誰もが抱える職場での悩みやトラブルを、占いパワーで解決してしまう杉咲花主演ドラマ『派遣占い師アタル』(テレビ朝日系)。当たり外れの激しいベテラン脚本家・遊川和彦のシナリオも、今のところは順調です。

同僚たちから鼻つまみ者となっていたオッサン社員が一刀両断された第4話を振り返ってみましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

 かつて天才占い少女として騒がれたアタル(杉咲花)ですが、現在は派遣社員として都内のイベント会社に通っています。今回、アタルが鑑定することになるのは、40代になるチームリーダーの上野(小澤征悦)です。10年前に伝説のイベントを成功させましたが、その後は部下を大声でドヤしつけるだけで、職場ではウザがられる存在となっています。妻とは5年前に離婚し、中学生になる娘(桜田ひより)からも相手にされなくなりました。イライラが募り、ますます声がデカくなる一方の上野です。

 いつものごとくお調子ものの代々木部長及川光博)が現われ、上野ご指名での案件が届いていることを告げます。10年前に上野が成功させた伝説のイベントのクライアント社の社員が起業したので、その初イベントを上野にお願いしたいという内容でした。これには上野、大張り切り。10年前のスタッフジャンパーを羽織り、イベントの記念品を机に飾り直し、伝説をもう一度再現しようと意気込みます。

 いつもは品川(志尊淳)が上野のアシスタントを務めていましたが、第3話で品川が上野をパワハラ告発したため、上野のアシスタントから外れています。やる気はあるものの仕事がまるでできない目黒(間宮祥太朗)と妊娠中の神田(志田未来)が上野の下で動きますが、思うようには仕事は進みません。
10年前に伝説のイベントを一緒にやった社外スタッフからは仕事を断られ、孤立感を深めていく上野です。そんな上野のことを不憫そうに見つめるアタルでした。

■自覚がないところがパワハラ野郎!

 徹夜で企画書を書き上げた上野ですが、クライアントからの返事に落ち込んでしまいます。上野を指名してきた社長から「10年前のイベントの焼き直しにしかすぎない」と酷評されてしまったのです。しかも自分に直接言わずに、大崎課長(板谷由夏)を通して知らされたことに、上野は大ショックを受けてしまいます。

 上野にとって唯一の自慢だった“伝説のイベント”を、そのイベントを一緒に成功させたクライアントから完全否定され、上野は自暴自棄に陥ります。親会社から出向してきた代々木部長に向かって「俺はあんたのことを上司として認めていない」と暴言を吐き、さらに目黒、神田、品川たちに「なんで、お前たちみたいな奴らと仕事しなくちゃいけないんだよ。俺はもっと優秀なスタッフと仕事がしてぇんだよ」と当たり散らします。会社員として言ってはいけないことを口にしてしまった上野でした。

 上野は自分が感じたことをそのまま言葉にしているだけで、悪意はありません。苦言を吐くことで、手社員たちが伸びてくれることを期待しています。自覚がないあたり、実に典型的なパワハラ野郎です。

上野のキャラクターがひどくリアルに感じられるのは、脚本家の遊川和彦自身の姿と重なるからではないでしょうか。2012年に放映されたNHK朝ドラ『純と愛』のヒロインを演じた夏菜に対して、脚本だけでなく演出面にも口を出した遊川のダメ出しが繰り返されたそうです。愛の鞭のつもりだったダメ出しですが、夏菜は精神崩壊寸前となり、トイレに閉じこもったと言われています。上野=遊川和彦のパワハラ気質は、はたして治すことができるのでしょうか?

 行きつけの居酒屋で上野が悪酔いをしていると、神田、目黒、品川が現われます。会社から姿を消した上野のことが心配になったのです。アタルに鑑定してもらうことを勧める3人でしたが、上野は「助けてくれって言葉が俺はいちばん嫌いだ」と断ります。このとき、いつもは口数の少ない品川が「後悔してもいいのかよ、ジジイッ!」と一喝するのでした。アタルに占ってもらってから、品川たちは目には見えない形で少しずつ変わり始めていたのです。

■オッサンが失ったのは才能ではなかった……

 毎晩のように自分で掘った穴に生き埋めになる悪夢にうなされていた上野は、結局はアタルに鑑(み)てもらいます。上野からの質問は以下の3つです。

1) 俺のなくした携帯電話はどこにある?
2) なんで俺は周りの奴らに嫌われているの?
3) 俺はまた伝説のイベントをやることができる?

 今回のアタルの鑑定結果も冴えていました。1)の答えは、希望と携帯電話はすぐなくすけど、よく探せば近くにあるとのこと。

携帯電話をすぐなくす人は、一緒に希望も見つけたいものですね。

2)の答えは「他人を叱るには、資格がいる」でした。上野にはその資格がないというわけです。他人に説教をしている暇があれば、自分磨きに時間を費やせとアタルは説きます。ごもっともな回答に、思わずうなずく上野でした。

3)の答えを導くために、アタルは例によって上野の記憶の水脈を遡上します。子どもの頃の上野は親戚が集まる場で手品を披露し、みんなを喜ばせるのが楽しかったことを思い出します。ですが、次第にみんなを喜ばせるよりも、自分がすごいと言われることに快感を感じるようになってしまったのです。アタルは言い放ちます。「伝説のイベントをDVDで見たけど、伝説と呼ぶほどのもんじゃねぇよ。でも、あんたはいい顔してた。みんなを喜ばせたいという情熱とやる気が溢れていた。
失ったのは才能じゃなくて、あのときの気持ちだよ」と。

 アタルの鑑定によって、上野はすっかり心を入れ替えます。メールの返信をしなくなった娘からも「いつかパパの職場を見学に行っていい?」とうれしいメールが届きます。上野だけでなく、職場のみんなも大喜びです。この日をきっかけに、上野は伝説のイベントのスタッフジャンパーと記念品を処分するのでした。

■後半戦にゲスト出演してほしいアノ人

 杉咲花がまるで『ドラえもん』のように職場の問題をいっきに解決してしまうお決まりの定番ストーリーだった第4話。いじめっ子のジャイアンがすっかり改心して、のび太と仲良くなったようなエピソードでした。そんな第4話の視聴率は10.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)。これで初回から4週連続で二ケタキープ、しかも第3話の10.0%から0.3ポイントのアップです。

 今回、上司が部下から評価される「360度フィードバック」が話題として取り上げられましたが、上司への厳しい意見はなかなか下の立場の人間は言えないもの。上野のパワハラ上司ぶりを、アタルが巧みに更生させた第4話にスッキリ感を覚えた視聴者は多かったようです。DVD化されたら、中間管理職の研修ビデオに使われそうなエピソードでした。



 過去の成功体験にすがることをやめた上野の姿は、脚本家の遊川和彦が自分自身の戒めとして描いているように思えた第4話でした。現在は相席スタート山﨑ケイのエッセイを原作にした深夜ドラマ『人生が楽しくなる幸せの法則』(日本テレビ系)に主演している夏菜ですが、遊川作品に再び出演する日は訪れるのでしょうか。占いを信じてボロボロになった元信者役を演じれば、ぴったりハマリそうですけど。
(文=長野辰次) 

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