M-1グランプリ2020』公式サイトより

 12月20日、年末恒例の「M-1グランプリ2020」が開催された。熱戦を制し史上最多5081組の頂点に立ったのは、今年3年ぶり2回目の決勝出場となったマヂカルラブリーだった。

 マヂカルラブリーの優勝について審査員の立川志らくが、「まさに喜劇である」と褒めたたえた。SNSでは視聴者から「みんな面白い」「今年もM-1レベル高すぎる」など賞賛の声が上がっている。一方で「漫才とは何のか。コントとの違いは何なのか」と疑問の声も上がっている。しかし、今回披露された漫才はすべて高レベルの漫才であることは間違いなかった。

 改めてこの大会を振り返ってみよう。

まずファーストラウンド。今年も笑神籤によって、おみくじ式に順番が選ばれる中で、1組目がいきなり事前に開催された敗者復活戦を制したインディアンスとなる波乱の幕開けに。

 インディアンスが掛けたのが敗者復活戦と同じ流れのネタだったが、会場はしっかりとウケていた。まくし立てるボケと小気味良いツッコミは見事で、一番手としてはかなり良いスタートを切ったといえるだろう。松本はツッコミのタイミングを褒め、高得点を付けた。キャラクターから発せられるアドリブ風のボケにツッコミを入れる形のため同日に一度ネタを披露していることはかなり不利かと思われたが、技術で凌駕した。

 続いて2組目は、審査員のひとりサンドウィッチマン富澤たけしの事務所の後輩でもある東京ホテイソン。ひとつ目のボケをみたときに、その後の流れは誰もが想像できるものだが、そのシステムを作りあげたのは見事という評価。ツッコミでの笑いの大きさはかなりのものであった。残念ながら今年、あまり得点が伸びなかったが、最後のオチは何かひとつ、しっかりボケが欲しかったということでではないだろうか。若手の期待株であったゆえに、スカシはすこし残念であったかもしれない。

 3組目はニューヨーク。

昨今の厳しいコンプライアンスを逆手に取った漫才は絶品で、ド頭から視聴者をおどろかせたことだろう。嶋佐の感覚とご時世とのズレを淡々と話し続ける漫才は、2人のキャラクターと相まってこれぞ“M-1で見たい漫才”となっていた。軽犯罪を悪びれず話す姿には、いくらでも序盤から強くつっこめるという構造の妙を感じた。漫才のテーマの選びが絶妙ということだろう。審査員の塙に「新しい時代の時事ネタ」と言わせるほどのスタイルで、高得点なのも当然であろう。序盤最初の大きな見せ場となっていた。

 4組目は、見取り図。大阪仕込みの漫才コントはテンポよくボケとツッコミを繰り返した。強力なボケとツッコミは会場の盛り上がった空気と相まってかなりウケていた。王道の漫才コントで畳み掛け続けるスタイルは、高得点を付けざるを得ないと言ったところだろうか。

 5組目は、おいでやすこが。ピン芸人同士のユニットがまさかの決勝進出となったが、予選から前評判は高かった。

実際に決勝でも、ピンで活躍している2人の良さが爆発した漫才となった。ボケ役をこなすこがしゅうが歌を歌う度に、漫才のテンポをつくりなおさなければならない構成のはずだが、そのマイナスな部分をまったく感じさせない勢いがあった。「誰の歌やねん」という疑問がうかび、ツッコミ役のおいでやす小田も小さく突っ込み続けるが、そこは序盤からスルーされ続けていく。その根本的な疑問は、中盤で強くツッコむというふうに変化し、ツッコミの強弱の付け方が見事であった。松本人志が「単純明快」と表したように、漫才のスタイルに特別な物は無いが、おいでやす小田のツッコミが際だった形だろう。

 6組目は、マヂカルラブリー。

2017年に決勝に進出したときに、審査員の上沼恵美子とひと悶着あり、そこから3年、上沼をネタにし続けてきたが、今年ついに雪辱果たし決勝へ。せり上がりから野田が正座をして出てくる登場で観客の度肝を抜く。漫才コントに入った一番最初のボケから、大爆笑を巻き起こしていた。独特な世界観が会場を包み込み、村上の駄々をこねるようなツッコミが、礼二の言うような「野田にしか出来ないボケ」にぴったりハマっていた。数年前のやらかしを、しつこくネタにし続けたことで、M-1ファンも背中を押したと言えるかもしれない。

 7組目はオズワルド。自分の名前に「あ段」が多いというかなりトリッキーなテーマの漫才。ゆっくりに感じるペースだが、畠中は喋るごとにボケていてその手数は多い。伊藤のツッコミでも笑いを取っているので、笑いの量は多く全体的にペースは早かった。点数が伸びなかった理由に松本は「静の漫才を見たかった」と言っていたが、2年連続で登場した弊害と言ったところであろうか。

 8組目はアキナ。漫才ライブの裏側で、山名が狙っている女性が来ているのでやたらかっこうつけるという設定の漫才コント。その設定について審査員の富澤が「年齢とあっていない」というように、多少裏目に出ていただろうか。漫才コントの上手さとボケの威力は強かったが、今大会ではほかの漫才師に比べると若干弱かったか? 審査員も演技の上手さを評価したが、松本人志は決勝最低点の85点、ほかも全体的に得点は伸びなかった。

 9組目は錦鯉。一言目の「こーんにーちはー」だけで、ひと笑い引き起こす。ボケのまさのりのキャラクターから発せられるギャグに、隆のベテランらしいシンプルで強力なツッコミが笑いを巻き起こす。審査員の得点差を見ても好みの分かれるネタであることは間違いないが、キャラクターを世の中に知らしめたことで松本も「来年テレビでよく見るようになる」と太鼓判を押した。

 10組目はウエストランド。ツッコミの井口がまくしたてる漫才。早口で世の中への偏見や不満をぶちまけるスタイルだが、松本が「何漫才か分からなかった」と表したように、ややつかみ所がなかった。大きくウケたところもあるが、出番順や大会の勢いに圧されてしまったのかもしれない。

 つづいて、ファイナル。1組目は、見取り図となった。

 ファーストラウンドとはうってかわって、大阪らしいしゃべくり漫才。ボケとツッコミが代わるがわる発言していくが、動きを使ったボケなども織り交ぜ飽きが来ない、『これぞ、これまでの見取り図のベストを見た』というような素晴らしい漫才であった。

 2組目はマヂカルラブリー。ボケの野田が電車の吊革に捕まりたくないと言った後、ほとんどしゃべらずはげしい動きで揺れる電車を表現する。その動きに合わせ、そのボケを制するわけでもなくツッコミつづけ、そのあいだ笑いが止まることはなかった。かなり技術の必要な動きボケメインの漫才で、笑いを取り続けた。

 3組目は、おいでやすこが。ハッピーバースデーの歌をオリジナルで歌い続けるこがに対しておいでやす小田が大声でツッコむスタイル。歌ネタではあるが、ファイナルラウンド3組の中では一番シンプルな構成の漫才であった。

 優勝はマヂカルラブリーであったが、見取り図2票、おいでやすこがも2票、マヂカルラブリーが3票と、僅差の採点結果となっていた。

 今年は史上最高と賞された2019年のM-1に並ぶほどの熱戦だったといえるだろう。松本も「過去の中で2組で悩んでいたが、今回は3組で悩んだ。」というように、誰が優勝してもおかしくない高レベルな戦いであった。もちろん、来年、マヂカルラブリーの活躍が期待されるし、優勝できなくても活躍する漫才師は多数いるので、ほかの芸人たちにも注目が集まることは間違いないだろう。今年のM-1のテーマである「漫才は止まらない」。その通りの大会になった。