毒気の強い遊川和彦の脚本と、若手演技派女優・杉咲花とのマッチングで話題のお仕事コメディ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)。「わかりました、あなたを鑑(み)ます!」という決め台詞と共に、杉咲演じる派遣社員アタルが職場の同僚たちの悩みを占いでいっきに解決しちゃいます。

間宮祥太朗が物語の中心となった第2話を振り返りましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

 舞台は都内にあるイベント会社。かつて天才占い少女として活躍した派遣社員のアタル(杉咲花)が鑑定することになるのは、お坊ちゃまタイプの目黒(間宮祥太朗)です。早くに母親を亡くしたものの、実家が裕福だったことから不自由することなく育ちました。性格は明るく、仕事に対して常に前向きなのですが、お坊ちゃん育ちのため世間的常識にうとく、職場では浮いた存在です。心配症の大崎課長(板谷由夏)からは、まともな仕事を回してもらえません。


 目黒はけっこうイケメンなのに、恋人もなし。婚活アプリに登録しても、なかなかタイプの女の子と出逢えません。初主演映画『全員死刑』(17)で連続殺人鬼役をヤバいくらいに大熱演した間宮祥太朗が、瞳をキラキラさせながらも空振りを続ける残念な若者役を演じているギャップがいい感じです。

 例によって、調子のいい上司・代々木部長(及川光博)が「特撮ヒーローの新作発表イベントを企画してくれ」と急な仕事を振ってきました。伝説のイベントを成功させた実績のある上野(小沢征悦)は他の仕事に追われ、手が回りません。そこで子どもの頃から特撮ドラマが大好きだった目黒が立候補して、企画を初めて担当することに。
特撮ヒーローに対する愛情だけは人一倍あるようですが、果たして大丈夫でしょうか。

■問題発言「お前はAV男優みたいなもの」

 予算は考えずに、自分がやりたい特撮ヒーローイベントを考えた目黒の趣味色の強い企画案となりましたが、目玉となっているのは芸能界を引退している往年の人気特撮ドラマ「ミラクルヒーロー」の初代主演俳優をイベントに引っ張り出すというものです。これは常識の範囲でしか考えない田端(野波麻帆)たちには考えつかなかったナイスアイデアでした。目黒が熱心に説得したことで、芸能界から去っていた初代ミラクルレッドの八王子(湯江タケユキ)はイベントに出演するだけでなく、コンペにもサプライズゲストとして参加してくれるそうです。ここまでは目黒くん、万々歳でした。

 やる気まんまんの目黒は、クライアントへのプレゼンも自分がやると言い出します。

声がデカいことから、いつもプレゼン役を務めている上野はこれに反対。代々木部長から「部下を育てるのも上司の仕事」と言われていた大崎課長とケンカを始めてしまいます。自分がケンカの原因だとは知らず、「ケンカはやめましょう。俺らは仲間じゃないですか」と目黒が仲裁に入ったことから、上野はブチ切れるのでした。

「お前はAV男優みたいなもの。お前が何をしても誰も見てないし、仲間なんて誰も思ってないよ」。
コネ入社した目黒に対し、積もり積もっていた感情を爆発させる上野でした。でも、これは大暴言! AV男優に対して、失礼というものでしょう。AV男優たちが持てるテクニックとサービス精神のすべてを駆使することで、AV女優は輝きを放っているのです。AV男優は、縁の下の力持ち。英語にすると「Unsung Hero」です。AV業界を敵に回しかねないほど、遊川和彦の脚本はどぎついです。
AV男優ならずとも、いつも能天気な目黒もこの大放言にはショックを受けてしまいます。

■杉咲花が妖怪子泣きジジイに大変身!!

 コンペ当日、失意の目黒はコンペには参加せず、先週入ったばかりの新人社員・アタルと留守番することに。いつも異様に明るい目黒があまりにどんよりしていることから、妊娠して母性本能が高まっている神田(志田未来)は放っておけません。アタルがかつて天才占い少女だったことを目黒にバラしてしまいます。アタルからは「他の人に教えたら、ぶっ殺す」とクギを刺されていた神田ですが、しれっとしたものです。母親になると、女性は急にタフになるようです。



「わかりました、あなたを鑑ます!」

 迷子の仔猫のようなウルウルした瞳をした目黒を、アタルは鑑定することに。目黒からの質問は3つ。1)どうして、俺はモテないのか? 2)俺が褒められるには、どうすればいい? 3)俺に何かいいところはある? 何だか中学生男子みたいな質問ですね。まぁ、それが目黒の精神年齢なのでしょう。

 アタルの鑑定結果は実にシンプルです。1)の答えは、女性を外見でしか判断していないから、モテないのだというものでした。人を外見でしか評価できない人は、逆にその人自身も薄っぺらい評価しかもらえません。

 次の2)の質問に答えるために、アタルは目黒の幼年期へと記憶の時流を遡っていきます。母親を亡くして間もない少年時代の目黒は、父親(中野剛)に背負われていました。このとき、なぜか少年時代の目黒にアタルは成り済まし、目黒の父親におんぶされています。笑う杉咲花は、まるで妖怪子泣きジジイのようでした。アタルのミステリアスさを演出しているのでしょうが、杉咲が“年齢不詳顔”なこともあって、かなりの不気味さでした。将来は『京都妖怪地図 嵯峨野に生きる900歳の新妻』のリメイク版に主演するといいかもしれません。

 肝心の2)の回答ですが、母親を亡くして不安だったのは幼い目黒よりも、父親でした。子どもに涙を見せるわけにいかないから、父親は顔が見えないように幼い目黒を背中に負っていたのだとアタルは説明します。要はいつまでも褒められて喜ぶ子どものままではダメだということです。精神的な自立が目黒には求められていたのです。現実の職場でも「私、褒められると伸びる子なんです」と口にする若手社員がいますが、いい加減に早く大人になりましょう。

 ズドーンと目一杯落ち込んでいる目黒に対し、アタルは3つめの答えを返します。目黒のよさは「中身が空っぽ」なことだとアタルは言います。これって、褒め言葉なのでしょうか? アタルいわく「中身が空っぽ=邪気がない」ということだそうです。苦労知らずのお坊ちゃんと周囲からバカにされ続けてきた目黒ですが、見方を変えればそんなイノセントさこそが目黒の最大の長所だったのです。

■筒井康隆のSF小説との類似性

 一方、コンペの場は大変なトラブルに見舞われていました。サプライズゲストとしてプレゼンの最後に登場するはずだった初代ミラクルレッドの八王子が「やっぱり、今さら人前に出るのはイヤ」と言い出したのでした。若い頃は子どもたちが憧れるヒーローを演じて大人気だった八王子ですが、今ではアルコール依存症のオッサンです。1975年に放映された『秘密戦隊ゴレンジャー』に始まるスーパー戦隊シリーズ、2000年スタートの『仮面ライダークウガ』を皮切りにした平成仮面ライダーを生み出し、スーパーヒーローのインフレ状態を招いたテレビ朝日の暗い闇を見てしまった瞬間です。品川役の志尊淳は『烈車戦隊トッキュウジャー』のトッキュウ1号を演じていましたが、勝ち組として残れてラッキーでした。八王子のゲロを浴びたくらい、ドンマイです。

 現場に駆け付けた目黒とアタルが何とかなだめることで、八王子はプレゼンの最後の最後にギリギリ登場することができ、かっこよくミラクルポーズを決めてみせました。コンペ会場は大盛り上がりです。残念ながらコンペは出来レースで、他社に勝ちを譲ってしまいます。みんなで繰り出した居酒屋は、残念会となってしまいましたが、目黒は大満足でした。「お前なんか仲間じゃない。俺たちなんて言うな」と邪険にしていた上野が「俺たちに乾杯だ!」と口にしたからです。目黒は自分もみんなの仲間になれたことを実感するのでした。めでたし、めでたし。

 特撮ヒーローに憧れて育ったオタク心をモチーフにうまくまとめた内容の第2話の視聴率は、10.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)。第1話の12.1%に続いて、遊川自身が引き続き演出した第2話も二ケタをキープしました。予定調和的なドラマ運びとはいえ、「あなたにも必ずいいところがある」と励まされたがっている視聴者はけっこういるようです。

 それにしても杉咲花が演じるアタルの眼力はすごい。サングラスを外しただけで、目の前にいる人の頭の中がするっと読めてしまい、本人が封印していた遠い過去まであっさり見抜いてしまいます。占いというよりは超能力ですね。筒井康隆の人気SF小説『家族八景』はテレパス少女・火田七瀬がお手伝い先の家庭で次々とトラブルに巻き込まれるお話でしたが、『ハケン占い師アタル』は七瀬が派遣社員になったようなコメディです。

 ブラックユーモア溢れる『家族八景』で人気を博した七瀬は、続編『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』で超人ゆえに思いがけない運命に遭遇します。アタルも実の母親らしき謎の女性(若村麻由美)との因縁がこれから明かされ、驚愕の展開が待っているのでしょうか。この予想がアタルかどうか、次週もチェックしたいと思います。
(文=長野辰次)