高畑充希演じる極度の堅物OL・佐々木幸子が、結婚式当日に失踪した新郎(俊吾さん=早乙女太一)のことを忘れるためグルメ道に目覚め邁進する「飯テロ」コメディ『忘却のサチコ』(テレビ朝日系)。今回も深夜ながら2.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と安定の視聴率。

マイペースな幸子がイラついてしまうほどのモンスターな後輩が登場した第3歩(第3話)を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

■モンスター新入社員登場

 幸子の働く「月刊文芸誌きらら」編集部で幸子以外の編集部員たちが編集長・白井(吹越満)に詰め寄っている。新入社員の小林(葉山奨之)に我慢ができないとのことらしい。

 では、どんな新人なのか?

 いわゆる空気を読まず、立場をわきまえず、ズケズケとマイペースに発言する、少し前だと「ゆとり」で片付けられがちな、あのタイプ。社会学者の古市憲寿をイケメンにした感じを想像していただきたい。

 例えば、新人なのに電話に出ない小林を注意する教育係の大野(重岡漠)に対し、

「忙しい時は仕方ないじゃないですか? 大体、新人が電話に出るって決まり誰が作ったんですか? 気が付いた人が電話に出ればいいじゃないですか? 新人だから電話に出なきゃいけない理由ってなんなんですか?」と、悪びれもせず言い返す。

 それが社会人のルールだとキレる大野に対しても「全然理解できません」と一蹴。

 さらに、資料探しを頼んでも、「ネットで何も出てこない」と淡白な仕事ぶりの小林に、図書館なり本屋なり行って調べるよう大野が注意すると

「今時ネットで出てこないもの探すなんて効率悪くないですか? なんでそんな無駄なことしなくちゃいけないんですか? なんでですか? 新人だからですか? なんでですか? 大野さん? 答えてもらっていいですか? おーーのさん?」

と 追い詰められ、大野はあわあわ。完全にやり込められ、敗北を喫す。

 さらに美人のゆるふわ系社員・橋本(逢沢りな)に対しては「不倫しそうなタイプですよね?」、やや個性的な岡田(上地春奈)に対しては「安産型ですよね?」「結婚して10年たってますって顔してますよね?」と容赦がない。岡田、独身なのに。

 編集長・白井が「小林も悪気があるわけじゃないから」という旨のフォローをすると「被害者」たちは「悪気がないからたちが悪い」とさらにヒートアップ。

しまいには「悪気なし」という秀逸なニックネームまで飛び出す。

「妖怪の名前みたい」だと、どこか他人事だった白井だが、自分が「い頃は女泣かせまくってたくせに中年になって純愛に目覚めたタイプ」と言われていると知った途端不機嫌になり、「被害者の会」に加入。図星だったのだろうか。

 とにかくそんな小林に「最終手段」としてぶつけられたのが、我らが幸子だ。「毒をもって毒を制す」的な発想なのだろう。

「忙しいのは皆同じです、忙しいのを理由にするのは、自らが無能であることを宣言しているに等しいかと」

 さっそく幸子は他の社員たちが言えなかったことを逆にズケズケと言い返し、「妖怪」退治に効果を上げるが、小林の何気ない一言が幸子の鉄のハートにヒビを入れてしまう。

「佐々木さんも恋愛下手そうですもんねぇ」

 冷静を装いながらもノートパソコンをバタン! と閉じ、編集部を出て行く幸子。

■自分の感情に驚くサチコが新鮮

 その後、街中でよかれと思い拾い上げた空き缶からコーヒーがこぼれて手にかかったり、その空き缶が上手くゴミ箱に入らず、思わず「チッ」と舌打ちした自分に驚く幸子が新鮮だ。

「まさか私、彼のせいで知らず知らずのうちにダメージを?」

 よほどイライラすることが今まで少なかったのか、感情が芽生えかけたアンドロイドのような哀愁が漂う。

 そして、幸子は忘却の能力(美味しいもの食べたら嫌なこと忘れるってだけだが)を俊吾さん以外のこと(小林へのイラつき)で試してみることに。

 途中、高畑充希がうまそうにケンタッキーにかぶりつくCMを挟んで、幸子が口にしたのはワゴン車屋台販売の南インドカレー。テイクアウトしたカレーを公園のベンチで頬張る幸子。



 具材のトマトの酸味やトッピングの温泉卵をカレーと混ぜて食べることで味に深みが出るとのことで、その深みは「世界で一番深い谷と言われるヒマラヤ山脈・ランタン谷レベルの深み」らしい(幸子談)。

「汗が止まらない、けど、この汗が気持ち良い」

 若干発言がセクシャルなそれに感じるほど忘却中の今日の幸子はテンションが高い。逆にここまで幸子をイラつかせる小林がすごいのか。

■コスプレというか、ジョン・レノン漫談

 なんとか平常心を取り戻した幸子は、執筆を渋る大物小説家・有村(大和田伸也)へ執筆依頼の直談判へ。ストレスメーカー小林も、もちろん一緒だ。

 ここでも小林は、スランプだと弱気な有村に「作風が難解」「今の読者は気楽なものを選ぶ傾向にある」と歯に衣着せぬ言葉を浴びせ、幸子に注意される。

幸子「作風とは作家の命、それを変えることなど不可能なのです。先生といえども普通の人間。スーパーマンではないのですよ?」

小林「そうですよね、有村先生も普通の人間なんですよね」

幸子「そうです、有村先生も普通の人間です」

 結果的に有村を貶めることに加担してしまう真っ直ぐすぎる幸子。このコンビを敵に回すのは怖い。

 そして「昔から優れた芸術の陰にはミューズ(女神)がいた。小津安二郎にとっての原節子、ダリにとってのガラ、ジョン・レノンにとってのオノヨーコ。

僕にもミューズがいたらな……」とため息を漏らす有村の言葉を聞き、幸子が動いた。

 しかし喫茶店に戻ってきた幸子は、なぜかジョン・レノンの格好。

「私が先生のミューズになります!」とのことだが、小林の言う通り「そっちはミューズじゃない方」。しかも何か言うたびにギター漫談のオチのように(ジャッ)とコードを鳴らすおまけ付き。

 なんとか機嫌を持ち直した有村だが、会話の流れから、またしても俊吾さんを思い出してしまった幸子は「辛(つら)い時ほど辛(から)いもの」との理屈で通りがかった麻辣刀削麺(赤坂・陳家私家)を賞味。

 見た目は、いわゆる坦々麺。そこに多めのパクチーと、薄い刃で削って茹でられた太めの麺。

 気温が下がっていくこの時期に無性に食べたくなるメニュー。

「麺と一緒に私のつらさもどんどん削られて行くみたい」とのコメントが悲しいが、「美味い、辛い、暑い、痺れる」と恍惚の表情で食い進むさまは、まるでクックドゥのCMのよう。これから高畑の食べる仕事は間違いなく増えるだろう。

 なんだかんだで小林は幸子のすごさ(コスプレしてくるとか)を認めたようで一件落着。

 これで、3話連続のコスプレ。
どうやら毎週高畑がコスプレするのは決まりのようだ。原作ではここでコスプレする流れは一切ないので、ドラマオリジナルな展開なのだろう。

 最終話までどんなコスプレがあるのか期待もあるが、ネタが持つのかというお節介な不安もある。今回は正直とってつけた感も感じてしまったので、恒例になるにつけ、今後上がるであろうハードルを裏切ってほしい。

 そして次回は消えた俊吾さんが登場? 妄想の中では毎回登場している俊吾さんだが、いよいよ本体登場か?
(文=柿田太郎)

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