17日に放送され、平均視聴率7.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。やや出遅れ感がでてしまいました。



 安定した生活を求めて公務員になった義経えみる(吉岡)ですが、配属されたのは生活保護受給者を支援する福祉生活課。福祉に関する知識など何ひとつ持たないまま110世帯を担当させられ、理想としていた平穏な生活とは程遠い激務続きの毎日を送ることになってしまいます。

 そんな中、平川孝則という受給者から「これから死にます」という電話が。一方的に通話は切られてしまい、えみるは慌てて平川の親戚に様子を窺うよう頼むのですが、「いつものこと」と一笑に付されてしまいます。しかしその後、平川はビルから飛び降り自殺。えみるは責任を感じ、悲しみに暮れ、今後は受給者にもっと寄り添おうと決心するのでした。


 それから数カ月が経ち、えみるは阿久沢正男(遠藤憲一)という受給者と面談することに。1日に1食しか摂っていないという阿久沢の健康状態とお金の使い道が気になり、家庭訪問することになるのですが、そこで月5万円返済の借金を抱えていることが発覚します。

 えみるは、債務整理をするため日本司法支援センター(通称・法テラス)へ出向くよう勧めますが、今さら何をしても借金は変わらないと、阿久沢は及び腰の様子。そこへ現れた先輩ケースワーカーの半田明伸(井浦新)は、「法テラスへ行きましょう」の一辺倒ではなく、阿久沢が借金を背負うことになったいきさつについて、まず耳を傾けます。

 すると阿久沢は、印刷会社が倒産し、借金を抱えてしまった後に別れた妻子と、15年あまり会っていない寂しさを吐露。阿久沢の本当の気持ちを知ったえみるは、「過去を捨てきれないってことじゃないですか。
またやり直したいってことじゃないですか」と、深層心理を指摘し、人生の再スタートを切るよう背中を押します。

 その結果、法テラスへ赴くことを決心した阿久沢は、借金をすでに完済していたこと、過払い金150万円が戻ってくることを知り、15年間の苦しみから解放された喜びと安堵で涙します。その姿を見たえみるも涙を流し、阿久沢に心から感謝の言葉をもらったことで、ケースワーカーとしてのやりがいを感じたところで今回は終了となりました。

 さて感想ですが、やや長ったらしく感じるタイトルは、日本国憲法第25条にある「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文からのもの。しかし、“最低限度の生活”の基準とは? また、不正受給など何かとニュースに取り上げられる生活保護の実態とは何か。このドラマは、それらの疑問点にスポットライトをあてた作品になっています。


 そんな謎多い世界に、それまで平々凡々に生きてきた人間が放り込まれ悪戦苦闘するという、特殊な環境下を描くドラマではありがちな設定ですが、こういった場合、いわば“視聴者の視点”代わりになる主役は、案外さじ加減が難しいのではないかと思います。あまり個を出し過ぎては邪魔になるし、出さな過ぎたら逆に、テーマに対する発言力が薄れてしまう可能性もあります。

 そういう意味では、純朴なルックスと演技力が確かな吉岡をキャスティングしたのは正解だったのではないでしょうか。絶妙な平凡感で視聴者をドラマの世界へ引き込みつつ、ここぞというシーンではしっかり自分の意見(作家の主張)を述べ、印象深くすることができていたと思います。

 そして、そんなえみるを温かく見守る、先輩役・井浦の好演も光っていました。前々クールに放送された『アンナチュラル』(TBS系)では悪口・乱暴な法医解剖医を演じていましたが、今回はマイナスイオン出まくりの朗らかな役と、見事なカメレオン俳優ぶりを発揮しています。
ドラマのテーマがテーマなだけに、今後はえげつない描写も出てくるかもしれませんが、清涼剤的な役割を担い、吉岡とのコンビも楽しめそうです。

 その描写についてですが、テレビでどこまで踏み込めるのかが、今後の大きな注目ポイントとなってくるのではないでしょうか。それと、今回のように問題を抱えたケースワーカーが登場して解決、という流れが続いてしまうとどうしてもマンネリ化してしまいます。それをうまく打破できるかどうかも視聴率の推移を左右するカギになってきそうです。

 ただ、遠藤や井浦だけでなく、えみるの上司役の田中圭、同僚役の川栄李奈など、ベテランから若手まで名バイプレーヤーが顔を揃えているため、彼らのキャラクターを掘り下げることでドラマに深みが増していく期待感はありました。視聴率的には残念なスタートになってしまいましたが、次回を楽しみに待ちたいと思います。

(文=大羽鴨乃)