3月18日と25日の2週にわたって放送の、ドラマ『~元気の出るごはん~タチ喰い!』(テレビ東京系)。素人童貞のプログラマー・ハジメが、手料理を作ってくれる相手と知り合えるマッチングアプリ「コレゴハ」を使い、美女たちと出会うという、夢のようなストーリーである。



 番組ホームページには、こう書いてある。

「監督自らカメラを回し、主人公の主観映像で物語を展開する『一人称妄想ドラマ』という全く新しいジャンルを確立!」

 監督を務めるのは、『劇場版テレクラキャノンボール2013』をはじめ、数々の名作AVを手掛けてきたカリスマ・カンパニー松尾以下、カン松)だ。

 このドラマ、なんだかおかしいのだ。主観映像でハジメの“心の声”を務めるのはYouTuberのジョーブログ・ジョーだが、美女と出会い、会話するハジメの声は明らかにカン松自身である。聴覚にはカン松の声が届くし、眼前には美女をなまめかしく捉えた主観映像が広がる。結果、多くの男性が既視感を覚えるであろう内容になっている。


 例えば、18日放送の第1話に、こんなくだりがあった。グラビアアイドル森咲智美演じる人妻「智美さん」がハンバーグをコネ、へこませた中央部にアボカドを入れようとする場面だ。

智美「じゃあ、アボカド入れちゃうね?」

ハジメ「ええ!? ここにぃ? すごぉい……。智美さんのぉ?」

智美「うん、ここ入れていい?」

ハジメ「この中に? 包み込んじゃうんですね」

智美「包み込んじゃうよ? こうやって」

ハジメ「あっ、すごぉい! 熱ぅい!」

 ハンバーグにアボカドを入れようとするだけで悶えてしまうハジメ。ソースをかけようとしたときなんて、もう大変。

ハジメ「それをまた、かけちゃうんですか……?」

智美「そうだよ。
かけちゃうよ」

ハジメ「上から? あらぁ~。あっ、すごい。熱い……」

 つまり、地上波で合法的にカン松のAV(ハメ撮り)を見ている感覚を味わえるドラマだった。監督自らカメラを回す理由は、推して知るべしか。「わあ、すごぉい」とか、ただのカン松だ。



 キャリア30年を超えるAV監督のカン松が素人童貞を演じることに、違和感を覚える人はいるのだろうか? いないと思う。
彼が撮るAVには、一貫してピュアな空気感が漂っているからである。

 カン松がAV業界に入ったのは1987年、彼が22歳のときだ。その頃、彼は童貞だった。業界では特殊すぎるであろうバイオグラフィは、のちの作風に影響している。

「KAMINOGE vol.31」(東邦出版)でカン松と対談した格闘家・前田日明は、彼が童貞のままAV業界入りした事実を知り、以下のような言葉を掛けている。

前田「そうか、だから松尾さんの作品はスレてないんですね」

カン松「アハハハハ! 俺、スレてないですか(笑)?」

前田「いや、ホントに。
作品に純粋さがありますよ」

 加えて、カン松の作品には物語がある。AVなのに、作家性がこぼれ落ちてしまうのだ。本人も、その評価は否定しない。

「確かにそうですね。本来AVっていうのはキレイなお姉さんが出てきて、『こんにちは。◯◯です』っていうところから始まる。
で、男さんが入ってきてセックスする。(中略)自分でハメ撮りするようになって自由になったんで、自分の気持ちとかみたいなものを作品に入れるようにしたんです。自分が苦しいときは苦しいって話をするし、嬉しいときは嬉しいって話をする」(カン松)

 このスピリッツは、ドラマでも一貫している。智美さんと出会ったときは興奮しきりだったのに、AV女優・桐谷まつり演じる「マツリちゃん」と出会った際のハジメは独特のキャラに面食らい、あからさまにガッカリするのだ。うれしさも悲しさもパッケージするのが、カン松の作家性である。

 ちなみに、彼がハメ撮りに傾倒したきっかけには、AV女優・林由美香(故人)との出会いがある。
カン松のAV道30周年を記念した特集企画が「週刊プレイボーイ」(2017年6月5日号/集英社)で組まれており、そのときに彼は経緯を告白した。

「俺はすぐに恋に落ちた。プライベートでもセックスした。でも彼女に俺の思いは届かない。(中略)特に自分のAVで彼女が男優とヤッているのがイヤで俺はハメ撮りに傾倒していくことになるんだ。ハメ撮りなら俺がセックスできるから(笑)」

 初めから私情ありきだったのだ。カン松の映像作品が私小説風になるのは必然である。



 筆者は、食欲と性欲は水と油だと認識している。セックスを見ながら食欲は湧かないし、別の場所にあるスイッチという感覚。だが、カン松の域までいくと、そうとは限らないらしい。

「ハメ撮りなら、俺が監督兼男優なので制作費が抑えられるし、余った予算でさまざまなチャレンジもできる。(中略)自分が好きなセックス、音楽、カレー、バイクなどをすべてAVで表現できるようになったのは自信につながった」(週プレ)

 AVにカレー要素を注入するのは、カン松にとってお手の物なのだ。何しろ、制作会社「V&Rプランニング」を辞めるとき、彼は退社理由として「カレー店でもやります」と答えている。それほど、彼のカレー好きは筋金入り。そういえば、今回のドラマでマツリちゃんが作ってくれたのは「牡蠣カレー」だった。

マツリ「牡蠣ってね、男の人が食べるとすごいムラムラするんですって」

ハジメ「ええ~!?」

マツリ「新鮮そうな牡蠣だから、いただいちゃおうかな(笑)」

ハジメ「えっ、そのままぁ? 生で? 生で?」

マツリ「生で食べちゃうよ」

ハジメ「あらぁ~……食べちゃったぁ!」

マツリ「おいしい」

ハジメ「おわぁ、すごぉい!」

 見事に食とエロがリンクしていた。さすが、カレー好きなだけのことはある。

東京オリンピックを見据えたカン松が撮るドラマ

『劇場版テレクラキャノンボール2013』を機に、ジャンルを超えた名声を獲得したカン松。アイドルユニット・BiSの解散ドキュメントを撮影したり、映画『モッシュピット』のプロデュースを手掛けたり、彼の仕事ぶりはAVの範疇に収まらない。今回のこのドラマもしかりだ。しかし、その方向性を本人は否定する。

「『松尾は一般ドキュメント作の方向に進むのでは?』と思われがちなんだけど、それは違う。俺のライフワークは、おねえちゃんとハメて、旅をして、映像を残すことだと思う。一般作の世界では、ハメ撮りさせてもらえないでしょ(笑)?」(週プレ)

 カン松は、将来の展望についても語っている。

「2020年に『テレクラキャノンボール』をやりたい。東京オリンピックの東京をAV目線で撮れたら最高じゃん?」(週プレ)

 もう、目前に迫っているではないか。来年の話だ。彼の目標へつながる重要なポイントとしてこのドラマを捉えたら、余計ムラムラしてくるはずだ。

 ちなみに、25日放送の第2話には、グラビアアイドルの橋本梨菜とAV女優の三上悠亜が登場するとのこと。どちらも、今が旬と言っていい。人選についても申し分なし! 食とエロ、いろいろな意味で、おなかいっぱいになるドラマである。

(文=寺西ジャジューカ)

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