3月2日深夜放送『ゴッドタンゴッドタン』(テレビ東京系)が「引退記念 谷桃子メモリアル」と銘打って、昨年末をもって芸能界を引退した谷桃子の名場面を振り返った。
今回紹介された名場面、メチャクチャの極みだった。
「ウエディングと掛けまして、小さな子猫と解きます。そのこころは、『入れ歯が外れちゃった』」
ウエディングも子猫も入れ歯も、ひとつも掛かってない。何がどうなってるのか、不安になってしまう。また、結婚後に同番組へ出演した谷は、夫の職業を聞かれ「旦那さんは生姜磨いてまーす!」と、ものすごい顔つきでアンサーする始末だ。このとき、彼女は新婚なのに……。
バラエティに進出するグラビアアイドルは珍しくないが、こんなグラドルは見たことがなかった。芸人とのキャッチボールに順応し、番組の戦力になろうと“必死さ”を売りにする人材は数多い。しかし、谷は「本当にこんな子なんじゃないか?」と思わせる狂気がにじみ出ていた。アクが強すぎるゆえ、『ゴッドタン』でしか、この流儀にニーズはなかったが……。■最後まで隙を見せなかった谷と飯塚
話は変わって、2月21日に新日本プロレス所属のプロレスラー・飯塚高史が32年の現役生活に幕を閉じた。
マスクが良く、サンボ仕込みのグラウンドテクニックに定評があり、現場監督時代の長州力のお気に入りだった飯塚。期待された時期もあったが、押しの弱い性格ゆえ、なかなかブレークの時は訪れなかった。そして、2008年。名脇役のポジションを見つけていた飯塚が、突如としてヒールターンを果たした。整った容姿の彼が髪を剃り上げ、ヒゲを伸ばし、言葉をしゃべらず奇声を上げる狂乱キャラへと変身したのだ。
飯塚がキャラ変したのは、“友情タッグ”を組んでいたパートナー・天山広吉への裏切りが契機だった。当時、エンタメへの造詣では新日の数歩先を行っていたプロレス団体DDTのバックステージは「新日本がついに振り切った」と、この話題で持ち切りになったという。
後楽園ホールで行われた飯塚の引退興行が、『ワールドプロレスリング』(テレビ朝日系)の3月2日深夜分で放送されている。引退試合のカードは、飯塚高史&鈴木みのる&タイチ組 VS オカダ・カズチカ&天山広吉&矢野通組。狂乱ファイトを貫きつつ、オカダのフィニッシュホールド「レインメーカー」を膝十字固めで切り返すなど、飯塚はレスラーとして最後までキレキレだった。
試合は、飯塚が天山のムーンサルトプレスにピンフォールを奪われた。直後、飯塚は天山から和解を申し出されるも、観客の期待に反して拒否! そして、かつての相棒に得意のアイアンフィンガーフロムヘルをお見舞いした。
そのまま、場内を怪しげに徘徊する飯塚。ファンに引退の挨拶を一言も発さず、狂ったまま会場を後にするラストデイ。そんな彼のバックに響き渡るは、鈴木みのるが叩く10カウントゴング。最後まで全うしたこの日の主役。こんな引退試合は、今までに見たことがない。
話を『ゴッドタン』に戻そう。現在、夫を支えるため福岡に住まいを移した谷から、レギュラー陣に最後のメッセージが送られてきた。その内容は以下だ。
「遅くなりすみません!! だっだーん! ボヨヨンボヨヨン! あっああ~~~!!! アイルビーバック!! ~to be continued~」
谷も最後までキレキレである。そして、やはり最後まで隙を見せていない。
おぎやはぎの矢作兼が、真顔で谷について語った。
「谷桃子のことを見習っていかなきゃいけないと思ったことが本当にある。
谷のやり切る姿に感銘を受けたと告白したのだ。
プロレスもバラエティも、今のファンは成熟している。谷も飯塚も素性は愚直ということは、恐らくみんなにバレバレだろう。最後に素の姿を見せ、ネタバレしてオチを付ける必要はない。
テレ朝とテレ東の同日同時間帯で、両者の去りゆく姿は放送された。ただの偶然でしかないのに、だからこそこじつけたくなってしまう。やり切った2人の有終の美は、今のエンタテインメントの指針になり得る。「こんなときに谷ならどうする?」「こんなときに飯塚ならどうする?」と、リトマス紙代わりになると思う。湿っぽさを狙うのではなく、感動を拒絶する姿勢だからこそ、余計に感動した。
(文=寺西ジャジューカ)