以前、ヒロミが「芸能界は、はやっちゃダメ」だと発言していたことを覚えている。ものすごい瞬間風速で業界を席巻しても、上がり切った波はいつか下降する。
テレビで見ない日はなかった人気者が、1年後には“あの人は今”状態。人材が飽和状態の芸能界には、よくある話だ。■“渡部成分”が濃くなっている
千鳥が司会を務める『相席食堂』(ABCテレビ)は、田舎の食堂に有名人が現れ、地元の人にいきなり相席をお願いする行き当たりばったりの旅番組。リポーターの人選は週替わりで、誰が起用されたかはVTRが始まるまでわからない。
7月29日放送分では、久々の顔が登場した。津軽海峡最北端にある街・青森県の龍飛(たっぴ)で旅をしたのは……。
「こんにちは、渡部陽一です!」
往年より間違いなく“渡部成分”が濃くなった口調で自己紹介する戦場カメラマン。発音を正確に再現すると「くおんにちわっ、わたなべよぉういちです」だ。
「再ブレークのチャンスやと思って、あの頃より濃くしとる!」(ノブ)
彼は、まさに今日売れようとしているのだろうか? まぶしい笑顔は、かつてのそれより明らかにはじけている気がする。
もちろん、押さえるべきツボは外さない。彼のいでたちは、あの頃と一緒だった。まったく同じ服、まったく同じベスト、まったく同じベレー帽。
「まだ、その服持ってた(笑)?」(大悟)
ところで彼、潜伏期間は何をしていたのだろう?
「僕はぁ、つい先日までぇ、東南アジアの国でぇ、情勢を追い掛けて写真を撮っていました」
本業とはいえ、ほっこりとした旅番組で話すような内容ではない。
「二度と言うなよ、東南アジアの情勢とか(笑)」(ノブ)■大悟が「プロ」と認めたリポーターの資質
久々の露出に、渡部は満を持した。明らかに用意周到なのだ。例えば、こんなシーンがあった。街を歩く渡部は、営業中の理容室を発見。そして、唐突にスタッフへ「髪の毛ぇ、切ってもいいですか?」と申し出る。食を伝えるべき番組で、なぜそんな提案を……。しかも、普通の散髪じゃない。「丸坊主にして、いいですか?」とぶっ飛んだことを渡部は言いだすのだ。
そして、いきなりクライマックス。ピークは散髪後ではなく散髪前にあった。
「現時点での僕の髪型は、伸びに伸びた今の段階で……こうです!」
渡部がベレー帽を取るや、我々視聴者はのけぞった。彼、実は、髪が薄かったのだ。あると思っていたものがない。こんな不意打ち、ずるい。
大悟「こいつ、わざとやわ(笑)。これは、こいつやってるわ。プロだ!」
ノブ「“ウケてるでしょ?”って顔してるもん(笑)」
渡部は、奥の手を持ってきていた。帽子を取るタイミング、流れ、間、どれも完璧だったから。驚きの後にやって来る種類の笑い。「伸びに伸びた」と言いつつ、ちっとも伸びてないのも笑う。
そして、カット終了。理容室から出てきた渡部は、さっぱりとした頭を満面の笑みで披露した。
「仕上がりましたぁ~。0.8ミリに剃り上げてきました! いかがでしょうかぁ。ピッカピカになりました」
その風貌は、もはや『ビルマの竪琴』だ。■計算され尽くした渡部の笑いどころ
そろそろ、相席したい。街を歩き、気になった家に渡部はお邪魔した。自宅で食事をとる老夫婦と渡部は席を共にしたのだ。これも立派な相席である。
渡部は相席の記念に、写真撮影をすることにした。言っても、彼の本職はカメラマン。素晴らしい一枚を仕上げるはずである。
「一枚撮らせてもらっていいですか。……ああっ、うん!? (無言の間の後に)バッテリーがぁ……空です(笑)」
プロのカメラマンが犯した、考えられないミス。スタッフも、さすがに笑いを禁じ得ない。
しかし、これを額面通りに受け取ってはいけない。なぜなら、渡部は今日売れようとしているから。
「計算され尽くしている(笑)。バッテリーなかったんもあやしいど」(大悟)
バッテリーが空でも大丈夫だ。渡部はベストのポケットからiPhoneを取り出してドヤ顔になった。
「大丈夫です! ピンチの時は……携帯電話。携帯電話で行きます!」
老夫婦をiPhoneで激写しまくるベレー帽のプロカメラマン。いかがなものか。
「これは誰でも撮れる!」(ノブ)
ちなみに、今回の旅VTRの渡部の締めのセリフは以下だった。
「僕ぅ……帰ります(ニッコリ)」
こんなロケ、ほかに知らない。「僕、帰ります」と言って切り上げるリポーターを見たことがない。だが、インパクトはある。爪痕は残したと思う。
再浮上を狙う渡部の意気込みは、準備万端でロケに臨む今回の姿勢に表れていた。また、はやるのか?
(文=寺西ジャジューカ)