今のテレビドラマは、主演級の正統派女優は飽和状態で「美人」「かわいい」というだけではどうしても埋もれてしまう。しかし、王道に対する邪道、直球に対する変化球を投げるられる脇役女優の層は薄く、まだまだ数が足りていない。
真っ先に名前が挙がるのが、やはり富田望生 (みう)だろう。
映画『ソロモンの偽証』で映画初出演を果たして以降は、ぽっちゃり系のビジュアルでシリアスな演技ができるという稀有な個性が重宝され、昨年Netflixで配信された学園ドラマ『宇宙を駆けるよだか』で一気にブレイクした。今年は『3年A組‐今から皆さんは、人質です‐』(日本テレビ系)、連続テレビ小説『なつぞら』(NHK)、『ブスの瞳に恋してる』(FOD)といったドラマに続けざまに出演し、ぽっちゃり系若手女優といえば富田というイメージは完全に定着したとい えよう。ただ、これは起用する側の問題だが、安易なコメディリリーフとして使われることが多く、彼女のポテンシャルがイマイチ生かされていないように見える。『宇宙を駆けるよだか』に匹敵する役に再び出会えるかがポイントだが、いっそ、いきなり朝ドラヒロインを演じるくらいの大胆な起用があってもいいのではないかと思う。
一方、大胆な濡れ場を演じたことで、令和元年のシンデレラガールとなったのがNetflix配信ドラマ『全裸監督』でAV女優の黒木香を演じた森田望智 (みさと)だ。80年代のAV(アダルトビデオ)業界を舞台に、AV監督の村西とおる(山田孝之)がのし上がってい く姿を描いた本作において、もうひとりの主人公といえる黒木は、厳格な母親の元で育てられた結果、性的欲望を抑圧されていた。しかし、村西と出会いAVに出演したことで、女として解放される。第5話のAV撮影場面では大胆な濡れ場を披露するのだが、このシーンのいやらしくも滑稽なラブシーンは本作最大の見どころだった。
劇中の黒木は、尊敬する村西のコピーとして振る舞うことで、過剰な敬語でいやらしい行為を行うセックスモンスターとして開眼していく。その過程が女優として開眼していく森田の姿とダブるところが本作の面白さだが、その後もテレビドラマへの出演は増えており、より現代的な女性も演じている。
対して桜井ユキは遅咲きの32歳。園子温監督 の『新宿スワン』や『リアル鬼ごっこ』といった映画に抜擢され、脇で気になる仕事をする女優だったが、今年は主演を務めた『だから私は推しました』(NHK)のほかにも『東京独身男子』(テレビ朝日系)、『絶対正義』(フジテレビ系)、『G線上のあなたと私』(TBS系)などのドラマに出演。かつて、りょうが演じていたような、ラグジュアリーで破滅の匂いが漂う大人の女性を、この若さで演じられることが人気の秘密だろう。
そして、まったく新しい個性で、一気に飛躍しそうなのがモトーラ世理奈。パリコレのショーモデルや雑誌「装苑」(文化出版局) の専属モデルとして活躍する傍ら、昨年出演した映画『少女邂逅』で、ミステリアスな女子高生を演じ、女優としても大きく注目された。そして今年は学園ドラマ『ブラック校則』(日本テレビ系)のヒロインに抜擢。そばかすに細い目、そしてクールな表情は、今の芸能界で主流となっているアイドル的かわいさとは真逆のもので、だからこそ孤立した居場所のない少女を演じるとぴったりとハマる、新世代のヒロインだといえるだろう。
異業種からの参入という意味では、『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)で長身の女子陸上選手・人見絹枝を演じた菅原小春も忘れられない。ダンサー、振付師として世界中で活躍し、昨年の『紅白歌合戦』 では米津玄師とのコラボが話題となったが、『いだてん』では女優に初挑戦。「走る」という全身を使った演技と、自信なさげにしゃべる日常会話のギャップが鮮烈な印象を残した。
最後に昨年『PRINCE OF LEGEND』(日本テレビ系、以下、『プリレジェ』)で主演を務め、今年は『絶対正義』(フジテレビ系)、『I”s』(BSスカパー)、『だから私は推しました』(NHK) 等に出演し、大きく飛躍したのが白石聖。
それぞれ独自の個性を持った、一人一ジャンルとでもいう存在だ。それだけにスパイスとして便利に使われる危険性もあるのだが、そこをうまく避けて個性を生かした役とどうやって出会うかが、今後の課題だろう。逆に言うと、彼女たちが物語のヒロインを演じる機会が増えれば、保守的なところが多い日本の映画やドラマにおけるヒロイン像は、大きく更新されるのではないかと思う。