――欧州や南米から有名選手を、あり得ない金額で“爆買い”することで有名となった中国サッカー・スーパーリーグ。今や、資金力や観客数ではJリーグを凌駕するほどになっている。

ただし、あまりの状態に中国政府もやんわり規制に入っている状態のようだ。このまま、中国サッカーバブルは終焉してしまうのか?

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「中国の人々にとって、金額は問題ではない」

 中国・スーパーリーグの取材を始めた際、広州恒大淘宝足球倶楽部(以下、広州恒大)のイ・ジャンス元監督(元韓国人選手)が語った言葉だ。当初、イ元監督の言葉にはピンとこなかったが、取材を続けるほど、その意味するところが身に染みてきた。

 近年、広州恒大はアジアサッカー連盟・チャンピオンズリーグ(AFC)で2度優勝している。そのため、中国スーパーリーグのレベルの高まりを疑う人は徐々に減ってきている。そんな実力もさることながら、驚くべきは中国スーパーリーグの市場規模だ。

すでにアジアの域を脱し、英プレミアリーグ、スペインリーグ、独ブンデスリーガ、伊セリエA、仏リーグアンなどといった、世界トップリーグのそれを脅かそうとしている。単純に中継権の規模だけをみても全世界で6位。前述した欧州のリーグを除けば、中国スーパーリーグより中継権が高いリーグは世界にない。

 中国のスポーツメディア『體奧動力』は2015年9月、中国スーパーリーグと5年間の中継権契約を結んだ。合計金額は80億元(約1252億7722万円)である。體奧動力が1年間で支給する中継権料(約250億円)は、DAZNがJリーグに支給する中継権料(約210億円)よりも多い。

一方、韓国Kリーグの中継料は1年間で60億ウォン(約5億5910万円)ほどだ。仮に21年から中国スーパーリーグの中継権を得たい企業は、さらに高い金額を支払うことになろう。なお中国の中継料は、各球団の投資が増加すると共に一気に上昇した。2013シーズンにはわずか1000万元(約1億6000万円)に過ぎなかった。

 中国最大の生命保険会社であり金融機関でもある平安グループは、中国スーパーリーグのネーミングスポンサーを担い続けている。17年に再延長契約を結んだ際には、5年間で総額1億4500万ドル(約15億6128万円)を支払うとした。

世界的なスポーツ用品メーカーであるナイキは、19年6月から29年までの10年間、用品スポンサー契約を結び、現金のみで毎年約18億円を支給することにしている。実際に、支給される製品や現物を金額換算して合わせると、その約3倍となる見通しだ。スポンサーは、平安グループやナイキだけではない。DHL、Shell、TAG Heuer、青島ビールなど、世界的な企業が中国スーパーリーグのスポンサーに名乗りをあげている。
 スポンサーシップの規模が膨らむ中、中国サッカー協会と中国スーパーリーグが掲げた優勝賞金も破格となっている。19シーズンの優勝チームには、4億5000万元(約70億4684万円)が支給される。
なお、Jリーグで優勝すると優勝賞金と分配金を合わせ約21億5000万円が支給される。韓国・Kリーグ優勝賞金は日本円にすると約5000万円である。欧州サッカー連盟(UEFA)チャンピオンズリーグ優勝賞金が25億円程度であることを考えると、中国スーパーリーグの優勝賞金がどれだけ大きいか伺い知れよう。なお欧州サッカー連盟(UEFA)チャンピオンズリーグは、ラウンドを通過するたびに賞金を受け取るため、優勝すれば合計100億円程度をもらうことになるのだが。いずれにせよ、中国大陸を制覇した恩恵がとびきり大きいという事実は揺るがない。

 このように企業が中国スーパーリーグを後援する理由は何か。

それは単に中国の経済規模が大きいからというだけではない。サッカー人気そのものにも着目しているのだ。中国スーパーリーグの平均観衆数は24107人(18シーズン)だ。これは、独ブンデスリーガ(44421人)、英国プレミアリーグ(37906人)、メキシコ・リーガMX(27832人)、スペインリーグ・プリメーラディビジョン(27143人)、伊セリエA(24784人)に次いで6位。すでに米メジャーリーグサッカー、仏リーグアンを上回っている。Jリーグは18883人(1部)であり、Kリーグは6505人に過ぎない。
中国スーパーリーグの人気は今この瞬間にも高まっている。企業はそのような成長するリーグそのものに投資したいと思っている訳だ。

 中国スーパーリーグを見ているとたびたび驚く。世界的な選手や監督があまりにも多く活躍しているからだ(下段コラム参照)。16年に、長春亜泰と山東魯能の試合を取材した際には、世界的な選手や監督に直接遭遇したこともある。韓国人であるイ・ジャンス監督を取材するためロッカールーム前で待機していると、欧州のおじさんにすれ違いざまに目であいさつされた。よく見ると、ドイツの有名選手・指導者のフェリックス・マガト(当時、山東魯能の監督)ではないか! 続いて身体が大きな選手がひとりロッカールームに入っていった。元イタリア代表のグラツィアーノ・ペッレである。韓国人のチェ・ヨンス氏が江蘇蘇寧で監督を務めていた頃には、ラミレス・サントス・ド・ナシメント(英プレミア・チェルシー出身)に直接インタビューすることもできた。

 選手を引き抜くため、各チームは多額の契約金をばらまいている。有名選手の“爆買い”だ。中でも最も大きな話題となったのは、16年12月、上海上港がチェルシーでプレーしていたブラジル代表出身のMF・オスカル・ドス・サントス・エンボアバ・ジュニオールを、6000万ポンド(約88億円)で引き抜いた事例だろう。チェルシーにとっても、過去最高の移籍金収入だった。ちなみに、Kリーグの最高移籍金記録もすべて中国スーパーリーグの球団が作った。全北現代でプレイしていたキム・ギフィが上海申花に行く際には約7億円が支払われている。2019シーズンも同じような金額で選手が移籍しており、これらは欧州の球団が支払う移籍金よりもはるかに高い水準だ。

 中国で活躍する世界レベルの選手たちの年俸の総額は、実際のところベールに包まれている。誰も彼らがもらっている正確な金額を知らない。欧州でプレイするトップクラスの選手たちの週給は5000万円程度となるが、それと似たようなレベル、もしくは高い金額をもらっているとの予測があるだけだ。というのも、欧州よりも少ない年俸で知名度や格が低いとされる中国でプレイする理由がないからだ。なお中国リーグは年俸だけでなく、“手当”も破格だ。同国で活躍した韓国人選手のひとりは、「手当のことは親友にも明かしたことがない」と話す。これは勝利給のようなもので、重要な試合で勝利すると、手当が詰め込まれたキャリーバッグを引いて家に行くという話も事実に近いという。筆者が確認した最大の手当額は、一試合900万円だった。

 冒頭に書いた「中国の人々にとって、金額は問題ではない」という命題は現在、世界中のサッカー関係者だけでなくファンまで感じ取っている。欧州や日本、韓国のサッカー界は「中国スーパーリーグは最も非効率的なリーグ」と非難するが、中国側はその非効率をあまり気にしていない。金額は問題ではないからだ。

 ただし、中国内では多額の金額を支払って選手を獲得しようという動きが制限されつつもある。中国サッカー協会は、オスカルの移籍騒動をきっかけに、移籍収支(=移籍金収入-移籍金支出)が赤字となる球団が一定水準以上の移籍金を使った際、“その100%を「サッカー発展基金」として支払うべし”という規定を設けた。また、最高移籍金や最高年俸などを制限する制度も協議されている。

 中国サッカー協会が移籍金と年俸を制限しようとしている理由は、「金満体質的な獲得競争が激化するから」ではない。それは、球団とスポンサーが巨額の金額を取り交わす際に、そのお金を横領する可能性を当局側が疑っているからだ。中国の関係者は、「欧州のマスコミに出てくる選手の年俸をそのまま信じてはならない。選手が高い年俸をもらっているのは事実だが、実際はそれほど大きな金額ではない」と証言する。習近平主席の就任後、中国は以前とは異なり、規制が非常に厳しくなっている。いくら大企業の会長といえども、会社の資金を勝手に使うことができない。そんな中、中国の複数の関係者は、巨額の移籍金や年俸を支給するようにみせかけて、その一部を横領している可能性があると指摘している。

 ただ、中国スーパーリーグの“非効率的なお金の宴”は、今後少なくとも5年は続く可能性が大きい。すでに、中国国内選手たちの年俸や移籍金も高騰しおり、すぐに「正常」に戻すには時間がかかる。中国は1年のうちに自国選手であってもチームに5人しか連れて来ることができないルールがあるため、中国人選手の移籍金も非常に高くならざるを得ないという背景がある。同国のサッカーカルチャーや業界は非常に活性化しているが、選手を育てる速度がそれに対応できていないのが現状だ。結果的に、良い選手、中でも若い選手たちの“身代”はとても高価になるしかない。そのような需要と供給の不均衡が解決しない限り、「異常」は解決されないはずだ。

 さらに中国は、サッカー協会という枠組みを超え、政府レベルでスポーツ産業を振興しようという計画を持ち合わせている。中国の産業振興は、日本や韓国など資本主義国家とは異なり国のテコ入れがすさまじい。中国政府は2050年までにスポーツ産業の規模を大幅にはぐくむよう公式な計画を発表しているが、その中でサッカーが占める産業規模の割合は実に60%を超える。人知れず“それなりの計画”を“それなりの方法”で推し進めているのだ。

 そのような文脈では、中国スーパーリーグはお金の力で引き続き発展する可能性がある。リーグの発展は、サッカーのレベルと大きく関連しない。タイ、インドネシア、ベトナムのようにサッカーのレベルが比較的低い国でもプロリーグの人気は高い。そして今、中国市場は全世界の資本が集まる場所となった。しかも、中国市場は非常に成功しにくいところでもある。中国人が好きなサッカーを通じて、自社のイメージを変えようとする試みは一朝一夕では叶わない。企業は多額の金額を市場に投じるしかないのだ。

 そういう意味で、ナイキ、DHL、TAG Heuerのような多国籍企業も手をこまねいているわけではない。彼らは中国スーパーリーグと引き続き縁を保ち続けている。中国スーパーリーグはそれ自体、活用度が非常に高く、現在では、欧州でも中国スーパーリーグの中継を難なく見ることができる。また、全世界で中国人脈、また中国社会との関係を維持している“華僑”へのアプローチ手段にもなる。彼らは中国に関連したコンテンツを熱狂的に消費している。サッカーもそんな主要なコンテンツのひとつとなった。

 中国スーパーリーグという存在はとても不可思議だ。外部から見ると“異常”な部分が多い。取材をしてみても、理解できないことが多いのだ。それでも、我々が想像もできない方法で成長を遂げてきたのも事実である。今では、中国政府も注目するビッグコンテンツ。中国スーパーリーグがどんな道を歩んでいくか予想することは難しいが、ひとつだけ明らかなのは、どんな形であれ、今後も成長を続けていく、ということだ。


タグホイヤーから青島ビールまで…リーグ優勝賞金は驚愕の70億円! Jリーグも完敗の中国サッカー
リュ・チョン(Chung Ryu)

サッカー専門誌「スポータルコリア」、英国雑誌「フォーフォーツー」のエディターを経て、2013年よりサッカー専門メディア「フットボリスタ」の取材チーム長として活躍。2017年からは中国および中国サッカーに関する記事を韓国最大ニュースポータル「NAVER」に寄稿。サッカー・旅行に関する書籍を多数執筆。

世界のタレントが中国に!

 中国スーパーリーグでは、数多くの世界的プレイヤーが活躍している。例えば、ブラジルの有名選手であるフッキことジヴァニウド・ヴィエイラ・ジ・ソウザや、オスカル・ドス・サントス・エンボアバ・ジュニオールが所属するのは上海上港だ。

 パウリーニョことジョゼ・パウロ・ベセーラ・マシエル・ジュニオール、タリスカことアンデルソン・ソウザ・コンセイソンは広州恒大に所属。広州は香港の北西部に位置する中国第三の都市である。テクノロジー都市・深センや観光地・マカオにも近く、広東料理が味わえる地域だ。サッカー観戦だけでなく、現代中国の動向や文化を知る上では欠かせない土地である。

 同じくブラジル代表のレナト・アウグストは、北京国安に所属している。一方、アレックス・テイシェイラ、本文に登場するラミレス、エデル・チタディン・マルティンス、元伊代表のガブリエル・パレッタは江蘇蘇寧に所属。現地に行けばそのプレイを直接拝むことができるかもしれない。江蘇省には東洋のベニスと冠される「山塘街」もある。中国にサッカーを見にいくならオススメの地域のひとつだ。

 また伊代表のグラツィアーノ・ペッレ、ベルギー現役代表のマルアン・フェライニは山東魯能に所属している。山東省はビールで有名な青島が人気の観光スポットとなっている。それ以外にも中国スーパーリーグでは、独代表だったザンドロ・ヴァーグナー(天津泰達)、ムサ・デンベレ(広州富力)、ヤニック・フェレイラ・カラスコ(大連一方)も中国大陸を闊歩している。アルゼンチン代表のエセキエル・ラベッシとハビエル・マスチェラーノは河北華夏幸福で大活躍だ。天津、河北、大連は、ともに北京から近い。少し長めの休暇を取れるのであれば、各選手を観戦しながら周遊することもできるかもしれない。

 なお、フッキ(2016年)やオスカル(2017年)が中国リーグに移籍した際、メディアからは「金を稼いですぐに去るだろう」という予測がすう勢だった。しかし、彼らは3年以上も上海上港に在籍している。パウリーニョは広州恒大でプレイした後、FCバルセロナに移籍。再び広州に戻ってきている。

 監督の面々も豪華だ。バロンドールを受賞したファビオ・カンナヴァーロ監督は広州恒大を率いており、独出身の戦術家ロジャー・シュミットは、北京国安を指揮している。韓国代表が望んでいたスペインの名匠キケ・サンチェス・フローレスは、上海申花の監督を務めているし、故ヨハン・クライフの息子であるジョルディ・クライフは重慶当代力帆の指揮を任されている。韓国代表監督だったウリ・シュティーリケは、今や天津泰達の監督だ。中国旅行を楽しみながら世界レベルのサッカーを楽しめる。サッカーファンにとって、そんなぜいたくな時代が訪れている。(サイゾー8月号『中韓(禁)エンタメ大全』より)