13日、Twitterのトレンドに『サイボーグ009』や『デンジマン』という文字が並んだ。テーマ曲を歌っていた歌手の成田賢氏が亡くなったのだ。

成田氏のアシスタントのツイートによると、肺炎を患っていたとのこと。享年73歳。

■『サイボーグ009』で初めてアニソンの道へ

 成田賢といえば、やはり代表作は『サイボーグ009』のテレビアニメ化第2作目主題歌「誰がために」だろう。

 1968年のアニメ化第1作目は原作に比べ子どもに寄せて作られていたが(007が少年の年齢に設定変更されたりと原作者・石ノ森章太郎的にも不満があったという)、グッと雰囲気を変えて作られたアニメ化第2作目(1979)は、神話をモチーフとしたシリーズ(宇宙樹編)を入れ込むなど、やや大人向けな内容(結局、宇宙樹編は途中で監督が根を上げて終了するが)で、その主題歌はどこかカッコよくも物悲しく、ヒーローモノなのに主役である「009」という言葉が歌詞に全く出てこなかったりと、従来の子ども向けヒーローアニメとは一線を画す作品だった。

 その主題歌「誰がために」にシンガーとして抜擢されたのが、グループサウンズ「ビーバーズ」解散後、シンガーソングライターとしてイマイチくすぶっていた(とはいえCMソングでは稼いではいたようだが)成田賢だった。

 アニメソングのイメージが付いていない歌手という理由で抜擢されたとのことだが、制作側も旧来の作品と違う新しいものをトータルで生み出そうとしていたのだろう。

 作詞は原作者である石ノ森章太郎、作曲は御大・平尾昌晃、編曲はシリーズの音楽も務めたすぎやまこういちというイカツイ布陣。

 サビの歌詞でもあるタイトルを「誰が(たが)ために」という子どもが読めない言葉にするあたりからも、子どもに安易に寄せない、ただならぬ意気込みを感じる。

 のっけから「吹きすさぶ風がよく似合う」とクールな歌い出し。さらに「九人の戦鬼(せんき)とひとのいう」と静かに高まる。

「ひとがいう」ではなく「ひとのいう」という節回しが、成田の、熱い中にも憂いを帯びた歌声と相まって、当時子どもだった筆者も含め、視聴者を酔わせてくれた。

「涙で渡る死の大河、夢みて走る死の荒野」

 活字にすると、もはや般若心経のようだ。



 水木一郎や串田アキラのあの灼熱さとも違う、成田特有の微妙に鼻にかかった、叫びながらもどこか儚い歌声が、この世界観とピタリとハマった。

 子ども受けするキャッチーな曲ではないためリアルタイムで大ブームとなったわけではないが(それでもオリコン・テレビマンガ童謡部門で年間12位)、本編同様、根強く愛される名作となった。

■バイク事故で26年間休業

 さらにその後に歌った戦隊モノ『電子戦隊デンジマン』のテーマ曲も、当時(1980)の流行りを意識したクールなテクノファンク調に成田のシャウトが合わさるという面白い曲で、番組もヒットし(ゴレンジャーに次いでシリーズ歴代2位の視聴率)、さあこれから! というタイミングだったのだが、ここで成田はバイク事故で負傷してしまう。

 長らく身体も動かない状態だったというから、よほど重症だったのだろう。その影響で26年間も歌手活動を休止することとなる。

 もしそのまま活動していたら、我々が知る数多のアニソン有名曲のいくつかは間違いなく成田が歌っていただろう。

 26年のブランクの末、2007年より歌手活動を再開するのだが、そのきっかけとなるエピソードが面白い。

 当時、教会でボランティアとしてブルースハープを吹いていた成田。その流れで歌声も聞かせることとなり、そのため自身の曲のカラオケ音源を探す目的でコロンビア(レコード)に自ら問い合わせる。

 それがキッカケで、あれよあれよという間に復活が決まったのだという。

 本人いわくコロンビアで「成田死亡説」が流れていたほどらしいから、もう完全に会社とのつながりが切れていたのだろう。

 復活してからはライブやアニソンイベントに積極的に参加、そして12年には『009』新作劇場版『009 RE:CYBORG』のため「誰がために」をセルフカバー。



 初めてこの曲を聞いた時、成田をリスペクトする他のアーティストが歌っているのかと思ったが、あまりにオリジナルに「忠実」なリスペクトぶりなので調べてみたら、まさかの当人だった。

 自身のターニングポイントともなった記念すべき作品だけに、復活し再び「誰がために」を吹き込むことになったのは、当人的にかなり熱い思いがあったはずだ。

■誰もが知るあのCM曲も熱唱

 主題歌としては「誰がために」やデンジマンOP曲「ああ電子戦隊デンジマン」ED曲「デンジマンにまかせろ!」が有名だが、とある超メジャー商品のCM曲も成田が歌っている。

 それは東鳩キャラメルコーンのあのCM曲。

「キャラメ~ルコ~ン、ホホーウホホォーウ」

 あのお馴染みのカントリー調のフレーズは当時成田が歌っていたのだ。

 そして、若い世代的にも『獣拳戦隊ゲキレンジャー』(2007)で挿入歌(「1-2-3-4激気正義!」)を歌っており、名前は知らなかったにしても、その声に耳馴染みのある元・ちびっ子は多いはず。

 09年のアニメ『メタルファイト ベイブレード』では主題歌の訳詩を担当するなど多才な面も見せていた。

 ブランクがありながらも世代をまたぎ歌い続けた成田賢。

 最近も、似合わない絵文字だらけのTwitterを、なりすましかと思われそうな頻度で更新したり、ユーチューブに上げられていた自分の曲(おそらく無許可。太平洋沿海フェリーのイメージソング「海へ出よう」)にガチ感謝のコメントを投稿したりと、何かを取り戻さんとするかのように精力的だった。

 そんな最中の訃報。

 休んでいた分も、もっとその歌声を聴かせてほしかっただけに残念だ。



 慎んでご冥福をお祈りします。
(文=柿田太郎)

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