(前回までのレビューはこちらから)
人間は、「自覚的」か「無自覚」かで、タイプ分けすることができる。
「自分がかわいいと自覚している女性」と「自分がかわいいことを自覚していない女性」、「自分が幸せだと思っている人」と「自分が幸せだと気づいていない人」など、どの場合にも言えるのは、自覚している人より無自覚であるほうが、よりかわいかったり、本当の意味で幸せだったりするものだ。
なぜなら、「かわいい」とか「幸せ」を自覚している人は、それを維持するために大変な労力を要するから。それを失った時の恐怖心もあることだろう。「無自覚」の場合は、そのようなことは一切ないのだ。最強の人間は、「無自覚な人」ということができるだろう。
ドラマ『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)第4話。今回も、順子(深田恭子)の無自覚さが際立っていた。
やっとの思いで、順子に告白した従兄弟の雅志(永山絢斗)。しかし、順子はその気持ちに全く気づかず、あくまでも親戚や友人としての情愛としか受け取らなかった。
同じように、匡平(横浜流星)からの気持ちも、恋愛感情だとは気づいていない。順子は、東大受験に失敗して以来、自分に自信が持てず、今のモテ具合を全く自覚していないのだ。
もちろん、先にも書いたように、無自覚であればあるだけ、順子の魅力は増していく。雅志と匡平も、お互いの順子に対する気持ちに気づきながら、どんどんと彼女への思いは募っていくのだ。
この、無自覚な女性を演じるというのは、意外と難しい。なぜなら、下手な芝居をしてしまうと、「無自覚を演じている姿を演じている」というように受け取られてしまうから。いわゆる「ぶりっ子」に見えてしまうのだ。
しかし、深田恭子がその役に入ると、本当に無自覚であるようにしか見えない。役に入りきっていることもあるだろうが、深田自身が、どこか無邪気な雰囲気を持っており、見ているものにあざとさを感じさせない力を持ち合わせているからではないだろうか。
順子との微妙な関係を維持したまま、冬を越え、2018年春、匡平は無事高校3年生になった。勉強の方も、他の生徒たちに追いつき、1年後の東大受験に向け、順調に努力を続けるのだった。
そんな頃、順子は、山下(中村倫也)から、匡平が中学時代に母親を亡くしていることを聞かされる。同情した順子は、匡平に対して、母親のような気持ちを募らせるのだ。
複雑な思いを山下に相談する中で、順子は「幸せってなんなんだろう?」と口にする。それに答えて山下は言うのだ。
「幸せが何かなんて、幸せな時は考えない」
今回のストーリーでは、この「幸せ」という言葉が大きなキーワードになった。
迎えた5月のゴールデンウィーク、塾では、受験のための強化合宿が行われる。
行きのバスの中、クラスのエリートである、鷲津(内藤秀一郎)や長宗我部(市川理矩)たちが、クラスメイトの大塚さつき(神岡実希)に嘘の告白をして、盛り上がる。それを注意した美香(吉川愛)と匡平は、エリートグループと対立することになってしまう。
ここでまた新たな美少女の登場である。大塚役を演じた神岡実希は、2017年まで、アイドルグループ『ハコイリムスメ』のメンバーとして活動していた。
さて、順子に対する匡平の気持ちを知った順子の友人・美和(安達祐実)は、「18歳の誕生日までは、法律的にダメ」と伝える。
一方、雅志は順子を追いかけて、合宿所の近くにある会社の保養所に泊まりに来る。匡平は、雅志の元を訪ね、順子への思いを確認する。好きであることを告げた雅志に、匡平は言うのだ。
17歳はまだ子ども、そんな思いがあるのだろう。年が離れている自分への歯がゆさもあるのかもしれない。
合宿中、相変わらず匡平に嫌がらせを続ける鷲津たちは、「匡平がロッジでタバコを吸っていた」と証言する。真偽を確かめるためロッジに向かった順子は、そこで匡平と二人きりになる。
美和に言われたことを意識してか、匡平は「来年の2月3日、覚えておいて。18歳になるから」と告げる。
ロッジのシーンでは、燃え上がる暖炉の炎や、ヤカンから吹き上がる蒸気が、匡平のあふれるような気持ちを暗喩していた。なかなか意味深な演出である。
匡平に腰を抱かれて戸惑う順子が可愛らしい。
深田恭子の魅力の一つは、戸惑ったような瞳の演技だ。一歩間違えば、わざとらしくなってしまうようなクルクルとした目の動きを、自然にこなしてしまう。
そしてもう一つ、彼女の話し方にも、秘密があるような気がする。甘えるような、でもしっかりと気持ちを伝える口調と声。アリナミンAのCMで「だるおも~」とつぶやいただけで、そのセリフがしっかりと頭に残ってしまう。そんな声の魅力がある。
合宿中のキャンプファイヤーのシーン。燃え盛る焚き火越しに、匡平が順子を見つめる。そこに主題歌である、back numberの「HAPPY BIRTHDAY」が流れる。“HAPPY BIRTHDAY”=誕生日。次の誕生日、匡平は18歳になる。そこが物語の最大のヤマ場になるのではないかと期待される。
最後、インフルエンザで寝込んだ順子と匡平は、手をつないで眠っている。実はここで、ドラマの冒頭に出てきた、美和の店で働くホステス・もんちゃんの「男子高校生と手をつなぐだけで女性ホルモン出そう~」というセリフの伏線が回収されるのである。
ロッジのシーンでの小道具の使い方や、主題歌の効果的なストーリーとのリンクなど、じっくり見ていくと、気付かされることがたくさんある。それらの仕掛けが、自然に見るものに伝わってくるのが、このドラマの妙なのだ。
次回以降の展開だが、最後のシーンで、山下の手元には、妻からの離婚届が置かれていた。いよいよ、本格的に、順子への恋愛バトル参戦といったところだろうか。彼もまた、厭世観を漂わせながら、それほど不幸には見えない。
そうなのだ。このドラマに登場する人たちは、それぞれの事情を抱えつつも、決して不幸ではない。それは、みんながさまざまな形で「恋をしている」からかもしれない。恋愛が全てだと言うつもりはないが、幸せであるための特効薬であることは間違いないだろう。
(文=プレヤード)