芸人を取り上げた特集ムックが増えたり、「キングオブコント」を含めた8時間の大型特番として『お笑いの日2020』(TBS)が組まれたりと、お笑いブームがいよいよ極まってきている。
ただただ楽しく観るのもいいが、ふとした瞬間に現代社会を映す鏡となるのもお笑いの面白いところ。
加地Pを”褒め”てもツッコまれないラランド・サーヤ
ユージ 『アメトーーク』(テレビ朝日)の「若手女芸人」回(9月10日放送)、すごくなかったですか? 最近、女性芸人が注目を集める機会がどんどん増えてますけど、その流れがあの『アメトーーク』で1回目のクライマックスを迎えた気がしました。
タカ いろんなものが詰まってましたね。なにしろとにかくサーヤ(ラランド)がすごかった。
ユージ 出演してる芸人を「芸風&ポジション分析」として、マトリックス表に分けていく場面からかっ飛ばしてましたね。みんなが自分やほかの出演者がどこに位置するかでワイワイやった後、サーヤに話が回ったら「表が良くない」「考えとして古い」っていきなりバッサリいって。さらに、「ただ成長を感じたのが、4~5年前だったらたぶん一番上(注:縦軸の上の「見た目インパクト」)のところ、『ブサイク』って平気で書いてたんですよね。それを『見た目インパクト』って書くのは加地さん、まだまだ上に行きたいんだなって」と続けたじゃないですか。あれ、すごいなと。
タカ ぐうの音も出ないですよね。サーヤはその前に出てた『ダウンタウンDX』(読売テレビ系/9月3日放送)だと、ちょっと斜に構えるというか、自分以外の女性を下に見ているのかな? って雰囲気があったんだよね。
でも『アメトーーク』観たら、そうじゃなくて、世の中とかその場の人間関係とか他人の人となりとかの解像度がとにかく高くて、”見えている”人なんだなってわかった。だからこそ、ほとちゃん(蛍原徹)や陣内(智則)の広告的な価値についてもズバッと言えるし、加地(倫三)さんについても言えてしまう。
ユージ 『ダウンタウンDX』だと、ボケてるゆりやん(レトリィバァ)に対して、若干バカにしてるような雰囲気になっちゃってましたもんね。「加地さん、まだまだ上に行きたいんだな」発言も、普通なら「若手が何偉そうに言ってんだ」ってなりそうなものじゃないですか。陣内が画面外から「誰目線で言うてんねん」とは一応言ってましたけど、そこはテロップでも拾わずに流してて、出演者たちも誰も広げないんですよね。
タカ やっぱり、広告系の会社で働いてるっていうバックボーンがあるからなのかもしれないな、と思った。専門家の意見として聞いてもらえている感じがする。
ユージ 会社員と芸人の二足のわらじが、ただの“キャラ付け”に留まらずに機能してるというか。
タカ それも新しいよね。にゃんこスターのアンゴラ村長もOLと兼業だったけど、一般の仕事をしてることが芸人としての仕事に活かされてる様子はそこまでなかったから。
ユージ そういえばそうでしたね! 「キングオブコント」で脚光浴びた後、密着番組で働いてる様子が映されてました。
タカ 実はアンゴラ村長も聡明で分析力もパンチ力もあったのに、キャラ消費されてしまった。ブレイク真っ最中に出た女芸人特集の番組で「顔とか生まれとか、変えられないものをさげすむのは古い」っていうのをはっきり言ってたし、ちゃんとそういうことは見えるし言える人なんですよね(『1周回って知らない話 旬の女芸人&大物俳優は謎だらけSP』日本テレビ系/2017年11月29日放送)。
ユージ 今回の『アメトーーク』には出てなかったですが、注目が集まってる女性芸人といえばヒコロヒーもいます。めっちゃざっくり言ってしまうと、ヒコロヒーとサーヤがほぼ同時期に出てきたことで女性芸人界に新しい風が吹いてる感が一気に出たじゃないですか。『ゴッドタン』(テレビ東京)にも立て続けに呼ばれて。
タカ ヒコロヒーとAマッソ・加納のYouTubeラジオ「レイコーラジオ」聞いたけど、ヒコロヒーは全然物言いを濁してなくて良いんですよね。今のところ#6まであがってるけど、#3が特に良かった。「大物司会者の横に立つ芸人」っていう話の中で、『きらきらアフロ』(テレビ大阪系)のオセロ松嶋について「お世話になってる先輩やけど、あんな頭悪い人、腹立つもん。普通」って言っててめちゃくちゃ笑ってしまった。それは「(横にいるのが)鶴瓶師匠くらいのおじいさんやから『可愛いなぁ』って(なる)」って話だったんだけど。
ユージ あのくだり、おもしろかったですね(笑)。「女同士でもアホなやつにはアホって言おう!」っていう。
タカ 容姿いじりがしにくくなっている風潮という話で、ライブで誰かほかの女性芸人が「ブス!」って言われたらソデから走っていって「呼んだ?」って言うのはどう? っていうのも笑ったな。
ユージ 「レイコーラジオ」聞くと、ヒコロヒーが突っ走るからか、加納がなだめ役に回ってる感じがありましたね。バランス取ろうとするタイプなのは意外でした。それこそ「女芸人はデブとブスしか求められてない」ってはっきりテレビで言ったの、彼女は早かったじゃないですか(『ゴッドタン』2018年2月)。だからか、お笑いとジェンダーみたいなところにもっと切り込んでいくことを期待してる人もいたと思うんですよね。
タカ ヒコロヒーは自覚的にフェミニズムをネタに取り入れて、佐久間(宣行/テレビ東京『ゴッドタン』プロデューサー)さんに「面白い」って認められたけど、加納はそっちの道は選ばなかったんだと思うんですよね。むしろ「ギリギリのこと言うのがおもろい」みたいな、男社会のチキンレースに乗っかることもあるのかなと。ヒコロヒーとかサーヤは振り切ってるから、男の悪口もサラッと言うしネタにも昇華できてて、だから観ててしんどくないんだけど、加納はまだいい子であろうとする部分と抗おうとする部分がアンバランスに感じるんですよね。
ユージ 内心で考えてることとか真面目な話をすること自体、彼女のお笑い観みたいなものにあんまり合わないのかもしれないですね。
タカ 女性芸人特集のバラエティでいうと、『アメトーーク』と対照的にひどかったのが『しゃべくり007』(日本テレビ系)ですよ。
ユージ そうそう! だいたい「恋する第七世代・女芸人軍団~超恋愛体質女子のリアル恋バナ~」(9月14日放送)ってタイトルからしてもうひどい(笑)。ぼる塾・あんり、ガンバレルーヤ・よしこ、3時のヒロイン・かなでほか若手女性芸人を集めて妄想恋バナで1時間って!
タカ 本当に、なんも面白くなかった。YouTubeで、加納と3時のヒロイン・福田(麻貴)が「かなでの恋バナが面白くないからどうするか」ってかなでを面接する企画やってたんだよね。
ユージ 『アメトーーク』の数日後だっただけに、より落差が歴然としてました。
タカ 企画する側の女子トークが面白いというところで止まっている感じがありました。
ユージ 衣装も全体にピンクっぽくて。セットの扉が開いてゲストが出てきたとき「めっちゃ“それっぽい”色の衣装着せられてる!」と思ってビビりました。
タカ そこは気にして観てなかったけど、言われてみるとたしかにそうだったね(笑)。
ユージ 制作者たちが思う「世の中に求められてる女芸人」の像に当て込んで、旬の若手を処理しようという匂いがプンプンしました。すごく日テレっぽいですよね。なまじ最近まで視聴率が良かっただけに、あぐらかいてアップデートしなかったという意味で。
タカ それこそ佐久間さんはヒコロヒーを面白いと思ってて、加地さんはサーヤとガンバレルーヤの対比をつくって……ってしっかり新しいものにしてる中で、かなでやあんりの恋バナがベストだと思っている『しゃべくり』……。
ユージ ただ、かなでに関しては、それこそそういう振る舞いを内面化しちゃってるのかな? というのはインタビューを読んだり、前出のYouTubeの「面接」企画を観ていて思います。本人が自分の面白さに自信がなくて緊張しいだから、そういう方向に頼ることでどうにかしようって思いすぎてるのかもしれないですね。
タカ トーク番組ではそれが求められるから、そこを強化しないといけないと思っちゃってるのかな。そんな“日テレ的なるもの”に合わせて無駄なエネルギー使ってたらもったいないよ。
ユージ 3時のヒロインだと、『アメトーーク』で福田もその点気になりました。「サーヤを観てて、ネタとかトークで男芸人みたいに笑いを取っていいんだって思った」と言ってたんですが、サーヤが出てくるまで自分の中ではそう思えなかったのか……と。同時に「全然体張りたいです!」って主張もしていたんですよね。そのあたり、吹っ切れてなさを感じました。
タカ 福田さんは、ネタがあれだけおもしろいんだから、自信持ってもっと吹っ切れてていいのにね。能力があるんだから、普通のかわいい女の子であろうとしなくて、堂々としてほしい。「体張る」って吹っ切る象徴のはずなのに、女芸人の場合はそうじゃないんだなって実感するね。
ユージ 男性芸人も、体張ることが結局のところ憧れっていうのは一緒じゃないですか? いくらスベってても「くだらね~」って言われるようなことを体張ってやり続けてるやつが一番かっこいいって思ってるところはあるじゃないですか。『有吉の壁』(日本テレビ系)で、とにかく明るい安村が後輩たちから尊敬されてるのを観てるとそう思います。僕も好きですけど。
タカ 王道、花形ってことかな。ボケの仕事だし、コンビはそういう人がいないと成り立たないことは多いもんね。男性芸人でネタ作る人は隣に底抜けのバカがいてほしくて、女性芸人だとキャラとしてのブスにいてほしいっていうのはありそう。それが男女コンビのサーヤや、ユニットだけどヒコロヒーの場合は吹っ切れてるんですよね。相方には社会の中の「男」っていう存在を演じてくれればいい、ってなる。蛙亭もそうじゃないかな。男女の構造的なことをコントにしてるよね。福田に限らずだけど、もっと吹っ切れてやりたいようにネタを作っていったらより面白くなると思うんだけどね。