アイドルもののドラマや映画には、いくつかのフォーマットがある。幼馴染の男の子との恋、ひょんなことから同居することになった男女のドタバタ劇、目立たなかった女の子が、夢中になるものを見つけ変わっていくストーリー、などなど。
今までになかったような斬新な設定やストーリーも楽しいが、これらのようなフォーマットの作品には、「安心して楽しめる」という利点がある。
そんな中でも私が特に好きなのは、女の子がなにかの競技に出会い、それを通して成長していくというものだ。
1998年に田中麗奈主演で映画化され、後にフジテレビ系でドラマ化もされた、『がんばっていきましっしょい』(ボート競技)や、昨年、乃木坂46のメンバーで映画化・舞台化された『あさひなぐ』(なぎなた)などが代表例で、スポーツ以外でも、成海璃子が主演した『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』(2010年/書道パフォーマンス)、広瀬すず主演で3部作が作られた『ちはやふる』(16、18年/競技かるた)などもこの系譜といえる。
7月13日に始まったドラマ『チア☆ダン』(TBS系)は、まさにこのフォーマットによる作品だ。昨年、広瀬すず主演で公開された映画版のスピンオフとなる。
主人公の藤谷わかば(土屋太鳳)は、幼い頃、地元である福井中央高校のチアダンス部「JETS」が全米制覇したのを見て、憧れを抱く。しかし、いくら努力しても夢を叶えていくのは姉であるあおい(新木優子)ばかり。結局は、野球部の応援ぐらいしか活動のない、福井西高校のチアリーダー部で漫然とした日々を送っていた。
そんなある日、彼女の高校に二人の「異分子」がやってくる。
一人は、東京の高校から転校してきた、桐生汐里(石井杏奈)、もう一人は、新たに赴任してきた男性教師、漆戸太郎(オダギリジョー)。この二人との出会いにより、わかばの日常に新たな変化が起こっていく。
姉にコンプレックスを抱き、夢を持てずにいるわかばが、実はいじらしい。
異分子の一人、漆戸もまた夢への絶望を経験している。希望を抱いて教師になったであろう彼だか、前の学校でのトラブルで体調を崩し、休職していたのだ。
そんな絶望を抱いた二人が出会う。「無理はするものではない」お互いにそう言いながらも、好きなことを続けることの大切さを感じる。
わかばを奮起させたのは、もう一人の異分子、汐里だった。「チアダンス部を作って全米制覇したい」、そう意気込む汐里に巻き込まれるようにして、わかばは部活創設に奔走する。最初は誰も話を聞いてくれなかったが、二人の熱意に押されるようにして、少しずつ仲間が増えていく。
姉・あおいが新たな夢に向かって、東京へと旅立つ日、わかばは彼女のためにチアダンスをして送り出す。技術的にはまだまだ未熟なメンバーたち。
わかばは、多くの仲間、そして「チアダンス」という競技に出会うことによって、新しい物語を始めることになる。
今回は、舞台となった福井という土地の魅力もある。実は、最初に挙げた作品でも、『がんばっていきましっしょい』は愛媛県松山市、『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』は愛媛県四国中央市と、地方が舞台であることが多い。直接的な表現ではないにせよ、地元から見る東京への憧れと、打ち込んでいる競技で勝ち上がろうとする気持ちがリンクして見えるのだ。
もともとこの作品は、福井商業高校のチアダンス部が全米制覇を成し遂げた実話がベースとなっている。実際のメンバーがどんな思いでいたかは想像するしかないが、福井という地方都市にして、東京、そしてアメリカという都会を目指す気持ちは、何かキラキラとした未来を見ているような思いであったのではないだろうか。今回のドラマからも、そのキラキラした思いは十分に感じられた。
主演の土屋太鳳にとっても、うってつけの役柄であると思う。彼女自身、若い頃からダンスに取り組んでいることは有名だし、その中で多くの挫折も成功も経験してきたことであろう。
もちろん、他にも注目の若手女優がたくさん出ている。これから誰がどんなキャラクターを担っていくか楽しみだが、NHK朝ドラ『ひよっこ』でも活躍した佐久間由衣、メガネっ子キャラ(このキャラもアイドルものには欠かせない)の大友花恋、わかばの親友役の八木莉可子などは、要注目であろう。アイドルドラマの楽しみのひとつである、キャストがドラマを通して成長していく姿を見ることができるはずである。
毎年、夏ドラマは多くの若手女優たちに出会わせてくれる。この作品を通して、どんなキャラクターとどんな出会いをすることになるのか。今年の夏も、爽やかな女の子たちとともに過ごせることが楽しみである。
(文=プレヤード)