沢村一樹が20年分の記憶を失ってしまう刑事役で主演を務めるドラマ『刑事ゼロ』(テレビ朝日系)の第1話が10日、2時間の拡大版で放送され、平均視聴率14.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好発進しました。

 京都府警捜査一課刑事の時矢暦彦(沢村)は、“京都府警に時矢あり”といわれるほどの逸材。

しかし、連続殺人犯の能見冬馬(高橋光臣)を追跡中、ビルの屋上から貯水プールに落下し、刑事生活20年分の記憶をごっそり失ってしまいます。

 そんな折、見舞いにやって来た元相棒の福知市郎(寺島進)から、新人刑事・佐相智佳(瀧本美織)の教育係を託されることに。刑事職を解かれることを恐れた時矢は、記憶喪失になったことを隠し、佐相と共に女性府議会議員・椎名蒼が刺殺された事件を追うことになります。

 その蒼が殺された現場では、あみだくじの一部分を切り取ったような奇妙な記号が書かれた紙が見つかるのですが、その直後に発生したフリーライター・今宮賢の殺害事件では、遺体そのものが同じような記号に見えるように、公園の鉄棒に粘着テープで吊るされた状態で発見。時矢は、そのテープと蒼の殺害現場に落ちていた紙から同じニオイがすることに気づきます。

 その後、今宮の父親・隆二(大澄賢也)と継母のもとを訪れた時矢は、応接室に置いてある香炉(香木を入れる器)が妙に気になり、直感を信じて香木の販売店へ足を運ぶことに。
するとその店の主人から、殺人現場に残されていた奇妙な記号が、源氏香(5種の香を各5包ずつ計25包作り、任意に取り出した5包のニオイを嗅ぎ分ける組香の一種)で用いる香の図であることを指摘されます。この香の図には、源氏物語54帖のうち最初と最後の帖以外の巻名ひとつひとつが附されているというのです。

 さらに以前、蒼と今泉夫妻、小説家の鳴島恭三(小林稔侍)とその妻・桜子(富田靖子)が、同じお香のサークルに通っていたことが発覚。また、桜子のもとを訪れた時矢は、息子・芳孝(百瀬朔)が初めて書いた小説を恭三に焼かれてしまたっため、逆上して家出してしまったことを知るのでした。

 捜査を進めていくと、芳孝は隆二が桜子を襲った際にできた子であることや、その背景には、『郭公の庭』という小説を書くためだけに、恭三が自分の妻を隆二に襲うよう命じたこと、議員になる前に産婦人科医をしていた蒼が芳孝の出産を担当したことや、それらの事実をネタに賢が金を脅し取ろうとしていたことなどが判明します。

 蒼と賢の殺害現場に残された香の図がそれぞれ、源氏物語中で“不義の子”をテーマにした話であることから、時矢は一連の事件を芳孝の犯行による見立て殺人だと推測。
そんな中、隆二がワイヤーで首を吊られ殺される第3の事件が発生してしまいます。

 芳孝を逮捕するべく、時矢は捜査に夢中になるのですが、ふとしたきっかけで記憶喪失したことが佐相にバレてしまいます。しかし、今回が刑事生活最後の事件ということで見逃してもらい、捜査を続行することに。そんな中、桜子が神社の階段で何者かに突き落とされる事件が発生します。

 ところがこれは桜子の狂言だったのです。桜子は、隆二を殺害した際に傷を負って死んでしまった芳孝の遺志を継ぎ、第5の事件を計画。
かつて家族3人で暮らした家もろとも焼死すべく、恭三をスタンガンで気絶させて部屋中にガソリンを撒き散らすという凶行に及んだのです。

 そこへ駆けつけた時矢は、「人間は2度死ぬ」として、1度目は肉体が滅びる時、2度目は生きている人たちの記憶から忘却される時だと話し、息子の記憶をこの世に留めるためにも生き続けるべきだと説得。桜子がこれを聞き入れたことで事件解決となりました。

 その後、約束通り退職届を用意した時矢。しかし佐相は、今回の活躍から“新・時矢”も刑事として必要な素養を備えていることを認め、記憶喪失したことは誰にも漏らさないと約束。“旧・時矢”の捜査データを網羅していることから、彼の「取扱説明書」として支えていくことを表明したところで終了となりました。


 ベテラン刑事が20年間の記憶を失くすというトリッキーな設定や、沢口靖子・主演の人気シリーズ『科捜研の女』の“谷間”に差し込まれるカタチでの放送ということで、箸休め的な作品かと侮っていましたが、開始早々からかなり惹きこまれるものがありました。

 正直、源氏物語を見立てに用いた設定は複雑すぎるため映像作品には不向きで、被害者たちの関係性もごちゃごちゃしていてミステリー的には少し難ありかなぁ、という部分はありました。

 しかしそれを補って余りあるぐらい時矢が魅力的でした。記憶を失ったことで内面が20年前、つまり31歳の時に戻ってしまったという設定なのですが、今宮夫妻のもとを訪れた際には、妻と顧問弁護士との関係が怪しいと見て、「おふたり、デキてます?」と直球で訊いてしまうなど、その言動はまるで子どものよう。アニメ『名探偵コナン』(日本テレビ系)のオープニングでの名セリフ「見た目は子ども、頭脳は大人」の真逆のようなキャラクターなのです。

 それでいて、捜査に必要な観察力や記憶力、優れた五感、調査力、信念みたいなものは残っているんですね。
証拠品が見つかれば夢中になって調べ、直感が働けば即座に行動する姿は、大人少年探偵とでもいうようなコミカルな雰囲気が漂っていました。

 そしてその時矢を支える佐相役を滝本が好演。佐相は庶務係に在籍時、たまたま目にした時矢の姿に憧れ、彼が関わった事件データすべてを記憶したという熱烈な信奉者なんですね。

 だからこそ、時矢とのバディが決まり張り切るわけですが、その活き活きとした様子を滝本が実直に演じていました。また、傍目からはベテラン刑事と新人なのですが、視聴者からすれば新人同士のコンビ、という設定も観ていてユニークでした。佐相は、他の先輩刑事と組んでいれば恐らく、「お前は引っ込んでろ」と言われかねないほど積極的すぎる面があるのですが、実はぺーぺーの時矢と組むからこそ持ち味を活かせているのだろうな、と思います。


 その佐相いわく、時矢は以前は理論派、記憶を失ってからは直感派になったということですが、次回は7年前に関わった事件に再び挑むということで、どんな展開が待ち受けているのか楽しみです。敏腕刑事時代の粗を自ら掘り起こしていくことになってしまうのですかね。
(文=大羽鴨乃)