高畑充希演じる極度の堅物OL・佐々木幸子が、結婚式当日に新郎(俊吾さん=早乙女太一)に逃げられたという悪夢(現実)を忘れるため、グルメ道に目覚め邁進する飯テロコメディ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)。幸子が慣れないコンパにデートに意欲的に挑戦した第5歩(第5話)を振り返ります。
(前回までのレビューはこちらから) ■簡単に信じてしまう無防備な幸子
「新しい出会いしか過去の恋愛を忘れる方法はないと思うんですよねーワタシ」との持論を持つ同僚の“ザ・ゆるふわ女子”橋本(逢沢りな)に誘われ、合コンに参加することになった雑誌編集者・佐々木幸子(高畑充希)。
幸子は絵に描いたような堅物なので、当然コンパになど参加しなさそうだが、根底は子どものように素直なので納得してしまうと実に素直に受け入れてしまう。
今回も「新しい作家を見つけるためにたくさんの原稿を読むでしょ? 合コンも新しい恋を見つけるためのコンテストだと思えばいいんですよ」と橋本に提案され「合コンのコンはコンテストのコン」と簡単に納得しかけたほど。
以前も池田鉄洋演じる人気作家(ジーニアス黒田)に原稿を依頼する際、コスプレで来たら考えてもいいと言われ、白昼の住宅地で即座に美少女キャラのコスプレを装着するなど、しっかりしているように見えてたまに無防備だ。
今回はその危険な「素直さ」がいろいろと笑いを生み出す。
いわば「コンパやデートに不慣れな人間が巻き起こすコント回」なのだが、締めるところは締めて魅せてくれます。
ということで始まった3対3の合コン。こじゃれた店で早速乾杯。
「素敵なみなさんと出逢えたことにかんぱーい」「まずは自己紹介、じゃあ女子から!」と、仕切る男性陣はコンパ慣れしてる様子。
幸子と橋本以外のとある女子ととある男子が同じ大阪出身とのことで盛り上がる一同。
しかし幸子はテーブルの下で逐一その会話をメモ書きする。
橋本に事前に受けたアドバイス《男子の自己紹介の内容をしっかり覚えておけば後々の会話で「覚えててくれたんだあ(ハート)」と好感度が上がる》を、幸子なりに実践しているのだ。
しかし空気もクソも知ったこっちゃない真っ直ぐな幸子は、本領を発揮しだす。
「そちらの方(大阪出身の男子)、公平性を保つため、まず名前をお名乗りください」
「先ほどの発言、『関東人はコレやから』の『コレ』が何を指すのか不明瞭です。教えていただけますか?」
「『意味はない』でよろしいですか?」
文字にするとドラマで見てた以上にヤベエ奴である。橋本がどんな思惑で幸子を誘ったのかイマイチわからなかったが(人数合わせ?)、こうなると絶対に呼んではいけない人員だ。■へべれけに酔っ払う幸子
さらに幸子は《相手と同じ飲み物を頼むと好印象を得られる》という同調行動を利用した橋本のアドバイスに従い、男女構わず、誰かが酒を注文するたびに同じものをオーダー。挙げ句、べろんべろんに酔っ払ってしまう。
「橋本しゃん、合コンのコンは混沌のコンなのれしゅね?」と橋本にへべれけの笑顔で微笑むぐでんぐでんの幸子。
この極度の不器用さ、ここまでくるとある意味「男性が守ってあげたくなる、男性に都合のいい理想の女子」だ。しかも見た目は高畑充希。危険な男が一方的に深くハマって来そうで心配だが、そこに現れたのは遅れて到着した関西弁イケメン男子・梶(清原翔)。
「すきっ腹で飲むからや(笑)」「なんか食い行かへん?」
店でうたた寝てして、一人取り残された幸子を屋台へと連れ出す梶。
しかし関西弁と言うのは会話の距離を詰めるのが早い。
■揚げパンで思い出す記憶
結論から言うと、梶は小学校まで幸子と同じで(中学で関西に転校)、幸子は忘れて途中まで気づかなかったものの、当時片思いしていたという梶はどんどん幸子にアプローチをかける。
まず連れて行った先が揚げパン屋台という実にニッチなスポット。わからないが、とにかくモテそうなチョイスだ。
目の前で油で揚げられ、きな粉の中を転がされたコッペパンが美味くないわけがない。
幸子は「給食の中で一番好きだった」「懐かしさがこみ上げてくる」と、きな粉をまぶした揚げパンを頬張っていたが、筆者が子どもの頃、給食で出てきた揚げパンは砂糖オンリーがまぶされたもの。筆者は東京だが、地域によって違うのだろうか?
「揚げパンて戦後にできた東京の給食のメニューなんやて。お腹すかせた子らのためにこんな美味いもん考えるなんて、ええ人やったんやろな、給食のおばちゃん(笑)」
梶が揚げパンを齧りながら言ったセリフだが、地域の話はさて置き、実際これをリアルで言われたら「こいつ毎回この手口で女落としてるな?」と勘ぐってしまいそうなほど小慣れた言い回し。イチゴ牛乳を同時に差し出す手口にも「常習性」を感じるが、それ以上に気になったのが「関西発祥じゃないんかい」というところ。昔の東京のちょいといい話をバリバリの関西弁で語っているところに少々笑ってしまった。
揚げパンを食べて子どもの頃を思い出していた幸子は、梶が小学校の時のあの「梶くん」だと、ようやく認識する。が、その時の「梶くんですか?」の言い方が、かつてのさくらんぼブービー(芸人)のネタ「カジくんだよね?」彷彿とさせた。
かつての思い出を喚起させるために揚げパンをチョイスしたのだとしたら、梶はやはり相当なやり手だ。しかも全て自然にこなしている。
さらに幸子が気づいたこのタイミングで「俺の初恋の人やし」と、さりげなく告白するあたりも手練れすぎている。あの、結婚式にて新郎(俊吾さん)が失踪してもさほど動じなかった幸子が、今回片膝をつくほどよろけていたし。梶くん、恐るべし。
■それでも俊吾さんを忘れられない
なんだかんだで2人はデート(横浜・ズーラシア)するのだが、幸子は橋本にコーディネートされたらしく真っ白なロリータファッション。普段、オバケのQ太郎並みに同じデザインのリクルートスーツしか着ていないのに、この受け入れ方は、やはり無防備。
ここでも橋本のモテ・アドバイスに従い、
・さりげなくボディタッチ→猿の毛繕いを真似て背中を不審に撫でるのみ
・会話で相手を否定しない→冗談を言われても突っ込まない
・うわ目使い→ヤンキーのメンチ切り
と、順調に奇人ぶりを積み上げていく幸子。しかし基本、幸子に好意を持ってる梶くんはダメージを受けない。
だが、幸子はヤマアラシに似てると言われ(これでもかというくらい身を守ってるところが……らしい)、失踪した俊吾さんを思い出してしまう。俊吾さんには、ゆっくり前進するという理由で幸子は亀に似てると言われていたのだ。
「実は私、婚約者に逃げられてしまって、今もその人のことが忘れられず、少しでも前に進めるかと思っていたところ梶くんにお誘いいただきまして、それで……」
全てを打ち明けてしまった幸子と、初めて顔を強張らせる梶。
無言での気まずい帰り道「私、最低だ……」と、どっぷり凹む幸子。だがこんなに人間臭い感情を見せる幸子は初めてで、逆に少し安心してしまう。
■結局ナポリタンで忘却
別れ際の喫茶店で、梶が幸子に食べさせたのは玉ねぎやピーマンゴロゴロ入った昔ながらのナポリタン。隠し味にシイタケやイカ、そしてベーコンとソーセージの肉っ気そろい踏み。味付けにケチャップだけじゃなくトマトも入れることでコクが出しているという。
先ほどまでの気まずさも忘れ、美味そうに爆食いする幸子。もうその目には俊吾さんも梶くんも映っていない。ただただナポリタンの美味さに酔いしれる。
タバスコや粉チーズを見つけるたびに目を輝かせて味変えを楽しみ、タバスコをかける際には下顎を突き出し猪木の顔真似まで披露(タバスコを日本に輸入したのはアントニオ猪木)する徹底ぶり。
ここで最後についてくるコーヒーが飲めないからと勘定を済ませ、立ち去ろうとする梶。
「最後くらいカッコつけさせろや~。俺、待っとるから、佐々木がその婚約者っつう奴のこと忘れられるまで。忘れられたら、一番先に連絡してきてや」
俊吾さんを忘れられない幸子を想っての実にかっこいい引き際なのだが、悲しいかな幸子が俊吾さんを忘却した際には、梶くんのことも跡形もなく忘却しているはず……。今さっきのナポリタンがそうさせたように。
原作では、梶くんはもっと少年のような、いかにも恋が実らなそうな「いい人」感の強いキャラだったのだが、ドラマではリアルにイケメンになっていたので、幸子が本気で恋に落ちるのではと見ていてヒヤヒヤしてしまう。
いや、落ちてもいいのだけど、どこか親心のような気持ちで見守ってしまうのは高畑マジックなのだろうか。
しかも今回ラストに、前回登場したモンスターなイマドキ新入社員・小林(葉山奨之)が幸子に恋心を抱き出していることが判明し、幸子は完全にモテ期到来。親心がうずきます。
今回も前回に引き続き狗飼恭子脚本に根本和政監督のペア。このコンビは必ずグッとくるいいシーンを入れてくる。
今回は、幸子がヤマアラシに似てるというどうでもいい会話の流れで、かつての男(俊吾さん)を思い出してしまったり、正直に話しすぎて梶を傷つけたのでは? と幸子が落ち込んでしまったり。その辺だけやけに描写がリアルだ。
ここにさらにグルメや面白パートが配置されるのだから、30分ではとても足りないはずだが、このドタバタくらいのペースがモタつかず深夜的に見やすいのかもしれない。
次回はなんと宮崎ロケ。三崎以上の大遠征で、幸子は何を食べるのか? そして俊吾さんがまたしても登場。果たして今回こそ本人なのか? 楽しみです。
(文=柿田太郎)