週に一度のお楽しみ、阿部寛をはじめとするオジさん俳優たちがその熱さとクドさを競い合う熱血理系ドラマ『下町ロケット』(TBS系)。前半戦となる「ゴースト編」は今回で完結です。
(前回までのレビューはこちらから)
佃航平(阿部寛)率いる中小企業「佃製作所」が高性能バルブシステムを提供している純国産ロケット「ヤタガラス」7号機がついに完成しました。ちなみにヤタガラスとは、日本神話に登場するアマテラスオオミカミが遣わした大烏のことで、山の中で迷っていた神武天皇を救い出したと言い伝えられています。これからの日本産業を新時代へと導いてくれる可能性を秘めた宇宙ロケットなのです。「帝国重工」藤間社長(杉良太郎)の「我々が打ち上げるのは、人類の未来だ」というスピーチに、宇宙航空部の財前部長(吉川晃司)は感慨深げに耳を傾けています。
10年間にわたってロケット開発に情熱を注いできた財前部長ですが、今回のロケット打ち上げに成功すれば現場を離れることが決まっています。上層部の命令によって職場異動させられるのは大企業の宿命とはいえ、名残り惜しそうな財前部長。佃社長はそんな財前を新潟県燕市へと誘い出します。「佃製作所」の経理部長・殿村(立川談春)の実家の水田がようやく実り、「佃製作所」の有志で稲刈りを手伝うことにしたのです。
立花(竹内涼真)、アキ(朝倉あき)、迫田(今野浩喜)ら「佃製作所」の若手社員たちが作業着に着替えているのに対し、財前はスーツ姿で稲刈りに汗を流します。財前にとっては、スーツこそが男の戦闘服なのでしょう。このとき、財前は閃いたのかもしれません。
今回はロマンスグレーも眩しい財前部長の“萌え”シーンが満載でした。ロケット打ち上げ前日、藤間社長に呼び出される財前。「今までよくやってくれた。君は真っすぐな男だなぁ。私はそんな君が好きだ」と藤間社長から、まさかの愛の告白です。藤間社長の長年の夢であるロケット開発を成功させたことで、財前はその愛に報いたのです。藤間社長から肩に手を乗せられ、財前は顔を真っ赤にしてプルプル震えるのでした。大宇宙へと飛び立つロケットですが、藤間社長と財前部長とのプラトニックな関係を知ってしまうと、発射シーンがとても意味深に感じられてしまいます。考えすぎでしょうか。
■「正義は我にあり」と叫ぶ佃社長は意外に姑息だった
一方、「帝国重工」時代に辛酸をなめさせられた伊丹(尾上菊之助)と島津(イモトアヤコ)が共同で創業したベンチャー企業「ギアゴースト」も、風雲急を告げることに。
「正義は我にありだ」と威勢のいい佃社長は、「ギアゴースト」を救うために姑息な手段に訴えます。「証拠がないなら、新しい証拠を出してもらおう」と中川弁護士を罠にはめることに。中川弁護士と内通している「ギアゴースト」顧問弁護士・末長(中村梅雀)の悪行を暴くため、末長の事務所を訪ねた島津にわざとICレコーダーを仕込んだカバンを置き忘れさせたのです。このICレコーダーには、中川が末長から「ギアゴースト」の情報を不正入手していたことが分かりやすく録音されていました。
「ギアゴースト」の弁護に立った神谷弁護士(恵俊彰)はさらに念押しとばかりに、末長が買収されていた事実を認めた確認書を裁判官に提出します。末長は土壇場になって、策士・中川を裏切ったのでした。「畜ッ生~!!」という負け犬の遠吠えと共に、中川は警察へと連行されます。前シリーズ同様に前半戦を盛り上げた中川弁護士は、ここで退場です。■別れの季節は愛の告白、真っ盛り!!
裁判が終わり、「佃製作所」は「ギアゴースト」の賠償金15億円を肩代わりせずに済み、万々歳です。「佃製作所」の社員食堂で祝勝会が開かれます。
殿村の新しい門出を、「佃製作所」のみんなで見送ります。社員を代表して技術開発部の山崎部長(安田顕)が目をウルウルさせながら「明日から、トノさんがいないなんて信じられない。みんな、トノさんのことが大好きなんです」と伝えると、殿村も「夢とか情熱とか、そんな形や数字にならないものを本気で語って、本気で受け止めてくれる、みんなが大好きだ!」と涙目で応えるのでした。今年の「流行語大賞」に『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)がノミネートされた影響もあるのでしょうか。「帝国重工」も「佃製作所」も、オッサンたちが激しく愛を告白しあうのでした。この場に違和感なく溶け込んでいる女子社員・アキも、なかなかの器です。
ヤタガラス7号機の打ち上げに成功し、裁判にも勝利し、大団円で「ゴースト編」は完結するのかと思いきや、最後の最後に大ドンデン返しが待っていました。佃社長の機転によって窮地を救われた「ギアゴースト」ですが、伊丹社長は独断で重田社長(古舘伊知郎)のいる新興企業「ダイダロス」と資本提携してしまったのです。
伊丹社長は「帝国重工」時代に、下請け企業が困らないような新しい経営プランの企画書を上司・照井課長(プチ鹿島)に提出したのですが、この企画書は酷評されまくった挙げ句に、伊丹は社内の墓場と称される総務部の閑職へと追いやられたのです。大企業にいながらゴースト社員となってしまった伊丹を追い込んだのは、実は次期社長候補の的場(神田正輝)でした。その事実を重田から教えられ、伊丹は別人へと豹変してしまったのです。
人のいい、おぼっちゃん的だった伊丹社長ですが、重田から「一緒に的場に復讐しよう」と吹き込まれ、ダークサイドへと墜ちていきます。伊丹社長は「帝国重工」に復讐を遂げるため、“暗黒卿”ダースベイダーへと変身したのでした。副社長の島津が「伊丹くん、目を醒まして」と呼び掛けても、能面のように冷たい表情を見せる伊丹社長でした。尾上菊之助のこの変身シーンは歌舞伎俳優ならではの見せ場です。どうせなら、ダースベイダーみたいなヘルメットを被ってくれれば、さらに盛り上がったことでしょう。尾上菊之助はリメイク版『犬神家の一族』(06年)で佐清役を演じており、マスク姿には慣れていますから。
■前半戦をちょい総括すると……
裏切りに続く、裏切りの連続で幕を閉じた「ゴースト編」。
前半戦を振り返って、もうひとつもったいないなと感じたのは佃航平のひとり娘・利菜(土屋太鳳)のキャラもほとんど活かされていないことです。仕事に熱中する父親を尊敬する理想の娘像という枠から、まるではみ出すことがありません。財前部長と藤間社長との禁断の関係を知って、利菜はショックを受けて錯乱してしまうくらいのサプライズを後半は用意してほしいものです。
10分拡大だった第5話の視聴率は12.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)でした。前週の13.3%からさらなるダウンです。ピコ太郎が熱演した第3話の14.7%が最高で、なかなか15%の壁を乗り越えることができずにいます。
(文=長野辰次)