鍋料理の後のおじやのように味わい深い、オジさん俳優たちが大挙出演する熱血理系ドラマ『下町ロケット』(TBS系)。今週もいい出汁加減です。

阿部寛演じる佃社長の道楽みたいなものだったロケット開発ですが、新章「ヤタガラス編」に突入し、具体的なビジネスへと展開していくことになります。高齢化、労働者不足が叫ばれる日本社会に、新しい希望をもたらすことになりそうです。さっそく、『下町ロケット ヤタガラス』第6話を振り返ってみましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

「けったくそ、悪い話だなぁッ」。理系ならではの変人キャラ・軽部(徳重聡)が2週間ぶりの登場です。ベンチャー企業「ギアゴースト」の伊丹社長(尾上菊之助)が佃社長(阿部寛)を裏切って、ライバル社「ダイダロス」と資本提携したことが「佃製作所」の社員全員に知らされます。
ひねくれ者と思われている軽部ですが、社員みんなの気持ちを率直に代弁するのでした。

 今週の軽部の台詞はこのひと言だけでしたが、その後もなかなかの挙動不審ぶりで楽しませてくれました。「ギアゴースト」を退職した副社長・島津(イモトアヤコ)が「佃製作所」へ最後のあいさつに訪れたのですが、立花(竹内涼真)やアキ(朝倉あき)は「一緒にやりましょうよ」と「佃製作所」に再就職することを勧めます。普段はぶっきらぼうな軽部ですが、天才エンジニアである島津の実直な仕事ぶりには好意を抱いています。無言ながらも、子犬のようなつぶらな瞳で、「島ちゃん、一緒に働こうよ♪」とアイコンタクトを懸命に送る軽部でした。

 苦労を共にしてきた伊丹社長から用済み扱いされた島津ですが、捨てる神あれば拾う神ありです。
変人と天才との間で恋は芽生えるのでしょうか。池井戸潤の原作小説にはなかったサイドストーリーに俄然注目です。

■夢は現実化するとノルマに変わる!?

 ロケット開発の現場から外された「帝国重工」の財前部長吉川晃司)の新しい部署は「企画推進部」でした。ロケットに関わる周辺ビジネスを考える部署のようです。そこで財前部長が閃いたアイデアは、人工衛星による測位情報を利用した無人農業ロボットの実用化でした。この農業ロボットが全国に普及すれば、高齢化が進む日本の農業を救うことができるのです。

単なる道楽と思われていたロケットの打ち上げが、日本の第一次産業に大革命をもたらすことになるのです。財前部長から農業ロボット用のエンジンとトランスミッションの提供を頼まれ、佃社長の鼻息はいつになく強めです。

 佃社長はエンジンとトランスミッションの開発に加え、もうひとつ重要なミッションを託されます。農業ロボット研究の第一人者である北海道農業大学の野木教授(森崎博之)を、このプロジェクトに巻き込んでほしいというものでした。野木教授は佃社長の大学時代の親友です。北海道で久々の再会を果たした佃社長と野木教授は、学生たちと一緒にキャンパス内での宴会を楽しむのでした。
北海道で生まれた「TEAM NACS」のリーダー・森崎だけに、ジンギスカン鍋を囲む姿がよく似合います。

 ところがビジネスの話になると、野木教授の顔色がサッと変わるではありませんか。以前、「キーシン」というベンチャー企業から共同開発を持ち掛けられ、情報を盗まれるという痛い目にあっていたのです。金儲けのために自分の研究が利用されることを嫌った野木教授は、名台詞を吐くのでした。「企業と組むことで、夢は目標となり、ノルマに変わる」と。この名言を話す相手が現われる日を、野木教授はずっと待っていたようです。


 しかし、佃社長も自社の存続が掛かっているので、「そりゃ、そうですね」と引き下がるわけにもいきません。学会で上京してきた野木教授を「いいものを見せてやる」と誘い、「帝国重工」へと強制的に連行するのでした。佃社長の「いいもの」とは、「帝国重工」と「佃製作所」が共同で開発しているロケット用新型バルブの実験現場でした。会社の垣根を越えて、開発チームのメンバーたちが共に汗を流しています。BGMは英国合唱団「LIBERA」が歌う中島みゆきの名曲「ヘッドライト・テールライト」。佃社長の「彼らにはノルマを乗り越える歓びがあるんだ」という言葉に、ついついうなずいてしまう野木教授でした。
一流詐欺師のような佃社長の見事な手口に、若干の恐ろしさを覚えます。

■悪の貴公子、さっそうと登場!

 池畑慎之介演じる悪徳弁護士・中川は刑務所送りとなりましたが、新章スタートに合わせて新しい悪役たちがぞろぞろと姿を見せました。「ダイダロス」の重田社長(古舘伊知郎)のもとに、野木教授から情報を盗んだ「キーシン」の戸川社長(甲本雅裕)、広報担当の北堀(モロ師岡)が顔をそろえます。これにダースベイダー化した「ギアゴースト」の伊丹社長が加わり、悪のマシン軍団の完成です。カメラは丁寧に、一人ひとりの悪党づらをクローズアップで映して見せます。オジさん俳優たちは、みんな悪いことがしたくて堪らないといった風情です。『下町ロケット』はサラリーマン版『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)なのかもしれません。

 美味しい悪役をオジさん俳優たちだけに独占させるのは、もったいないというものです。「佃製作所」を退職して、新潟県燕市にある実家の農業を継いだ殿村(立川談春)ですが、故障しがちな古いトラクターに頭を抱えている殿村の前に、さっそうと悪役界の貴公子が現われるのでした。ミュージカル『テニスの王子様』や『エリザベート』『モーツァルト!』など、ミュージカル界で活躍する古川雄大の出番です。

 農林協に勤める大農家の三男坊である吉井(古川雄大)は、殿村家の自家が農林協を通さずに消費者に直売されていることが気に入りません。トラクターの故障箇所を見ていた佃社長を「こんな、修理のおっさん」呼ばわりした挙げ句、「米の品質なんて、客に分かるわけないだろ。米なんて、喰えりゃいいの」と農林協の職員とは思えない大暴言を吐くのでした。そのくせ、殿村から「あんたみたいな人がいると、米がまずくなる」と怒鳴られると、すたこらと退散していきます。とてもライトな小悪党ぶりは、古舘伊知郎率いる悪のマシン軍団とは違った軽やかなフレーバーで視聴者を楽しませてくれます。
 
 タレントの好感度ランキングがもてはやされた時期は、テレビドラマでも映画でも悪役をやると好感度が下がり、CMの仕事が来なくなってしまうという底の浅い理由から、俳優たちが悪役をやりたがらないというつまらない風潮がありましたが、北野武監督の『アウトレイジ』(10年)がヒットしたあたりから、風向きが変わってきたようです。俳優はダークサイド側の人間も演じられてこそ一人前です。うさん臭い芸能プロダクションの社長役のモロ師岡は、北野監督の名作『キッズ・リターン』(96年)では才能ある新人ボクサー(安藤政信)に酒と下剤を教えて潰してしまうロートルボクサーを好演しました。こういうアクのある俳優がいることで、いい出汁加減のドラマができるのです。甘い夢を語る、いい人たちだらけでは社会もドラマも回りません。

 新章スタートとなった第6話の視聴率は13.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)でした。福澤克雄チーフディレクターの演出により、前回の12.7%からちょい数字が回復しました。佃社長が言った「ノルマを乗り越える歓びがある」という台詞は、野木教授だけでなく、TBSのドラマ班にも向けた言葉でもあるようです。平均視聴率18.5%を記録した前シリーズに、どこまで後半戦は迫ることができるのか。軽部の恋の行方と共に注目したいと思います。
(文=長野辰次)