テレビ朝日『べしゃり暮らし』

 9月7日に放送された『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)の第7話。前回(6話)のレビューにて「7話に嫌な予感がする」と書いたが、その予感はことごとく当たってしまった。

第7話あらすじ 「僕は2人のために面白い番組を企画する」

 高校を卒業した上妻圭右(間宮祥太朗)は、YCA(ヨシムラコミックアカデミー)への進学を機に一人暮らしを始める。引っ越し当日、父・潔(寺島進)は古い炊飯器を姉・しのぶ(徳永えり)に託すだけで顔も見せない。その炊飯器を開けると、中には潔からの餞別が入っていた。

 圭右は、ハガキ職人として実績のある子安蒼太(矢本悠馬)にネタ作りを依頼し、辻本潤(渡辺大知)とトリオで若手芸人の登竜門『漫才新人グランプリ』に出場することを決意。子安は、3人のグループ名を「べしゃり暮らし」と名付けた。

 YCAでのネタ見せ授業で、圭右は「げんこつロデオ」の岩隈将大(岡本智礼)とケンカ騒ぎのトラブルを起こす。一方、子安は、引っ込み思案な性格ゆえグループ内で浮いている「見切り発車」の北川千尋(Daichi)を気にかけた。

自分の立ち位置と北川を重ね合わせたのだ。北川は自分を励ましてくれた子安に握手を求め、子安がそれに応えた瞬間、ロボットの効果音を口で再現。子安は「それをネタにしたほうがいい!」と北川にアドバイスし、次のネタ見せで見切り発車はロボットのコントを披露する。ネタ中に北川はロボット音を再現し、大活躍した。

 一方、べしゃり暮らしはセリフ覚えの悪い圭右がアドリブを多用、それに子安が付いていけないという悪循環に陥っていた。結果、べしゃり暮らしはYCAが開催するライブのメンバーから外されてしまう。

責任を感じる子安。彼は上妻と辻本の魅力がアドリブにあると気付いていた。でも、自分はアドリブに対応できない。子安は辻本に、YCAの芸人コースから作家コースに変わるつもりだと打ち明けた。しかし、圭右は納得がいかず、子安の意思を尊重する辻本と衝突する。

 そして、ライブ当日。

急遽、出演予定だったグループが出演を辞退し、べしゃり暮らしが代役に選ばれることに。3人はトリオとして最後の舞台に立ち、圭右と辻本のアドリブの応酬を間近で見た子安は「将来、2人はお笑い界を背負って立つ」と確信。「僕は2人のために面白い番組を企画する」と宣言した。

 このドラマは、今夜放送の8話が最終回だ。もう、名作マンガ『べしゃり暮らし』の実写化について総括してしまってもいいと思う。

 前回のレビューでも書いたが、金本浩史(駿河太郎)が主人公のドラマだったような印象を受けている。

間宮&渡辺を中心に据えたエピソードがあまりにも少なすぎたのだ。今回の7話も、主に描かれたのは矢本の内に起こる葛藤だった。

 原作で描かれていたはずの間宮の才能、天才性がドラマでまったく触れられていないのも良くない。これこそ、『べしゃり暮らし』という物語が大前提にするべき要素のはず。でも、いつまでたっても間宮がただのお調子者にしか見えないのだ。

 間宮の才はアドリブにある。

それに付いていけるのは渡辺だけ。この前提があるからこそ、芸人を諦める子安の悲しみと、新たな道に一歩踏み出すポジティブさが生きてくるはずなのだが。

ビートたけし-ラッシャー板前の“いい話”をそのままトレース

 これも前回のレビューに書いたが、あまりにも展開が駆け足すぎた。原作にある感動エピ全てに手を出そうとし、結果、原作のダイジェスト版のような出来栄えになっている。マンガが下敷きのドラマだからこそ、ドラマならではの魅力を作り出すべきである。

『べしゃり暮らし』は人間ドラマだ。

各キャラの心中に起こる葛藤こそが見どころ。その心理描写を映像で再現するには“心の声”(モノローグ)を多用する必要がある。でも、そうなると映像としてうるさい。こんなことを言うと元も子もないが、そもそもドラマ化に向かない作品だったのかもしれない。

 1つ印象に残ったのは、一人暮らしする間宮に寺島が炊飯器を渡したくだり。「今まで散々手伝ってこれだけ?」と呆れる間宮だったが、蓋を開けると「退職金」と書かれた封筒があり、その中には餞別の札束が入っていた。

 これ、そのままのエピソードを聞いたことがある。ラッシャー板前が引っ越しをした際の話だ。師匠のビートたけしから「引越し祝いは何がいい?」と聞かれたラッシャーは「洗濯機が欲しい」と回答。後日、ラッシャーの新居にたけしから洗濯板が届けられる。「なんだよ」とラッシャーが洗濯板を裏返すと、その裏には大金の入った封筒が貼り付けてあったという逸話だ。

 今作の演出を担当したのは、劇団ひとり。彼はビートたけし、そして芸人のいい話が大好きだ。ひとりとしても外せないくだりだったのだろう。このくらいの遊びと余白が、今回の実写化にはもっと欲しかった。

(文=寺西ジャジューカ)