安斉かれん OFFICIAL SITEより

 2018年稼ぎ頭であった安室奈美恵が引退し、19年4月にはAAAのリーダー、浦田直也が暴行事件を起こすなど、暗いニュースが続いているエイベックスだが、そんな現状を打破すべく、“浜崎あゆみの再来”という売り文句で華々しくデビューしたのが、19歳(当時)の女性シンガーの安斉かれんだ。エイベックス期待の大型新人として、令和初日となる5月1日にファースト・シングル「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」をリリースし、6月30日にはセカンド・シングル「誰かの来世の夢でもいい」を発表。

 しかし、両曲とも世の反応はイマイチで、さらにエイベックス社内での盛り上がりも芳しくないという。エイベックスの事情に詳しい広告代理店関係者A氏がこう明かす。

「安斉のデビューに関して、社内で事前に知っていたスタッフはほとんどいなかったようです。しかし、ネットニュースなどで知った瞬間、そのルックスからか、『あ、松浦(勝人)さん案件か』と、みんな静かにうなずいたと聞いています。同社内では『売り方が古すぎる』『浜崎あゆみの二番煎じを狙ったところで、時代が違いすぎる』など評価も散々。デビュー直後も社内であまり話題にならず、気に止めるスタッフもいなかったようですね」

 芸能事務所幹部B氏も、A氏の証言を裏付ける。

「エイベックスに限らず、社運をかけて売り出すアーティストがデビューを控える場合、社内では全社メールが送信されます。しかし、安斉かれんのデビューに関するメールは、全社員に送られていなかったようなんです。ミステリアスな印象、謎めいた感を演出したデビューにさせたかったようですが、エイベックス社内はおろか、一般的にも、ただただ謎な印象の存在でしかないお披露目となってしまった形ですね」

 ミステリアスすぎて、結果、社内外にもまったく伝わらなかったというのは、実に皮肉な話であるが、実際、公式プロフィールでも経歴は〈1999年生まれ。神奈川県藤沢市出身の19歳〉と紹介されていた程度で、デビューに至る経緯も明らかにされていない。メジャーレコード会社スタッフC氏は、「おそらく、安斉の制作チーム担当部門長・X氏のスカウトだと思います」と推測するが、真相は不明。

 同じくプロフィールには〈渋谷の人気ショップ「RELECT by RUNWAY CHANNEL Lab.」で店員として働きながら、デビュー前から多くのファッション・メディアに登場し、コスメティックブランドM・A・Cの店頭コレクションビジュアルにも採用される〉とも書かれているが、この「渋谷の人気ショップ」はエイベックス関連のショップであり、M・A・Cに関しても、当然デビュー前の話題作りであるのは言うまでもない。

前出のA氏がエイベックスの戦略をこう分析する。

「M・A・Cは若い女子から大人の女性まで幅広く使用されているので、“憧れ”的な演出を打ち出す戦略でしょうね。際立った歌唱力ではないものの、鼻につく歌い方でもありません。ただし、聞いてすぐに彼女とわかるようなインパクトには欠けます。曲によってはボーカルが生きる可能性もありますが、セカンド・シングルもJ-POP的な作りで保守に走りすぎていますね。今のところ求心力はルックスからスタートしているマーケティングでしょう」

 2曲のシングルのミュージックビデオを見れば、彼女をルックスやイメージで売りたいという、エイベックス側の思惑は伝わってくる。

それは、彼女のキャッチフレーズでもある“ポスギャル(ポストミレニアルギャル)”という、いかにもそれっぽいワードからも明らかだ。しかし、B氏はそのルックス面に関しても厳しく評価する。

「そもそも誰もが太鼓判を押す可愛さを持っているわけでもなければ、親近感のある顔立ちでもない。見た目で売りたいのか、実力で売りたいのかの境界線が曖昧なんですよね」

 カリスマ性やビジュアル面で飛び抜けていた安室奈美恵や浜崎あゆみといった女性アーティストを輩出してきたエイベックスであるが、そのどちらも際立っているとは言い難い彼女が、同社の次世代を担う存在になり得るのか。とはいえ、エイベックスもこのまま手をこまねいているわけではない。B氏が続ける。

「安斉の制作チームは、エイベックスの社員からも『迷走している』と囁かれているようですが、ひとつ光があるとすれば、エイベックス・ピクチャーズ(API)とのタッグかもしれません。APIは、今夏からスタートするアニメ作品を複数抱えており、社内で今もっとも勢いに乗る部署。そのAPIと安斉の制作チームが社内で同フロアということもあり、衣装や戦略など、いろいろ相談を持ちかけているようです」

 冒頭で「暗いニュースばかりが続く」と書いたが、実際APIのように好調な部署もあったり、グループ全体として、業績は上向きだ。前出・C氏の話。

「そもそもエイベックスだけでなく、他レコード会社も含めて、音楽だけでビジネスをしていこうとは考えていません。例えばエイベックスでいえば、三井物産との業務提携や、インフルエンサー会社を子会社化したり、VTuberの育成など、手広く事業を展開しています。

ただ、どこのレコード会社も一緒だと思いますが、CDの販売はやめないでしょう。日本特有の話ですが、いつどこでCDが爆発的に売れるかわからないですし、CDはいまだに利率の高い商品として重宝されていますから」

 事実、エイベックスに関しても18年は安室奈美恵の引退DVDや、DA PUMP「U.S.A.」などのメガヒットを放っており、音楽部門はエイベックスにとって看板であることには変わらない。とはいえ、特に話題性に乏しかった上半期を終え、下半期に明るいニュースが飛び出すだろうか。C氏が続ける。

「現状、安斉かれんが不発状態で、痛手を負うエイベックスは、のちに控える大型新人も今のところ予定なし。同社の稼ぎ頭は、なんだかんだでAAAで、メンバーの西島隆弘個人でも大きなお金が動いています。

そんな最中の浦田直也の暴行事件でしたから、踏んだり蹴ったりもいいところです」

 頼みのAAAもこのような状況で、さらに期待の大型新人も鳴かず飛ばずというエイベックス。日本音楽業界の一時代を築いた同社が、このまま緩く下降線を描くのは、なんとも悲しい話だ。安斉かれんが大化けして、真の救世主になる大逆転ストーリーも期待しつつ、スターアイランドばりの、さらなる大花火を打ち上げてほしいものだ。
(文=代間 尽/「月刊サイゾー」2019年8月号より)