今クールの連続ドラマが次々と最終回を迎えているが、個人的に最も楽しく観ていたのが『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)だ。
本作は1話完結のミステリードラマで、物語は総武署時効管理課の捜査資料管理を担当する警察官・霧山修一朗(オダギリジョー)と交通課課長補佐の三日月しずか(麻生久美子)が、時効が成立した事件を趣味で捜査するというもの。
2006年に第1作が、07年に続編となる『帰ってきた時効警察』が放送され、今回の『時効警察はじめました』は12年ぶりの続編となる。
本作がミステリードラマとして異色なのは、謎を解いても犯人を逮捕しないことだ。霧山は趣味で事件を捜査しており、毎回、犯人に「誰にも言いませんよカード」を渡すのだが、基本的に最初に起きた(すでに時効を迎えている)事件以外では殺人が起こらない。
だから、ミステリードラマには付き物のはずの、血なまぐさい愛憎劇がごっそり削られている。その結果、物語はふわふわとしたつかみどころのないものとなっており、その隙間を埋めるように俳優や演出家の悪ノリと、淡々とした空気が漂っている。
その意味でコントバラエティに近く、クスクスと笑ってしまうくすぐりが延々と続く不思議な作品だが、深夜にダラダラと観るには実にちょうどいい作品だった。
そして、もうひとつ、このドラマを楽しみにしていた理由がある。それは、新たにレギュラーに加わった吉岡里帆の存在だ。
吉岡が演じるのは刑事課の新人刑事・彩雲真空(あやくも まそら)。熱血刑事で、霧山が趣味で捜査する時効事件に興味を持って一緒に捜査するのだが、霧山が犯人に真相を問い詰める瞬間になると、上司の十文字疾風(豊原功補)に呼び出されて立ち会えないというのがお約束になっている。いてもいなくてもいいマスコット的存在だが、微妙にズレたダサい格好とリアクションがかわいいため、ついつい目がいってしまう。こういう脇役を演じさせると、吉岡は最高のポテンシャルを発揮する。
吉岡が大きく注目されたのは、NHK連続テレビ小説『あさが来た』で演じた、のぶちゃんこと田村宜だ。のぶちゃんはヒロインの白岡あさ(波瑠)の娘・千代(小芝風花)の友人で、後にあさの秘書見習いとなる。特に重要な役というわけではないのだが、着物にメガネというルックスが妙に印象に残り、画面の端っこに映っていても本編そっちのけで気になる存在となっていた。
その後、吉岡は『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)や『メディカルチーム レディ・ダ・ビンチの診断』(フジテレビ系)などに出演し、“脇で目立つ女優”という謎のポジションを確立。そして、坂元裕二脚本の連続ドラマ『カルテット』(TBS系)で演じた有朱ちゃんこと来生有朱役で、吉岡の魅力は臨界点を迎える。
有朱ちゃんは元地下アイドルで今はレストランでアルバイト店員として働いているのだが、なんともいえない壮絶なキャラクターの女性で、あだ名は淀君。過去にクラスを学級崩壊に追い込み、付き合う男を片っ端からダメにするという人の心を弄ぶ計算高い(しかし思慮が浅い)悪女だ。
脇役だったが、アイドル的なかわいらしいルックスに隠された悪魔的な性格というギャップが視聴者を魅了し、吉岡のイメージは有朱ちゃんによって完成してしまったといえる。
いまや吉岡は人気女優の仲間入りを果たし、映画、ドラマで主演に引っぱりだこだが、脇で必死に爪痕を残そうとしていた時に比べると、イマイチ精彩に欠ける。また、主演として正統派ヒロイン風の役をやろうとすると、どうしても有朱ちゃんのイメージが頭から離れず、“実は腹黒いのではないか”と、うがった見方をしてしまう。
「正統派に見えて実は邪道」というのが吉岡の持ち味だが、ど真ん中に置かれると、邪道な隠し味を殺してしまうのだ。
しかし、『時効警察はじめました』の吉岡は水を得た魚のように生き生きとしている。
途中から彩雲の出番は明らかに増えており、“誰が一番、吉岡で遊べるか”という勝負の場にドラマが変質していったことが見ていてわかる。
中でも映画『勝手にふるえてろ』でエキセントリックな女性の内面をコミカルに描いた大九明子が監督を務めた5・6話が素晴らしく、吉岡の魅力を最も引き出していた。
その意味でも『時効警察はじめました』への出演は吉岡にとって幸運だったが、こういう作品はあくまで例外である。
今後も吉岡は、アウェーである主演級の役柄に挑み続けるのか、それともこのまま名脇役として、おいしい立ち位置を確立するのか。個人的には後者のほうが幸せだと思うのだが、若手女優として人気が高いため、しばらくそれは許してもらえないのだろう。
主演でありながら、彼女の邪道な演技が生きる役と出会えればいいのだが……。