写真/GettyImagesより

 2021年1月5日、新年早々とある芸人のツイッターでの発言が話題となった。

 これはあるライターの方が『絶対に笑ってはいけないGo Toラスベガス24時!』(日本テレビ系)について、ダウンタウンお二人(特に浜田さん)の”老化”に焦点をあてた記事に対して、松本さんが静かに言及した次第だ。

 記事には番組内の「下克上ゲーム対決」というコーナー中に、”ひとりE.T”というゲームでは指先が揃わない、”負け続け後出しじゃんけん”ではどうしても勝ってしまうなどを、失態としてとりあげ、現役としての「選手」を引退し「監督業」に専念すべきと、具体的に書かれていた。

 そもそもお笑いというのは、どんな手段を使ってでも笑わせること、それが最優先事項だ。

 それを踏まえて、笑いをとる手段は細分化されており、巧妙に言葉だけのやり取りでスマートに笑いをとる者もいれば、汚れ役に徹してリアクションなどで笑いをとる者もいる。

【失態】と表現されていた浜田さんの行為で、少なくとも共演者は笑っていた。

“老化”で笑いが起こったというより、浜田さんのキャラクターとして普段は強面として取り扱われるが、それに反してゲームが苦手という、ある種”可愛らしいギャップ”を生かした笑いの取り方であると感じた。
 さすがとさえ思う技術に見えた為、【失態】という言葉に違和感を感じる。

 また『選手を引退し、監督業に専念』という部分に関して、このライターさんは多くの芸人と考え方が異なっている。

「笑わせられる側」を選手「笑わせる側」監督業という意味合いで書いてらっしゃったが、これについてはまったく意味がわからない。

 レギュラーの5人(ダウンタウン、月亭方正、ココリコ)に対して、“笑いの刺客”を演じる芸人やタレントたちはすべて選手だ。違いは”攻撃”か”防御”かという点だけ。

さらに、攻撃側(笑わせる側)のほうが受け手側よりプレッシャーがあり、絶対に笑わせるという不利な戦いに挑むというところから、よっぽど選手という感じがするのだが……。

 と、まあ記事に対しての意見はこのくらいにして、今回は”お笑いの世界において、歳をとる事が罪なのか”を元芸人目線で分析していこう。

 さて、結論からいうと僕の意見は“NO”だ。罪ではない。むしろベターである。

 個人的な考えだが、芸人を職種としてカテゴライズした場合、間違いなく『技術職』に分類される。

 技術職は経験と知識をベースとし、オリジナリティを付加することで個人の価値を向上させていく。お笑いはそれが顕著に出るのだ。経験を積めば積むほど引き出しは充実し、他の演者との”笑いの方程式”も多くなる。

“笑いの方程式”というと難しく感じてしまうかもしれないが、例えば日常生活の中で『○○先生は甘い物の話をすれば機嫌が良くなる』とか『○○課長に旅行の話をふれば必ずあのエピソードを話す』など、誰しもやっているものである。3年目の若手芸人と25年目のベテランとでは使える引き出しの量や方程式の数が違う。

 長くやればやるほど、臨機応変に笑いを取る対応力が身につくのだ。

ただし、注意して欲しいのは、『ベテラン』と一括りにしたが、ひたすらお笑いを研究し続け、流行も受け入れて勉強している者に限る。ある時期でお笑い体内時計が止まっている芸人は、芸歴が長いとしてもこの場合の『ベテラン』には当てはまらないのであしからず。

 ちなみに前述したような、経験に基づき才能を発揮する人間を『秀才』と呼ぶ。類義語で『天才』という言葉もあるが、違いは何か――。

 簡単に説明すると天才は先天的才能で、秀才は後天的才能である。面白いことに芸人とは「天才は秀才に勝てない」職業なのだ。お笑いにおける天才と呼ばれる芸人は、往々にして天然の場合が多い。本人は意図しておらず、ただ真剣に取り組んでいるだけで笑いがおこるのだ。

 笑いを起こすことが最重要と書いておきながら、なぜ自然体で笑いを起こせる天才が秀才にかなわないのか。

 持ち前の才能だけではどうにもならないというのを立証した番組がある。

 それは”水曜日のダウンタウン”で2020年10月21日に放送された『NSC同期一の天才だった芸人、意外とくすぶってる説』という回だ。奇しくもダウンタウンさんの番組である。

 吉本興業のお笑い養成所NSCにて、同期で最も天才といわれた芸人はいまどうしているのかを調べるという企画。

 検証結果から言うとおおよそ

〇すでに芸人を辞めて一般人になっている
〇消息不明
〇インディーズバンドをやっている
〇まだ芸人を続けているが芽が出ていない

という結果だった。

 もちろん大阪35期で名前が上がったゆりやんレトリィバァや大阪26期の天竺鼠の川原など、例外的に今も活躍している芸人もいるが、ほんの一握りで、しかも番組のMCを継続してやるようなタイプでは無い。

 つまり、天才が必ずしも売れるという世界ではないとお分かりいただけただろうか。

 テレビで活躍する人たちは、間違いなく後天的な秀才である。お笑い第7世代がブームになっているが番組のひな壇に座っているのは数年前とさほど変わらない顔ぶれで”若手芸人”と呼ばれていても40代が中心である。多くの方程式を携え、経験を積んだベテラン芸人たちが才能を爆発させている証拠である。

 僕がまだ芸人をやっていた頃、大阪の番組でネタをやる機会があった。

 その際に、1999年に大阪市が指定無形文化財に指定され、「上方漫才の宝」と呼ばれた、夢路いとし喜味こいし大師匠と共演させて頂いた。

 当時すでに70歳を越えてらっしゃったお二人が、なんと番組で”新ネタ”を披露したのだ。

昔からやっている「待ってました!」と言われるようなネタではなく、まだお披露目をしていない正真正銘の新ネタだった。

 会場は笑いに包まれ、楽屋でモニター越しに見ていた僕は相方と大爆笑したのを今でも鮮明に覚えている。

 70歳を越えてもネタを書き続け、客前で披露し笑いを起こす。その姿は抜群に格好よく、感動すら覚える。『生涯現役』とはこういう人達の為にある言葉だ。

 お笑いにおいて、歳をとる事が罪なのではない。年齢など関係なく、笑いを取らない事が罪であり、むしろ若くないイコール古い笑いだと決めつける事のほうが罪である。

 ただ1点だけ勘違いして欲しくないのは、昔の漫才師のネタのほうが面白いと言っているわけではない。

 2001年から続いている「M-1グランプリ」からも分かるとおり、笑いの傾向やスタイルは日々変化し、進化し続けている。20年に行われたM-1グランプリの方が01年の第一回大会より圧倒的に面白い。すべての芸人のレベルが上がっていると断言しよう。

 ちなみに僕の考察だが、笑いに貪欲なベテラン芸人が進化し続け、若手のチャンスを摘んでしまう事を考慮し、M-1グランプリに年齢制限が設けられたのだろう。それくらい『ベテラン芸人』は面白いのだ。

 さて、最初の記事に戻るが、表面だけ見て判断してはいけない。

 面白い面白くないはどう感じても自由だが、素人がプロを評価するだけでなく、方向性を示唆することはおこがましい。

 なぜダウンタウンさんの番組が長続きし、長年お笑い界のトップに君臨しているのか?

 それはお二人が新しい笑いを受け入れ、自分たちの置かれている立場やお笑いとしての位置を考慮し変化し続けているからだ。一概に年齢という浅い物差しで測って欲しくはない。

 罪かどうかに年齢は関係ない。

 若さを武器にして勉強しないもの、年齢の高さを経験値と勘違いし向上心をもたないものが罪なのだ。

 どんな職業でも大事なものはあり、サービス業だったらお客様が満足するサービスを提供すること、教師だったら生徒の可能性を無限大に引き出すこと、プログラマーだったらシステムを正確に納品することなど。

 どの分野においても意欲をもって挑戦する姿勢を忘れないで欲しい。

 若者よ、どんな仕事であっても「生涯現役」と胸を張って言えるような姿勢で進んで欲しい。

 会社にとっての指定無形文化財になるのだ! 頑張れ!!

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