視聴率低迷やマンネリが叫ばれつも毎年話題となる『NHK白歌合戦』。

 ご存知の通り、昨年末は最後のサザンオールスターズの舞台にユーミンが“乱入”、ど真ん中の世代はもちろん、それ以外の層にも響くパフォーマンスで、平成最後の放送を大きく盛り上げた。



 今回の紅白での2人の共演を振り返りつつ、30年前に2人が共演した明石家さんま司会の伝説の音楽番組も紹介したい。

■まずはユーミンのサプライズ

 今年の紅白も近年の流れを受け、さまざまなサプライズが散りばめられていた。

 昨年まで裏トーク(副音声)を担当し、今年は出演しないと思われていたバナナマンが多忙の合間を縫って、卒業間近の西野七瀬有する乃木坂46の応援(番組でずっと共演し「公式お兄ちゃん」という立場)に駆けつけたり、当初1曲(アイノカタチ)しか歌わないとされていたMISIAが往年のヒット曲「つつみ込むように…」を熱唱したり、石川さゆりの名曲「天城越え」で布袋寅泰が重めのギターを響かせたり。

 そして松任谷由実のサプライズは、これらのサプライズを足したような凝りようだった。

 紅白での大物歌手ならではの優遇措置として「客席前のステージ(NHKホール)ではなく別の場所から中継で歌う」=「余計な応援や他人の盛り上げ、ゴチャゴチャしたオープニング(きっちりしたリハなどに時間がかかる)などに参加しなくてよい」という「出方」がある。

 尖りまくっていた時期の長渕剛が崩壊直後のベルリンの壁前から3曲(17分)も好き放題歌った(1990)のは、今でも語り草だ。

 最近だと、宇多田ヒカルがロンドンから初出演した時(2016)や安室奈美恵がラスト紅白として「Hero」を歌ったの(2017)がこれに当たる。今回で言えば旬の米津玄師が故郷・徳島からテレビ初生歌唱しているが、それもこの枠になる。

 出演を渋る大物を説き伏せる「中継」という手口。

 今回のユーミンも当初、このパターンだと思われた。一曲目の「ひこうき雲」は別会場らしきセットから歌われた。ピアノとストリングスのみの贅沢なアレンジ、お馴染みの名曲。

しかし観客や共演者が会場で生の歌を味わうことは出来ない……そういう大物の「出方」だと思った。

 が、2曲目の「やさしさに包まれたなら」のイントロと共にメインステージに颯爽とユーミンが現れた。紅白大物あるあるを逆手に取ったサプライズ。沸き立つ会場。この時点でaikoは口を手で覆い涙。審査員席の安藤サクラも目を滲ませる。2013年紅白の『あまちゃん』パートで橋本愛小泉今日子薬師丸ひろ子が会場に登場した時を思い出した方も多いだろう。今回のサプライズ登場演出はあの時の盛り上がりが念頭にあったのではないか。

 それでもユーミンの喉の状態は決してよかったとは言えない。「よかったら一緒に歌ってね」という一言を挟んだため、出だし部分もトチってるし、仕方ないがキーも低めだった。しかし、歌詞を背景に映すなど観客を想う溢れる心意気がそんなことをまったく気にさせなかった。

 ユーミンの少し前に松田聖子が往年のヒットメドレーを歌ったのだが、その際もやはりキーを下げており、「当時のまんま」というわけではなかった。
それでも「いい年をして……」と叩かれてしまいそうな純白のフリフリドレスを纏い、出来うる限りで「みんなの求めるあの頃の聖子ちゃん」を見せようと努めている感じに好感が持てた。松田聖子も松任谷由実も、(特に紅白などライトなファンが多い場で)自分のヒット曲が自分だけのものではなく、聴いてきた人々の思いを背負っていることを理解しているのだろう。

 ちなみにこれは野暮な憶測だが「ひこうき雲」の時、画面右上の生放送を表す「LIVE」の文字が消えていた。確かにNHKホール内(もしくはすぐ移動してこれる距離)にあそこまでしっかりしたセットを作れるスペースはない、と思う。なんらかの理由で生での(連続での)演奏が困難だと判断して前半(ひこうき雲)のみ収録にしたのだろうか?

 しかし「ひこうき雲」でピアノを弾いていた武部聡志が、「やさしさ~」の前半は(移動のため?)不在で、中盤以降加わっている。

 ここまでしている以上やはり生なのだろうか…?

 極論を言えば、もはやどちらでもいいのだが、つい気になってしまう。

■豪華すぎるバックバンド

 ちなみに今触れた武部聡志以外にも「やさしさに包まれたなら」のバックを務める面子が凄かった。

 キーボードに松任谷正隆(と武部聡志)、ドラムに林立夫、ベースに小原礼、ギターに鈴木茂。「ティン・パン・アレイ」に「スカイ」に「サディスティック・ミカ・バンド」。誰がどのバンドだとかはこの際省かせて頂くが、日本の音楽シーンの礎を築いたレジェンドだらけ。そもそもこの曲のシングルレコーディング自体ティン・パン・アレイ(当時はまだ「キャラメル・ママ」名義)が行っているので今回そこそこのオリジナルメンバーなのだ(今回演奏したのはアルバムバージョンだが)。

 ユーミンの出番より前に、星野源が自身の冠音楽バラエティ『おげんさんといっしょ』のコーナー内で、敬愛する「細野晴臣」の名前を口にしていたのだが、その細野が当のティン・パン・アレイの(主に)ベースだ。

ユーミンの直後に自身の歌で再度登場した星野はきっと舞台袖で興奮していたに違いない。

「バンドのメンバーも豪華でしたし」とユーミンバンドに唯一触れた白組キャプテン櫻井翔も嬉しそうだった。

 ふと気になったのは、ユーミンの2組ほど前の出番の松田聖子が「風立ちぬ」を歌っている時の作曲クレジット「大瀧詠一」という文字。鈴木茂はモニターでこれを見ていただろうか? という些細な興味。そもそも作詞は「松本隆」だし「細野晴臣」の名前も松田聖子の他の曲のクレジットの中にあった。「はっぴいえんど」のメンバーがこの紅白で計らずも交錯していたので、ついそんなくだらないことを考えてしまった。

 ちなみにユーミンパパこと松任谷正隆はかつてaikoの「カブトムシ」をたまたま聴き、生まれて初めて邦楽を買いにCD店へ走ったという逸話がある。どちらも、「大阪の面白姉さん」「カーグラTVの車好きおじさん」として、普段その才能を煙に巻きながら、当人同士は通じ合ってる感じが素敵だ。

■『いいとも』最終回に似た興奮

 そしていよいよサザン。桑田佳祐ソロとしては昨年も出演しているがバンドとしては35年ぶりとなる大凱旋。まず「希望の轍」。原由子のピアノのイントロだけで会場が沸く。

桑田は若いころのように変な格好をしたり奇をてらうようなことはしていない。なんならいろいろあって少々ふらついているようにすら見えたが、いい具合に力が抜けつつ、それでも振り絞るように踏ん張る様がやけにかっこよかった。そして2曲目。

 松任谷由美は自身のサプライズについて「平成最後のお祭りですから」と言っていた。北島三郎も5年ぶりの帰還で「まつり」を歌った。そしてサザン最大のお祭りソング「勝手にシンドバット」。平成どころか昭和がフラッシュバックする。出川哲朗野村萬斎も口ずさんでいる。出川は内村と学生時代に一緒にコンサートに行っていたというから、自身のブレイクを経て、盟友司会の大舞台で共に聴く「あの時の曲」はたまらなかっただろう。

 曲の途中、舞台に集まってきた出演者の中から北島三郎にマイクを向け「今何時?」とあのフレーズを歌わそうとする桑田。誰と絡んだら盛り上がるかは嗅覚でわかっているはずだ。ところがかろうじて成功したようになっているものの、残念ながらイマイチ北島の声がマイクで拾えていなかった。


 若干のもやもやが残りかけたその瞬間、後方左端からフレームインしてくる人影が。ユーミンだ。

 誰か(位置的にaiko?)に急かされて出てきたように見えなくもないが、自分の役割を把握してるユーミンは、まず桑田のほっぺにキス、そして真横で「胸騒ぎの腰つき」とばかりに腰を振り、仲間のステージに華を添える。夢の組み合わせに沸き立つ会場。

 この場面で桑田と絡んで見劣りせず盛り上げられるのは、あの舞台上にいた中では確かに彼女しかいないだろう。

 もしこの時ユーミンが「私ごときが……」と少しでも遠慮していたなら、ここまで印象に残る回にはならなかったのではないか? いや代わりに誰かしらが出てきて(引っ張り出されて)それはそれで盛り上がったかもしれないが、それでもここまでの「ハッピー感」には至らなかったはずだ。

『いいとも』最終回でダウンタウン松本人志の「(とんねるずと共演したら)ネットが荒れる」というボケの中に潜むほんの数パーセントのフリを敏感に感じとりスタジオに「乱入」、奇跡の共演を実現させたとんねるず石橋貴明の勇気あるファインプレーを思い出す。双方が何を求められているかを感じ取り、直感で垣根を踏み越えたからこそ実現した光景。

 はしゃぐaikoやMISIA。背後で子どものようにぴょんぴょん飛び跳ねる内村。松田聖子もYOSHIKIもサブちゃんも嬉しそう。日本のニューミュジック史に残る光景だ。


「ラララ~ラララユーミンさーん」「ラララ~ラララ桑田くーん」という微妙に先輩後輩がわかる貴重な掛け合い。

ウッチャンありがとう」「翔さんライブ行くから」「すずちゃん最高」「サブちゃんさすが」桑田が締めるところを締めつつまとめる。曲が終わると同時に内村は「NHKホールすげーぞ!」「なんだか幸せです」と叫んでいた。

■30年前の共演番組とは?

 桑田圭祐と松任谷由実は実に30年ぶりのテレビ共演。前回、共演の舞台となったのは1986年と87年に放送された日テレのクリスマス生特番『メリークリスマスショー』で、桑田自身が企画し、普段テレビに出ないようなミュージシャンも多数出演した。司会は当時まさにスターの階段を駆け上ってる最中の明石家さんま。

 紅白放送中から30年前の共演を懐かしむ声が一部ネットに上がっていたが、ユーミン当人も番組終わりの取材で、「桑田さんとは大昔『メリークリスマスショー』というテレビ番組で一緒にステージに立った以来。久しぶりで楽しかった」と振り返っている。彼女もやはり思い出していたのだ。

 この番組のために「Kissin’ Chiristmas(クリスマスだからじゃない)」(ユーミン作詞・桑田作曲)というクリスマスソングを作って歌ったり、ユーミン、原由子、アン・ルイスで「年下の男の子」をアレンジして歌ったり、オープニングから全員で「Come Together」(ビートルズのあれ)を演ったり、これを夜7時から生放送していたのだから隔世の感に驚く。

 他の出演者も豪華で、鮎川誠(シーナ&ザ・ロケッツ)、ARB、Char、吉川晃司、小泉今日子、鈴木聖美雅之姉弟……さらにVTRで、忌野清志郎、BOØWY、山下洋輔、チェッカーズ、ALFEE……と錚々たるメンバー。

 氷室京介と吉川晃司がBOØWYの演奏で「HELP!」を歌ったり、忌野清志郎が桑田と一緒に桑田書き下ろしの曲(「セッションだッ!」)を演ったり、泉谷しげるがチェッカーズをバックに「赤鼻のトナカイ」を激しめに演ったりと、今では考えられない組み合わせだらけ。

 山下達郎も出演はしていないが裏で楽譜製作などでいっちょ噛んでいたというから恐ろしい。

 ユーミンに至っては「前川清さんと付き合ってた」とアン・ルイスの過去を笑いながら暴露したりと、当時の堅苦しい歌番組では見せないミュージシャン同士のくだけた顔をたくさん見せていた(アンも「忘れてくれよー」と笑いながら認めてた)。

 大御所となった今も、紅白の大舞台で身軽にあの頃のノリを見せてくれたのは嬉しい限りだ。

■内村、aikoらが導いた化学反応

 ユーミンに号泣していたaikoもそうだが、任意なのに「U.S.A.」を背後でキレキレで踊るHey!Say!JUMP(特に知念)や、負けじと楽しそうに踊る松田聖子、そしてその松田にのぼせるリアル聖子ちゃんファンの阿部サダヲなど、今年は出演者が自ら番組を楽しんでいるような光景が目立った。

 これは総合司会の内村自身が誰よりも紅白を楽しもうとしていたスタンスが影響していると思われる。

「聖子ちゃぁぁーーん」と往年の親衛隊のようにコールしたり、センター不在の欅坂46に「かっこよかったよ! 平手(友梨奈)ちゃんも絶対拍手送ってたと思うよ!」とわざわざ叫んだり。台本に盛り込まれていそうと言われればそれまでだが、それが上辺だけの空回りにならず心から発する言葉となっていたからこそ、その熱が周りに飛び火し、「番組を楽しもう」「楽しんでいいんだ」と全体のボルテージが高まり、最後の爆発につながったのではないだろうか。

 もちろん、ことあるごとに歌を口ずさんでいたaikoの存在も大きい。aikoの涙で泣かされた人も多かっただろう。この人は心から純粋に音楽が好きなんだなということを再確認させられたし、そのaikoの歌を審査員の永野芽郁が真剣に口ずさんでいたのも、次の世代に繋がっている感じがしてよかった。歌手ではないけど。

 桑田はもちろん、ユーミン、内村、aiko、その他それぞれがそれぞれに反応しあい生まれた今回の「祭り」。紅白でなくてもテレビのどこかでこういう化学反応を今年もたくさん見たい。
(文=柿田太郎)

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