「ザ・ドリフターズ」のメンバーでタレントの志村けん(本名=志村康徳)が3月29日午後11時10分、新型コロナウイルスによる肺炎のため、東京都内の病院で逝去した。70歳だった。
お笑い界のレジェンドの死に、芸能界をはじめ、各界からは悲しみの声が上がっているが、ここ数年、志村が特にかわいがっていたのが、千鳥の大悟だった。バラエティ番組などでたびたび大悟が語る志村とのエピソードは、いつも私たち視聴者をほっこりと楽しませてくれた。そんな2人の寵愛関係を象徴するコラムを、追悼企画として再掲載する(編集部)。
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(初出:2019年8月21日)
千鳥
千鳥・ノブ「今日俺、志村さん習うん?」
いま「寵愛」と聞いて思い浮かぶのは、どの芸能人か。明石家さんまと加藤綾子。
先週は、そんな志村と千鳥の組み合わせを何度も見た。14日の『志村けんのだいじょうぶだぁ』(フジテレビ系)では、千鳥の2人がそれぞれ志村とコントを演じていた。
こんなふうに、テレビでの共演も珍しくない志村と千鳥。しかし、本人がいないところでも千鳥は頻繁に志村の名前を出す。平均して1番組に1.5志村は出してる感覚だ。あくまでも感覚で。
たとえば、特番として放送された15日の『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)。
まず、2人はボイストレーナーのもとを訪れる。しかし、手始めに「Lemon」を歌うノブの歌声に、大悟は終始しかめっ面。実はノブ、カラオケが大の苦手というほど歌がひどいのだ。
「ホンマにみんなが『夢ならば』と思ったよ」
ノブの歌唱力の現状が確認できたところで、トレーナーによる指導が始まる。あくびをする感覚で歌ってみる、イケメンになったつもりで歌ってみる、首の力を抜いて歌ってみるなど、さまざまな方法が試された。しかし、ノブの歌はあまりうまくなったようには聞こえない。
「米津玄師さんって、ちょっと声の芯が志村けんさんみたいなところにあるんですよ」
この発言に、当然、志村と親交の深い大悟が食いつく。ここからは、大悟主導での志村式歌唱法のトレーニングの開始である。見本として、志村のモノマネを交えながら歌う大悟。それを見て、ノブが嘆く。
「今日俺、志村さん習うん?」
歌唱指導は、難関のサビに差し掛かる。
ノブが「Lemon」を上手に歌いたい。今回の企画は、それだけといえばそれだけである。しかし、特にこの『テレビ千鳥』がそうだけれど、100円だけ持ってゲームセンターに行くとか、ノブの車で海を見に行くとか、日サロで肌を焼くとか、料理を作って食べるとか、ドラクエをするとか、「それだけといえばそれだけ」のシンプルな企画を、千鳥はほぼ2人のやりとりだけで随一のバラエティ番組に昇華する。それが千鳥の真骨頂だ。
そして、そんな千鳥のやりとりには、高頻度で志村が顔をのぞかせている。
先週テレビで見た、志村と千鳥の組み合わせ。続いては、12日深夜に放送されたレギュラー回の『テレビ千鳥』。公開収録だったこの日は、ほぼ千鳥の2人だけでのフリートークが展開された。
トークは初っ端から志村の話題だ。ノブは語る。自分と志村はインスタグラムをやっている。で、自分が写真を上げても基本的に志村は反応しないのだが、例外がある。
「大悟が出てる写真にだけ、『いいね!』をしてくるんですよ。こんなカワイイことあります?」
この志村トークに、当然のように大悟も追随する。大悟いわく、日本に住むほとんどの人が、子どものころに志村で笑わされた経験があるといっても過言ではない。それほど長く、志村はテレビの世界で笑いを提供してきた。そんなレジェンドと大悟が一緒に歩いていたときのこと。よく考えてみればそれだけでもすごいことだが、前を歩いていた志村は振り返って言った。
「振り向いてお前がいるとうれしいんだよな」
志村と大悟の寵愛関係を象徴するかのようなエピソード。それを、「こんなことある? こんなうれしいこと」と紅潮気味に語る大悟。そこにノブが立て続けにツッコむ。
「恋人やん」
「キスする前やん」
もちろん、志村と大悟は先輩と後輩の関係にある。師匠と弟子の関係に近いのかもしれない。大悟はいま志村と深夜番組でコントをやっているが、そこでは多くの学びがあるという。
大悟によると、自分たちは中学生のときにダウンタウンの笑いを全身に浴びて育ってきた。お笑いのスタート地点、基準点として、ダウンタウンが刷り込まれたのだ。しかし、それはある事実を白日の下にさらした。
「お笑いの教科書でいうと10ページ目から始めちゃってんのよ。ダウンタウンさんのページから始めて、ダウンタウンさんのページに憧れて芸人の世界入ってるから。実は20年、お笑いの1ページ目をやらずに育ってきたわけ」
そして、芸人になって20年。大悟はようやく、これまで読み飛ばされてきたお笑いの教科書の1ページ目に触れることになる。そこにはずっと、志村がいた。
俳優、歌手、作家、コメンテーター、イベンター、映画監督、絵本作家、焼肉店経営 など、芸人の活躍の場は横に広がってきた。お笑いとは別の教科書を開く者も出てきた。しかし、大悟は活動を横に広げるというより縦に掘る。お笑いの教科書の1ページ目にさかのぼり、そこで学ぶ。
志村の背中を見ながら、大悟は歩く。「振り向いてお前がいるとうれしいんだよな」と言われながら。
さて、以上のように、先週は志村と千鳥の組み合わせがテレビで多く見られたのだが、1点、気になったことがある。『だいじょうぶだぁ』でのダチョウ倶楽部・上島の扱いだ。以前より、志村と親密な関係を築いてきた上島は、プライベートでもよく飲みに行く仲として有名だった。『だいじょうぶだぁ』や『バカ殿』のレギュラーも長年務めてきた。
しかし、約2時間に及んだ今回の放送中、上島が出演していたコントは4つ。そのすべてがその他大勢としての役回り、モブ的なキャラクターでの出演だった。
この状況を、上島が「夢ならば」と思ったかどうかはわからない。